あなたがが婚約破棄の証拠として持ってきた書類、私が作ったニセモノだって気づかないんですね

カズヤ

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「この書類は、リゼリアへのいじめだけじゃない。お前の横領も告発する書類なんだよ!」

 ドルムはもはや敵愾心を隠そうともせず私に指を突きつけてきた。
 
「私が横領を? 全く根も葉もないことをよくおっしゃいますね」

 私は顔を上げ、そう返答した。

「その資料に書いてある! パーティの費用に紛れ込ませて金を抜いていただろう!」

 勝ち誇った顔で叫ぶドルム。
 私はため息を付いて資料を最後までめくった。
 ページの最後には数字が並んでいた。
 それは会計上明らかに不正な数字が移行している様子と、そして私がその委譲に関わっている証拠が細かくと提示されている。

「屋敷一つ買えるくらいの金額をせしめて! よくもこんなに抜いたものだ!」

「証言者が全員、貴方の息がかかってる執事のようですが」

 だがその証拠を証言した人間は、私と一緒にドルム王子の秘書官をやっている執事だ。
 もちろん明らかな捏造だ。
 
「……再審査を求めます。私の関係する口座、侯爵家のすべての出入金の資料をお出ししてもいい」

 潔白である自負がある私は、そう反論した。
 お金がいくら私に流れたとこじつけたとして、その痕跡を消すことは容易ではない。
 実家も、私の口座も探られて痛い腹はない。
 再審査すれば私が潔白であることはすぐにでもわかるはずだ。
 私のあくまで淡々とした態度に、ドルムは怯み、額に青筋を浮かべた。

「ぐ……ええいうるさい! 不当ではない! お前は今日ここで逮捕されるんだよ!」

「その書類に自信があるなら、そう急ぐ必要もないでしょう?」

「ここに書類があるんだぞ! この書類はお前がやったと示してる!」

「なにか急がなければならない理由があるんですか? 書類に嘘がある、とか?」

 あくまで毅然とした私の対応についにドルムはブチギレた。

「王族たる僕がこれを本物だと推してるんだ! お前がいくら足掻いてもなあ! 僕の言うことが王国では真実なんだよ!」

 有無をいわさない様子でドルムは叫んだ。
 そして、執務机にある呼び出しベルを叩きつけるように鳴らす。
 
「話はおわりだ、来い衛兵!」

 つんざくようなベルの音をききつけ、扉が開かれる。そこから10人ほど屈強な男性が入ってくる。
 さらに最後尾から特注の儀礼服を身にまとった身分の高そうな男が入ってくる。
 すべてこのタイミングのために待機させていたのだろう。

「お呼びですかドルム様」

「おお。宰相まで来たか! サリオン! この女は横領犯だ! 捕らえろ!」

「なるほど。証拠はおありですか?」

「ああ、これが証拠の書類だ! 引っ立てて投獄しろ!」

「書類をお預かりします」

 サリオンと呼ばれた男は前に進み出て、王子から書類を受け取った。
 その男は凄まじく怜悧な雰囲気をまとっていた。
 銀髪に青い瞳。その視線は氷のように冷たい。彼はその立ち振舞から『冷血宰相』という異名で呼ばれていた。
 どのような状況にも動じないその異名にふさわしい立ち振舞だった。 
 サリオンは第二王子の命令に頷き、そして。
 
「承知しました――犯罪者をひっ捕らえましょう」

 次の瞬間、サリオンはドルムの腕を素早く掴み、その手に手錠をかけた。
 一瞬ドルムはその行動に全く反応できず、ぽかんと口を開け自分の拘束された手を見て。

「え? いや、おい……サリオン。なんで、僕に手錠をかけるんだ?」

「言葉の通り、犯罪者を捕らえただけです」

「犯罪者はこの女のほうだぞ!」

 癇癪を起こす用に叫ぶ。
 それを涼しげな顔で受け流し、サリオンは肩をすくめた。

「ここにいる犯罪者は貴方です、ドルム・ロゼオール第二王子」

「はぁなんで僕が!?」

「公文書偽造による罪で貴方を拘束します」

「おいふざけるな! 書類をちゃんと読めよ!」

「ええ。ちゃんと読みますよ。その結果として、この横領金はドルム王子、貴方がやったことがバレるでしょうね」

「なっ!?」

「すべて知っていますよ。この横領金は、王子、貴方が愛人にプレゼントするために使い込んだものだ」

「お、お前! そんなことまで!?」

「“犯罪者は貴方だけ”だと最初から、私は申し上げているのですよ」

 ドルムは、サリオンに気圧され言葉に詰まった。
 完全に格付け完了といった様子。

「サリオン……貴方の言う通りになったわ」

 そして私は――共犯者に向けて口を開く。
 同時に我慢していたドルムへと失望をようやく表情に浮かべることができた。

「な……お前らまさかグルか!? 最初からすべて仕組まれていたのか!?」

 私達の様子にさすがにドルムも察したようでこちらに指を突きつけてくる。

「こんなあからさまな書類を見て、罠だと気づかない貴方にも問題はあります」

「ふ、ふざけるな! う、うう――執事が僕を裏切るなんて!?」

 サリオンの冷たい指摘に、ドルムは頭をかきむしりながら机を強く叩く。
 そんな様子を冷めた目で見ていた私は、こらえきれず呟いた。

「本当に、それすら気づかなかったんだ」

 ――言葉がこぼれ落ちた。
 
「気づかない? 僕が何に気づいてないと言うんだ!」

「ドルム、その書類の字、見覚えはない?」

「文字だと! 知るかそんなもの!」

「ああ――そう」

 返される言葉に思わず失笑が漏れた。
 心のどこかで、この程度は気づくだろうと――そう信じていた部分さえドルムは通過していった。

「だから言ったでしょうフィオナ。この男は君のことなど何も見えていないと」」

 サリオンの言葉に私は苦笑する。
 私は肩をすくめてため息を付いた。

「そうねドルムは、この書類の文字が全て“私の字”なのさえも気づかなかった」
 
「は、あ? お前の、字? 嘘だ!」

 ドルムは弾かれたようにもう一度書類へと目を移した。
 机の上には私の書きかけの書類が置いてある。
 その2つを見比べて、そしてみるみるうちにその顔が青ざめていく。

「わかった? その書類を書いたのは私なのよ、ドルム」

「お前がすべて用意しただと!? つまりこの場を作り、僕をはめたのは」

 今まですべてサリオンの手の上だと思っていたのだろう。みるみるうちに顔を青ざめさせて、ドルムは私を見た。
 その驚きの表情はどれほど私を軽んじていたのかを端的に表していた。
 私は怒りを超えて悲しくなった。どれほどまで自分は軽んじられていたのだろうと。
 だがもはや賽は投げられたのだ。
 私は哀れみを浮かべながらドルムに言葉を返した。

「そう。この茶番のおかげで貴方が手を汚した証拠を手に入れたわ」

 現行犯というやつだった。王子だからといって言い逃れできない決定的な状況である。
 自分を糾弾する文章を自分で作るのは気分が良い物ではなかった。
 だが私が適任だった。
 偽造書類を作ることなど、王子の仕事をすべて肩代わりしていた私には造作もない事だった。
 
「ふざけるなっ! いつからだ! いつから僕ははめられていたんだ!」

 目を血走らせて追求してくるドルムの言葉に、私はなぜこんなことになったかを思い出していた。

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