プリンなんだから食えばわかる

てぃきん南蛮

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「…………」
董哉が目を覚ました時、ヒートから既に3日が経過していた。

「……さっきからなんの抗議だそれは」
Tシャツにボクサーパンツ姿をのフレッドは、ベッドの足側に座って董哉の様子を伺っている。
対する董哉は、ベッドの頭側でパンツ一枚のみの状態で、シーツを被って顔だけ出している。
ヒートは熱に浮かされるが記憶が飛ぶわけではない。つまり、董哉はヒート中の醜態を全て覚えている。
絶対に最後までしないとフレッドが宣言した通り、性交は挿入までは行われなかった。悶える董哉を、フレッドは抱えるような体制で座らせ、後ろをひたすら指だけで慰めた。
発散こそされるが解放はされない地獄の様な状況で、董哉は叫んだ「挿れて、噛んで」と。
しかし、フレッドが行為を最後まで行うことはついぞなかった。指は増やせど指以外は挿れず、頸を噛んでと嘆けばフレッドは自身の腕に血が滲む程噛み付いた。
その後、エピペンタイプの抑制剤を何度も打ち込みながら董哉の相手をしたフレッドは、一旦軍事基地に戻りつつ、その後また董哉の家に戻り、ヒートが終わるまでまた慰め行為を行った。
おかげでフレッドの太腿は痣だらけ、腕も自身の噛み跡だらけ。血痕はシーツに散らばり、性行為よりも事件性を疑われる惨状だ。正直、一見だけならフレッドが被害者である。
「……手を出したこと自体は責任は取る。訴えてもいい。ただ、Dickを使ってない分の酌量の余地は……」
「別に良かったのに」
「…………あ?」
「だから、別にセックスしてもよかったって言ってる!!」
言いたいことだけ叫んで、董哉はシーツの中に顔を隠した。確認はできないが、きっと今の董哉は全身真っ赤になっていることだろう。
「……おい、好意を寄せているアルファに言う意味分かってるのか」
シーツのせいで若干くぐもったフレッドの低い声が問いかける。
そんなこと、分かってる。分かっているからこそ董哉自身も混乱しているのだ。
ヒート中は下腹を中心に煮えたぎる熱によって性快楽のことしか考えられなくなる。勿論、普段の董哉はそんなふしだらな人間ではない。ない、はず、なのに。
昨日までのヒートで、フレッドに抱いて貰えなかった事実に落ち込み、悔しがる自分がいた。
これがアルファを求めるオメガの本能なら、こんなこと知りたくなかった。オメガの本能が、ただヒート中にいてくれたアルファを求めているだけなら、こんな本能いらなかった。
もっとまともな過程で、フレッドを好きになりたかった。
董哉が自己嫌悪でシーツを握り締めると、正面のフレッドが動く気配がした。ギシ、とベッドのスプリングがした後、恐々と董哉の頭をシーツ越しに撫でる感触がする。
「……フレッドは、どうして俺を好きになってくれたの?」
バーに行ったあの日、見知らぬ女性に邪魔をされて聞けなかった疑問を投げかける。
分からなかった。アジア人嫌い、オメガ嫌いのフレッドが何故アジア人のオメガである董哉のことを好きになったのか。
「お前が初めて作った料理を俺の口に突っ込んだ日のこと、お前は覚えているか?」
覚えている。アメリカに来て初めて不満が爆発した日だ。自分の作った料理を遊び半分で小馬鹿にされたとはいえ、色々とやり過ぎた自覚はある。
「……あの時は、口に突っ込んで、ごめん」
「今更怒るかよ。俺は今まで、陰湿なくせに横暴なアジア人や、家柄目当てで擦り寄ってくるオメガしか知らなかった。だから、真正面から自分の意思を主張できるトーヤが新鮮に映った」
「…………俺、日本語で言ってたけど」
「あの場に居た日本マニアの同僚に後から意味を聞いた」
董哉の体がギシリと軋んだ。まさか、あの日捲し立てたことがフレッドに伝わっているとは思わなかった。
「『食は作るのも、食べるのも平等の権利』……お前らしい言葉だ。そしてこの国で、真正面から権利の主張をできるお前が、心底輝いて見えた」
「……今となっては恥ずかしい」
「俺が褒めてるんだ、誇れ。あとはお前の料理を食べてるうちに……胃袋を掴まれるってよく言うだろ?」
……掴んでたのか。フレッド個人の胃袋を掴もうとしたつもりはなかったが、確かにフレッドは、アメリカで1番初めに董哉の料理を認めてくれた。
もそりと、シーツから顔を出すと、存外近くにフレッドはいた。ちょっと腕を伸ばせば抱きつけそうな距離に少し臆したが、伝えるなら今だと思った。
「俺は、アメリカに来て初めてフレッドに料理を褒めて貰えて、嬉しかった」
気恥ずかしさからなあなあにして、伝えるのを避けていた。日々の感謝をぶちまければ、フレッドは目を見開いてから、グッと目を細めて笑った。
「なぁ、トーヤ。俺はお前をお子様だなんて思ってない。Sugarは言葉のあやってやつだ」
「いや、俺も悪かったよ……バーの一件はヤケになってた」
「いいや、お前は分かっちゃいない。あれはバカにする為の言葉じゃない。sweetやhoney、darlingみたいな意味合いなんだ」
「……ん?」
スイート、ハニー、ダーリン。これらの言葉の共通点は、愛しい人を呼ぶ際に使われるスラングであること。
……そしてsugarの真意に行き着いた董哉は、顔を真っ赤にして両手で顔を覆った。
「ごめんなさい…………」
過去一か細く情けない謝罪に、フレッドも声をあげて笑い出した。
知らなかった。身内や日本にsugarをそんな意味合いで使う人はいなかったし、アメリカでは愛の言葉とは無縁の立ち位置ばかりにいた為聞く機会がほとんどなかった。
愛する人扱いされた照れよりも、己の無知でフレッドを困らせていた恥ずかしい失敗の方が心境を占めていた。
「ついでにデーティングについても確認しておくか」
「デーティング?」
曰く、相手が恋人として付き合うに相応しいか見極める期間を設ける文化があるらしく、それをデーティングと言うらしい。デーティング期間は、まだ正式な恋人同士ではない為、他の人と付き合っても世間的には問題ないらしい。
全く知らなかった文化に、董哉は開いた口を両手で覆った。
「俺、誰かと付き合うつもりでアメリカ来たわけじゃなかったから……日本にはデーティングなんてないし、告白してOK出たら即恋人同士だから……」
「調べたらから知ってる。だから、俺もお前に合わせる」
「え?」
意味を聞き返すよりも早く、まだシーツを握っていた手をフレッドが取り上げて、握りしめる。フレッドの指先は、驚く程冷たかった。

「Would you like to go out with me?」

ここまで来て、その言葉の意味がわからない董哉ではない。いつか想像していた時よりもロマンティック性は欠けるけど、今はこれだけで十分だ。
「Of course.」
安心させるように冷たい手を握り返した。



「やっぱりお前みたいな真っ直ぐなタイプは物事をハッキリ伝えないとダメだな。『The proof of the pudding is in the eating.』とは言ったもんだ」
やっとこさ董哉と恋人になれたフレッドは、上機嫌で董哉を後ろから抱きしめている。董哉としてはヒート中を思い出して気恥ずかしいのでやめてほしかったが、これだけは譲って貰えなかった。
「プリン?」
「ブリテンのことわざだと。意味は……『理屈を捏ねる前に行動に移せ』だ」
「絶対に嘘だ」
「大体合ってるから良いんだよ」
2人が周囲に交際を公表するのは、これからまた半年後の話である。



プリンなんだから食えばわかる



【The proof of the pudding is in the eating.】
直訳:プリンの味は食べてみなければわからない。
意味:どんな評価も、自分で確かめなければ分からない。
類語:論より証拠
 
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みんなの感想(1件)

Hiko
2024.08.06 Hiko

続編待ってます!

2024.08.06 てぃきん南蛮

まだこちらは完結していないので続きます!!!
よろしくお願いします!!!

解除

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