一基当千ゴーレムライダー ~十年かけても動かせないので自分で操縦します~

葵東

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第八章 大精霊契約者vs.大精霊の親友

グラン・ノームの采配

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 車内に頭だけ入れたグラン・ノームは、淡々と報告する。
「我が影響下にないゴーレムは二列横隊、前が十、陣地を挟んで後ろが二十」
「三十基も!?」
 大隊長たちは目をいた。
「そんなに鹵獲ろかくされたのか!?」
「せいぜいその半分と思っていたが」
「マルヴァド軍の残党が合流したのでしょう。南東からの混成軍のように」
「大王都から北は全て制圧したのではなかったか?」
 敵ゴーレムが想定の二倍もいたが、作戦は続行された。
 シノシュは言われるまま、土の大精霊に指示する。
「全ゴーレム停止。中央は二列横隊を維持。左右両翼は二列縦隊。陣形変更次第、前進」

 こうして戦いの幕が切って落とされた。
 陣形を変更した軽量型ゴーレムが百基、地響きを立てて前進を再開する。
 左右に分かれた騎兵が両側から追い抜き、敵陣を大きく包みにかかった。
 騎兵は陣地攻撃には加わらない。
 逃げる敵コマンダーを捕捉するのが役割だ。

 クリムゾン・レンジャー百基が敵陣へと迫る。
 その状況は敵シルフが起こした砂嵐によって、分遣隊司令部のゴーレム車からは見えない。
 グラン・ノームが土を介して「視る」のが頼りだ。
「我が方の前進に問題なし。敵ゴーレムに動きもない。間もなく接触する」
「作戦通り、中央は敵前列を押えろ。左右両翼内列は側面を押え、外列は敵陣後方に回れ」
 敵陣を包囲するのが作戦の第一段階である。
 内側をゴーレム、外側を騎兵によって二重に。

 そして中央前列のクリムゾン・レンジャー三十基が、敵ゴーレム十基に到達した。
 三十基が両手で戦槌を振り上げ、同時に攻撃する。
 音こそ暴風にかき消されたが、命中時の衝撃は大地を伝わりゴーレム車に届いた。
(?)
 違和感を抱いたのはシノシュだけらしい。
 大隊長らは、地図上の駒を動かし、あーでもない、こーでもない、と議論していた。
 違和感の理由は「衝撃が一度だった」ことである。
 同期攻撃は、グラン・ノームが采配する帝国軍だから可能なわざだ。
(敵には不可能なはず)
 パトリアにもリスティアにも、土の大精霊契約者はいない。
 たとえ隠していたとしても、この戦場にいたらオブスタンティアが気付かないわけがない。
 シノシュの思考は、その大精霊によって妨げられた。
「右翼の先頭二基が破損、転倒した」
「迂回して進め! 敵を包囲するのだ!」
 特殊大隊長の命令をグラン・ノームに、シノシュは遅滞なく伝えた。
 一度引っ込んだオブスタンティアが、すぐまた頭を車内に入れる。
「左翼の先頭二基が破損、転倒した」
「敵ゴーレムは?」
「元の位置から動いていない」
「罠を見過ごしたのではないか?」
「落とし穴などの地形変更はない。陣地を溝と土盛りで囲んでいるが、まだそこまで行っていない」
「何があった?」
「不明だ」
 三人の大隊長は「投槍にしては命中精度、威力ともに高すぎる」と首をひねる。
 とにかく動けるゴーレムに「停止基を迂回して進め」と命じた。

 だが――

「右翼、迂回したゴーレムの先頭二基が破損、転倒した」
「さらに迂回しろ!」
「左翼、迂回したゴーレムの先頭二基が破損、転倒した」
「そっちも迂回だ!」
「敵後列、中央二基を残して左右に分かれた。陣地を回りこんでくる」
「止まったレンジャーを早く動かせ!」
「まだ補修が終わらない」
「どこをやられた!?」
「不明だ」
「ではなぜ破損と分かる?」
「急に重量が減った。転倒した。動けないときの合図をした」
「破損箇所を報告させろ!」
「土中にいないノームには不可能だ」
 レンジャーを預かる偵察大隊長二人がいきり立つ。
 一方で指揮官の特殊大隊長は青ざめていた。
「おかしい。人間と違ってゴーレムに痛覚はない。手を失おうが頭を失おうが、前進はできるはずだ」
 それが既に八基も破損により停止しているのだ。

 しかも、ほぼ同時に二基ずつ。

「敵は、遠距離武器でレンジャーの足を破壊しているのではないか? たとえば大型弩バリスタで」
 偵察大隊の先任大隊長が答える。
「停止目標でなければ、そうそう当たる物ではない。しかも同時に二基とは」
「大型弩はどこにある?」
 と大精霊に尋ねる。
「不明だ」
「操作にはゴーレムが必要だ。二倍級くらいのゴーレムがいるはずだ」
「人間より重いのは、ゴーレム車と付随するゴーレムくらいだ」
 その時、大隊長らは気付いた。
 グラン・ノームが作戦目標について何も報告していないことに。

「新型ゴーレムは、どこにいる?」

 改めて尋ねると「不明だ」との答え。
「他より軽いゴーレムがいるはずだ!」
「誤差はあるが、三十の全てが七倍級ゴーレムの重さだ。先日確認したほど軽いゴーレムはない」
「いないはずがない! シルフの群れが暴風を吹かせているのだぞ! ここにグラン・シルフがいるはずだ!」
「風精の居場所など、土精に分かるはずがなかろう」
「まさか……」
 蒼白になった大隊長は、うめくように言う。

「敵の新型は……本隊へ向かったのか?」

 騒然となったゴーレム車内で、一人シノシュは沈黙を続けていた。
 口を開くのは、グラン・ノームに指示するときのみである。
 分遣隊出発前に彼は、土の大精霊に指示をしていた。
 敵新型ゴーレムを探知したら「他の何を置いても即座に知らせるように」と。
 だのに戦闘を開始した今になっても、まだ報告がない。
 となれば答えは一つ。
(この陣地は囮だ)
 敵前列の反撃でレンジャーに損害が出ていないのも、陣地の目的が「時間稼ぎ」なら説明できる。
 気になるのは、接近せずに同時に二基ずつ行動不能にしていることだ。
 少年が最初に思いついたのは仕掛け罠である。
 グラン・ノームに気付かれないよう大型弩を地上に仕掛けておいて、渡した綱に引っかかったゴーレムの足に矢を撃ちこむ、くらいは難しくはない。
 陣地を包囲する作戦を見抜き、通る場所を読む必要はあるが。
(グラン・ノームによるゴーレムの集団運用を、最初に実践した国なら可能か)
 当初はここで本隊を迎撃するつもりだったのだろうが「分遣隊に気付いて作戦を変更した」としても不思議ではない。
(何しろパトリアの新型は、圧倒的な機動力で戦場を選べるのだからな)
 女神像のようなゴーレムが走る様は、シノシュの目に焼き付いていた。

 作戦の前提が崩れたと見て、大隊長らは決断した。
「本隊に帰還する。だがその前に、追撃を避けるために敵コマンダーを始末する」
 そして切り札を出した。
「大地の怒りを、敵陣に撃ちこめ!」
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