妹が聖女に選ばれたが、私は巻き込まれただけ

世川 結輝

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24, 責任

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 クロッセスの声は怒りを含んだものではなく、ただ淡々と現状の報告を望む声であった。それに応えるようにペネが口を開く。

「トアが急に帰ってきたと思ったら、セイナに剣を振り下ろして、それを見たセイナがここに居させてくださいって跪いた」

 現状の説明をしてくれたのはありがたかったが、その説明では言葉不足に思う。私は慌てて言葉を付け足す。
「土下座は私が勝手にやったの。これは全面的に私が悪いから」

 それを見たクロッセスはしばらく考えたあと、剣を抜いたまま魔法で止められたトアセスに視線を向けた。
「どんな事情であろうと騎士が私情で人を殺そうとしたなら殺人罪だ。トアセスのその行動は見過ごせない。後で罰を受けなさい」
 クロッセスがそう言うとトアセスは私に聞こえるほどの音で舌打ちをした。
 それを聞かないふりをしてクロッセスは言葉を続ける。
「そして、ここにセイナを置いていることに関してトアセスがセイナを責めたのなら、それは違う。セイナをここに置くのは私の判断だ。トアセス、責めるならば私にしなさい」
 クロッセスがそこまで言うと、ペネはパチンと指を鳴らした。それと同時に糸が切れたようにトアセスは動き出す。
「俺があんたを責めない日はない。これまでも、これからも」
 そう言うと屋敷の奥へ歩いていく。
「アルバート、風呂に入る!」
 そう叫ぶとアルバートがトアセスに駆け寄って行くのが見えた。
 その姿が見えなくなるとクロッセスは跪く私に手を差し伸べた。
「すまなかった。驚いただろう」
 優しくこちらを伺う眼差しに少しほっとする。
「いえ、さっきも言った通り私のせいだから」
 私のその言葉に2人が何やら否定の言葉を並べていたが、その言葉を聞きたくない私の耳には届かない。

「兄様! 大丈夫ですか?」
 少し遅れてようやくアルーセス駆けつけた。
「トアがセイナに剣を振り下ろした」
 ペネがそう言うとアルは、目に見えるほど顔を真っ赤にして憤慨した。
「あいつ、剣術学校で何を学んだんだ」
 私はそう声を上げるアルをくすりと笑った。ペネと同じことを言っている。

「これから少しづつ仲良くなるよ。もしなれなくても、この家にいさせてもらうことを許してもらわないと。もう一度交渉に行くよ」
 私はそう言って笑ってみせる。
「セイナさんが無理をして歩み寄る必要はありませんよ。あいつはほんとに今気が触れてるんです。気にしないでください」
 アルはそう言うがそういう訳には行かないだろう。
 いつか、ふと考えたことを思い出す。この兄弟の間を取り持ってあげられたら。

 やはり少しお節介だろうか。


 今度はクロッセスとアル、ペネの3人に部屋まで送られる。その道中私は思い出したように口を開いた。
「そう言えば、ペネがさっきいい剣術の先生が見つかったって言ってたけど、それってもしかしてトアセスのこと?」
 私の言葉にクロッセスとアルはえ、っと声を上げて驚く。そしてその後ろのペネが頷けば、今度はペネの方を振り返り目を丸くして見つめた。

「セイナさんは剣術を習おうとされているのですか?」
 アルの言葉に私は大きく頷く。
「うん、王宮に狙われていることもあるし、今後の魔獣討伐のこともあるし、力をつけておいて損は無いと思って剣術と魔法も習おうかと思ってて」
「習う、必要は、ないと思うが……」
 珍しくクロッセスが言葉をつまらせながら言う。目尻が下がっているのが先程のペネのようで微笑ましい。

「それでも決めたから」
 私がそう言えばクロッセスとアルは「そう」と寂しそうに頷いた。
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