妹が聖女に選ばれたが、私は巻き込まれただけ

世川 結輝

文字の大きさ
29 / 39

26, 魔獣

しおりを挟む
 その時、先程とは比べ物にならないほどの物音が聞こえてきた。薮を書き分ける音と共に、どすんどすんと、大きな足音がする。子犬はまたも震えだし、しっぽを丸めた。
 これはこの世界に詳しくない私でもわかる。魔獣の気配だった。
 木々の隙間から光る赤い目が見えた。

 走れない子犬を抱き抱え森をかける。後ろからドスンドスンと追いかけてくる生き物が、3mくらいある熊だと認識したのはつい数秒前だった。
 いや、それは熊と言うにはおこがましいほど、大きく凶暴で恐ろしかった。今にも足がもつれて倒れてしまいそうなのを、堪えて必死に走る。
 どこに向かえばいいのだろうかと、ふと考えた。こんなものを連れて屋敷に戻ると、時間も時間で大騒ぎになりかねない。何より私の勝手であの人たちに迷惑をかけるのは避けたい。だからといってこのまま奥に進めばほかの魔獣とエンカウントしかねない。ならば、と私はその場に立ち止まった。
 子犬を足元におろし、「逃げなさい」と言い剣を構えた。子犬は後退りをしながら藪の中に入っていく。
 私は突進してくる大熊を剣でとめた。

 止められる訳もなく、私は大きく後ろに吹っ飛び、木の幹に頭をうちつけていた。数秒の気絶のあと目を開けると熊が目の前に股がっていた。大きな爪がこちらに下ろされる。剣をかまえ何とか当たる前に防ぐが、力くらべとなれば数秒も持たない。覚悟を決めた時、小さな衝撃とともに熊がぐらりと傾いた。
 私の傍には先程逃がしたはずの子犬がいた。この子が熊に突進して私を助けてくれたらしい。一食の恩を忘れないとはできた子犬だが、こんな小さな子があの大熊に勝てるとは思えない。
 案の定熊は体勢をたてなおし、こちらに向かってくる。またこの子を抱えて逃げようとすると、右足にずきりと痛みが走った。後ろに吹っ飛ばされた時に捻ったのだろう。このままでは走ることも出来ない。振りかぶられる熊の爪に子犬を抱きしめ身構えた時、どこからかため息が聞こえた。

「ほんとばかだろ、」

 その言葉が聞こえた瞬間目を開けると、熊は胴が真っ二つになった状態で地面に倒れていた。弾けた鮮血が、アルーセスのお下がり服を汚した。私の前には血まみれの顔を袖で拭いながら、剣を収めるトアセスが立っていた。

「あーあ、ペネ兄に怒られる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます! 会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。 一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、 ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。 このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…? 人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、 魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。 聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、 魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。 魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、 冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく… 聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です! 完結まで書き終わってます。 ※他のサイトにも連載してます

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...