柘榴話

こはり梅

文字の大きさ
3 / 4

ちくわこんにゃくうぉー

しおりを挟む
 時刻は午前一時、真夜中。
 会社の飲み会で遅くなってしまったが、幸い明日の仕事は休みだった。
 なので、同じマンションに住んでいる同僚と、駅前のおでん屋台に寄って、もう一杯だけ飲もうとなった。

 屋台の店主のおじさんにそれぞれ、好きなおでんの具と冷酒、お猪口を二つ頼んで受け取る。

 男二人、互いに冷酒を注ぎ合って、小さくそれをチンと打ち付けて、「乾杯」とこれまた小さく呟いた。

「大根って、どうしてこんなに味が染みるのかね」
 連れは箸で大根を持ち、目の前でじっくりと眺めていた。

「それはね『拡散』って言って、 煮られると大根の細胞膜の機能が低下して……」
「やめろ、酒が不味くなる」
 僕が説明してやろうとしたら、連れが横目で僕を見ながら、説明を遮ってきた。

 僕は理系で、連れは文系だったので、この手の話は苦手のようだ。
「なあ、おでんの具で何が一番好きだ?」
 顔は真っ正面、アゴをしゃくれさせ、肘を付きながら、お猪口だけを傾けて、お行儀悪く冷酒を飲んで連れが聞いてきた。

「おでんの具で、ねぇ……」
 一通り思い浮かべてみる。
 大根、たまご、ごぼう巻、ちくわ、はんぺん……。
 うぅ、練り物はちょっと苦手だ……。
 他には、ん~、あっ!

「こんにゃく!」
 つるつるとした舌触り、歯で少し噛むと押し返してくるほどの弾力。
 ぷにぷに? ぶにぶに?
 なんとも言えないあの食感。
「僕は、こんにゃくが一番好きだなぁ。おじさん、こんにゃく頂戴」
 しみじみと答えながら、こんにゃくを貰い、一口食べる。
 独特な食感を楽しみながら、お猪口の中の冷酒をクイッと飲み干す。

「俺、こんにゃく苦手だな~、あの食感がダメだ~」
 あの食感が良いと言うのに、なんて奴だ。
「僕の好物をそう邪険にするなよ、そういう君は何が好きなのさ」
 別になんとも思っていなかったが、パフォーマンスでムッとした表情だけ作り、今度は逆に質問してみた。

「俺は『ちくわ』一択だね!」
 即答だった。
 しかも、よりにもよって『ちくわ』か。
「僕、ちくわ苦手」
 さっきの仕返しのつもりだったのか、僕自身も不確かだが、連れの方は向かずにボソッと言ってみた。
 「「……」」
 少しの間、静寂が流れる。
「いや、うまいだろ、ちくわ」
 静寂を先に破ったのは連れの方だった。
「ちくわ旨いだろ!普通のちくわと違って、ちょっと焼き目があって、 つゆ吸ってやらかくなって、旨いじゃん!」
 力説だった。
 話を聞くだけであれば、確かに美味しそうに聞こえなくもないが。

「いや、僕はその柔らかいのが苦手で……」
「こんにゃくなんて食感だけじゃん、味しないし!」
 やばい、連れの何かに引っ掛かったのか、スイッチが入ったのか、熱量が上がっている。
「いや、こんにゃくは食感が楽しいんだよ!それに少し煮汁と一緒に食べれば、味もしっかりするし、美味しいんだって」
 酔っ払っているのか、僕も少し語調が強くなってしまったかもしれない。
「味しないのが良いんかっ」
「いや、そうじゃなくて」
 やばい、収拾が付かなくなってきた。
 あーでもない、こーでもないを二、三往復した後で僕が咄嗟に。
「お、おじさん!」
 僕がバッとおでん屋台の店主のおじさんを見る。
「おじさんはおでんのプロだから、おじさんが美味しいと思うものが一番旨いんだよ!」
 なんとも苦し紛れだ。
 こんなので納得する奴なんか居るのだろうか。
「たしかに」
 いた。

 おじさんはお玉で煮汁を掬っては、繰り返しおでんの具に掛ける動作をピタッと止めると、僕ら二人をジーッと見つめた。
 再び静寂に包まれる屋台。
 さっきまでお互い向き合って、やんや言い合っていた僕と連れも、おじさんの方を向きジーっと答えを待つ。

「ころ」
 その時は突然訪れた。
 おじさんの返答だった。
「ころ、ですか……ころ?」
 僕は聞き慣れない単語を反復し、脳内の引き出しから該当する答えを探そうとしていた。

 ころ、ころ……と僕が呟きながら考えていると、連れが突然スマホを取り出し、カタカタとネットで検索を始めた。
「あ、これだ、あったぞ『ころ』」
 連れは僕にスマホを向けながら検索結果を見せてきた。

『ころ』
 クジラの皮・皮下脂肪の部分。
 鯨油でカラカラに揚げたもの。
 出汁を吸わせたものがおでんの具として食べられる。

 書いてあった検索結果を読み上げ終わる。
 僕と連れはスマホを見ていた顔をゆっくりと上げて、そのままおじさんの方を見た。

「「『ころ』ありますか?」」
 どうやら考えていたことは一緒だったようで、口を揃えておじさんに聞いていた。
「あるよ」
 お玉を差し出すおじさん、その中には串に刺されて、プルプルしていて、串の先っぽの方にだけ黒い皮が付いたものが入っていた。
 これが『ころ』。

 連れと僕はそれを受け取ると、ゆっくりと口に運ぶ。

 見た目通りのプルプルとした食感。噛んだ感じはふわふわとしていて、なんとも不思議な感覚だった。
 おでん汁も染みていて、噛むと中からジワァっと染み出してくる。
「「旨ぁ……」」

 しみじみと漏れたこの一言をもって、僕と連れのおでん戦争は、『ころ』が漁夫の利を攫う形で終結した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

【1話完結】5分で人の怖さにゾッとする話

風上すちこ
ホラー
5分程度で読める1話完結のショートショートを載せていきます。主に、ヒトコワなホラー話です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

処理中です...