154 / 187
第八章 大精霊契約者vs.大精霊の親友
対グラン・ノーム戦
しおりを挟む
五日ほど前――
パトリア軍の司令部からルークスにシルフが来た。
「たった半日の時間稼ぎの代償に、イノリの重さをグラン・ノームに教えるなんて気前が良すぎます」との苦言であった。
山ごもりした際にルークスがイノリを精霊たちに任せ、帝国軍を足止めさせたと聞いたプルデンス参謀長は「両手で頭を抱えて悲鳴をあげた」らしい。
「その失敗を逆に利用しちゃうんだから、凄い人だよね」
水繭の中でルークスは苦笑した。
イノリは今、パトリア・リスティア連合軍陣地の背後に、十九基の鹵獲ゴーレムと並んでいる。
帝国のグラン・ノームが路上のゴーレム車近辺にいるなら、探知範囲に入っているはずだ。
だが恐らく敵は「この陣地に新型ゴーレムはいない」と思っているだろう。
パトリア王国でグラン・ノームによるゴーレムの集団運用を編み出したのは、ルークスの父ドゥークス・レークタである。
ゴーレム大隊の生みの親とも言えるドゥークスは、グラン・ノームの活用法と並行して「敵グラン・ノームの対抗策」も研究していた。
土の大精霊ともなると、土中のかなり遠方からゴーレムなどの重量物を「地面への圧力」として認識できる。
それどころか、それを制御するノームの識別さえ可能と判明した。
言わばゴーレムは、足の裏に名札を付けているようなものなのだ。
その能力を逆手に取り、ゴーレムに等しい重量物をノームに造形させるとどうなるか、実験が行われた。
ドゥークスの契約大精霊は、まんまとダミーをゴーレムと誤認した。
その事実を彼は、当のグラン・ノームに教えなかった。
自分の死後「彼女が他国の精霊士と契約した際、対抗策が漏れないように」と。
息子なら絶対にやらない「自分の精霊をあざむく」を父親は実行したわけだ。
その成果が今、息子の前で繰り広げられている。
パトリア軍は陣地正面に、十基のダミーゴーレムを置いていた。
四つ足の土塊で核どころか呪符さえなく、ノームはいるが動かせない。
その形も、かろうじてシルエットがゴーレムっぽい程度で、よほど遠方か夜間でなければ「一目で偽物と分かる」代物だ。
だが土中からグラン・ノームが見ると「四つん這いになったゴーレム」となる。
そして陣地に攻めてきた帝国軍別動隊にグラン・ノームがいることは、三十基のレンジャーが同時に攻撃したことで確認された。
レンジャーを操るノームたちはダミーが「ゴーレムではない」と分かるはず。
だのに攻撃を続けているのは「グラン・ノームによる敵味方識別」が優先されているからだ。
間違いだと教えようにも、ゴーレム内は「地上」なのでノームたちは連絡できない。
戦闘ゴーレムは、コマンダーなりグラン・ノームに指示されるだけで、返答はできないのだ。
そのためレンジャー三十基は「崩れて土盛りと化した」ダミーを延々と叩き続ける羽目に陥った。
ダミーにノームが残っているために。
破壊されたゴーレムからはノームが抜ける。
残骸に残っていても何もできないが、コマンダーの元に帰れば地形変更などで貢献できるからだ。
だからノームが残っている限り、グラン・ノームは「敵ゴーレムは健在」と認識してしまう。
元よりゴーレム戦などできないレンジャーなのだから、敵を撃破できなくても不思議ではない。
せいぜい「味方の損害が少ない」のが不思議がられるくらいだろう。
ダミーは夜間しか役に立たないし、事前に偵察されたら露見するなど制限が多すぎるので、ゴーレム大隊でも半ば忘れられていた戦術だ。
だが当時、軍学校から派遣されていた教師は覚えていた。
その後参謀本部に転属したセンティアム・ラ・プルデンス参謀長である。
ゴーレム大戦時、家人出身の痩せ男は、軍制改革を聞くや大学を飛びだして志願した変わり種だ。
当時高等数学を解する軍人などおらず、彼の初仕事は将校らに数学を教えることだった。
そして経費節減で認められると、彼は軍学校の設立を具申した。
人材育成が最優先課題との意見は先々代の国王に認められ、二十代で軍学校の教師に抜擢されたのだ。
そして九年前のリスティア戦の責任で参謀長が辞任すると、後任に就いた。
彼は制限だらけのダミーも、希代の風精使いルークスがいれば「活用できる」と過去の記憶を呼び起こしたのだ。
さらに「ダミーに乗せればイノリを隠せる」と思いついたのも彼だった。
ルークスはダミー自体は知っていた。
演習で敵ゴーレム役を務める姿なら、幾度となく見ている。
あまりに不出来なので「これで良いの?」と尋ねたこともある。
その答えは「あれで良い、と分かれば一人前だ」だった。
新前コマンダーと一緒に首をひねっていたが、やっと本当の役割が分かった。
彼はずっと空から見下ろすシルフの視点しか持っていなかった。
土中から見上げるノームの視点が必要だったのだ。
そのルークスが駆る新型ゴーレムのイノリは、ノームが造形した台に乗っていた。
四つ足が地面にかける合計荷重が七倍級だから、グラン・ノームにはゴーレムの一基にしか見えないらしい。
ルークスはイノリの性能を見せつけることで、敵の将兵の戦意をくじいた。
対してプルデンス参謀長は「所在不明にする」ことで敵を怯えさせる作戦だ。
怯えさせるのは群れではなく、指揮官一人である。
司令部への奇襲を恐れ、帝国軍は本陣の守りを解くことができない。
その結果、戦力の分散という望外の戦果を挙げたのだった。
イノリの隣には七倍級の「作業ゴーレム」がいる。
向こう側の台に自ら飛ぶ矢を並べ、サラマンダーの娘が熱したら渡す役割だ。
イノリは右肩に据えたレールに矢を乗せ、陣地前に並ぶダミーを避けてくるレンジャーに向けて放った。
水蒸気の尾を引いて飛ぶ矢はシルフの誘導により、軽量型ゴーレムの下腹部に深々と刺さる。
急停止の衝撃で矢柄内のガラス瓶が割れ、閉じ込められていた水蒸気が一気に膨張、圧力で矢柄を破裂させる。
矢柄は刻まれた溝に従い切断されると同時に放射状に裂け、土中に留まり圧抜けを防ぐ。
行き場をなくした蒸気圧は、矢柄もろとも周囲の土を四散させるのだ。
股関節周りの筋肉を失ったレンジャーは、体を支えられず転倒、行動不能になる。
(火炎槍でやれたことなら、自ら飛ぶ矢でも可能かも)
ルークスの読みは的中し、新兵器は見事に敵の足を止めた。
ダミーの左を通過しようとした二列縦隊の先頭を二基とも行動不能にすると、イノリはレールをダミーの右側へ向ける。
同じように二矢放ち、二基を足止めした。
誘導担当シルフが、強風担当に負けじと頑張ってくれるので一発必中である。
擱座した僚基の左側を通ろうとするレンジャー二基を、ルークスは三本の矢で大破させた。
一本は外れたのではなく、命中前に破裂したのだ。
「今のは加熱しすぎだ。カリディータ、加減して」
加熱担当のサラマンダーが「応よ」と答えた。
彼女は、台に並べた矢を一人で炙っている。
他のサラマンダーがいると温度を一定にできないので、一人で熱管理しているのだ。
最適な温度を模索するのも、彼女の役割だった。
自ら飛ぶ矢はアルティと共に二十、次の船で三十本届いている。
今あるだけで、半数のレンジャーを行動不能にできる計算だ。
イノリと相性の悪い軽量型ゴーレムを、決戦前にまとめて始末できるので、ルークスは上機嫌である。
(あるいは、この別動隊との戦いが決戦になるかも)
左右四基ずつレンジャーを大破させたところで、作戦の第二段階に入る。
イノリと共に後列に並んでいた、十八基のゴーレムが左右に移動を開始した。
鹵獲ゴーレムについて、二国は協定を定めている。
帝国軍のバーサーカーと、マルヴァド軍のグリフォンはリスティアで、レンジャーはパトリアと。
ゴーレム戦では戦力外のレンジャーをリスティアは欲しないので、ありがたくルークスは全部もらうことにしたのだ。
パトリア王国が内骨格ゴーレムを作るにあたって、手本があればゴーレムスミスたちの苦労が減る。
球体関節などの重要部品は流用する手もあるので、レンジャーはいくらあっても困らない。
バーサーカーについては研究用に武具を回収したので十分だし、グリフォンは後日マルヴァドが返却を要求するのは確実なので、もらっても面倒が増えるだけ。
それにグリフォンの一級品武具はパトリア製なのだから、今さら研究する必要もない。
そのためここでパトリア軍が使っているのは、鎧を外し土を増加して従来型と同程度の腕力を持たせた改造レンジャーである。
鎧がないので従来型との戦闘は無理だが、原型レンジャーなら圧倒できる。
自ら飛ぶ矢が行動不能にしたレンジャーは二十を数えた。
動けなくなった軽量型に味方ゴーレムが到達、破壊を始める。
予定通りの展開に、ルークスだけでなく精霊たちにも楽観の空気が流れた。
突然、イノリ内部に金属音が響いた。
「何か当たっ――」
言葉を発しかけたルークスの肺から、空気が絞り出される。
水繭に穴が空き、高圧空気が流れこんだのだ。
リートレがすぐ穴を塞いだものの、高まった圧を抜くことはできない。
水繭の周囲はより高い気圧なのだ。
水繭はイノリの背中内面に密着している。
ウンディーネが外部へ通じる穴を空けるまで、精霊たちは恐慌状態になっていた。
「主様、ご無事で!?」
「ルールー!? ルールー!!」
「どうしたんだ、ルークス!? 返事をしやがれ!!」
気圧が戻ってやっとルークスは呼吸を取り戻した。
「何が……あったの?」
「何かが胴体を貫通したわ。それ以上はわからない」
リートレの声が上ずるのを、ルークスは初めて聞いた。
再び金属音がした。
イノリの鎧兜に何かが当たり、火花を散らす。
「!?」
ルークスは、何かが作業ゴーレムの頭部に当たるのを見た。
剥き出しの土に突き刺さっているのは、金属片だった。
鉄板らしいが、かなりひしゃげたらしく湾曲している。
「あるいは……元が板状ではなかったか……」
ルークスの脳内で不吉な情報が浮かび上がる。
「金属が――破裂した!?」
真っ先に自ら飛ぶ矢に目が行く。
台上ではカリディータが心配そうに見上げている。
並べられた矢はどれも無事だ。
それに台は作業ゴーレムの右側にある。
たとえ矢が破裂したとしても、破片が正面に刺さるわけがない。
「味方じゃなければ、敵――」
めまぐるしく働くルークスの脳が何かが何か答えを出した。
「これが、大地の怒りか!?」
パトリア軍の司令部からルークスにシルフが来た。
「たった半日の時間稼ぎの代償に、イノリの重さをグラン・ノームに教えるなんて気前が良すぎます」との苦言であった。
山ごもりした際にルークスがイノリを精霊たちに任せ、帝国軍を足止めさせたと聞いたプルデンス参謀長は「両手で頭を抱えて悲鳴をあげた」らしい。
「その失敗を逆に利用しちゃうんだから、凄い人だよね」
水繭の中でルークスは苦笑した。
イノリは今、パトリア・リスティア連合軍陣地の背後に、十九基の鹵獲ゴーレムと並んでいる。
帝国のグラン・ノームが路上のゴーレム車近辺にいるなら、探知範囲に入っているはずだ。
だが恐らく敵は「この陣地に新型ゴーレムはいない」と思っているだろう。
パトリア王国でグラン・ノームによるゴーレムの集団運用を編み出したのは、ルークスの父ドゥークス・レークタである。
ゴーレム大隊の生みの親とも言えるドゥークスは、グラン・ノームの活用法と並行して「敵グラン・ノームの対抗策」も研究していた。
土の大精霊ともなると、土中のかなり遠方からゴーレムなどの重量物を「地面への圧力」として認識できる。
それどころか、それを制御するノームの識別さえ可能と判明した。
言わばゴーレムは、足の裏に名札を付けているようなものなのだ。
その能力を逆手に取り、ゴーレムに等しい重量物をノームに造形させるとどうなるか、実験が行われた。
ドゥークスの契約大精霊は、まんまとダミーをゴーレムと誤認した。
その事実を彼は、当のグラン・ノームに教えなかった。
自分の死後「彼女が他国の精霊士と契約した際、対抗策が漏れないように」と。
息子なら絶対にやらない「自分の精霊をあざむく」を父親は実行したわけだ。
その成果が今、息子の前で繰り広げられている。
パトリア軍は陣地正面に、十基のダミーゴーレムを置いていた。
四つ足の土塊で核どころか呪符さえなく、ノームはいるが動かせない。
その形も、かろうじてシルエットがゴーレムっぽい程度で、よほど遠方か夜間でなければ「一目で偽物と分かる」代物だ。
だが土中からグラン・ノームが見ると「四つん這いになったゴーレム」となる。
そして陣地に攻めてきた帝国軍別動隊にグラン・ノームがいることは、三十基のレンジャーが同時に攻撃したことで確認された。
レンジャーを操るノームたちはダミーが「ゴーレムではない」と分かるはず。
だのに攻撃を続けているのは「グラン・ノームによる敵味方識別」が優先されているからだ。
間違いだと教えようにも、ゴーレム内は「地上」なのでノームたちは連絡できない。
戦闘ゴーレムは、コマンダーなりグラン・ノームに指示されるだけで、返答はできないのだ。
そのためレンジャー三十基は「崩れて土盛りと化した」ダミーを延々と叩き続ける羽目に陥った。
ダミーにノームが残っているために。
破壊されたゴーレムからはノームが抜ける。
残骸に残っていても何もできないが、コマンダーの元に帰れば地形変更などで貢献できるからだ。
だからノームが残っている限り、グラン・ノームは「敵ゴーレムは健在」と認識してしまう。
元よりゴーレム戦などできないレンジャーなのだから、敵を撃破できなくても不思議ではない。
せいぜい「味方の損害が少ない」のが不思議がられるくらいだろう。
ダミーは夜間しか役に立たないし、事前に偵察されたら露見するなど制限が多すぎるので、ゴーレム大隊でも半ば忘れられていた戦術だ。
だが当時、軍学校から派遣されていた教師は覚えていた。
その後参謀本部に転属したセンティアム・ラ・プルデンス参謀長である。
ゴーレム大戦時、家人出身の痩せ男は、軍制改革を聞くや大学を飛びだして志願した変わり種だ。
当時高等数学を解する軍人などおらず、彼の初仕事は将校らに数学を教えることだった。
そして経費節減で認められると、彼は軍学校の設立を具申した。
人材育成が最優先課題との意見は先々代の国王に認められ、二十代で軍学校の教師に抜擢されたのだ。
そして九年前のリスティア戦の責任で参謀長が辞任すると、後任に就いた。
彼は制限だらけのダミーも、希代の風精使いルークスがいれば「活用できる」と過去の記憶を呼び起こしたのだ。
さらに「ダミーに乗せればイノリを隠せる」と思いついたのも彼だった。
ルークスはダミー自体は知っていた。
演習で敵ゴーレム役を務める姿なら、幾度となく見ている。
あまりに不出来なので「これで良いの?」と尋ねたこともある。
その答えは「あれで良い、と分かれば一人前だ」だった。
新前コマンダーと一緒に首をひねっていたが、やっと本当の役割が分かった。
彼はずっと空から見下ろすシルフの視点しか持っていなかった。
土中から見上げるノームの視点が必要だったのだ。
そのルークスが駆る新型ゴーレムのイノリは、ノームが造形した台に乗っていた。
四つ足が地面にかける合計荷重が七倍級だから、グラン・ノームにはゴーレムの一基にしか見えないらしい。
ルークスはイノリの性能を見せつけることで、敵の将兵の戦意をくじいた。
対してプルデンス参謀長は「所在不明にする」ことで敵を怯えさせる作戦だ。
怯えさせるのは群れではなく、指揮官一人である。
司令部への奇襲を恐れ、帝国軍は本陣の守りを解くことができない。
その結果、戦力の分散という望外の戦果を挙げたのだった。
イノリの隣には七倍級の「作業ゴーレム」がいる。
向こう側の台に自ら飛ぶ矢を並べ、サラマンダーの娘が熱したら渡す役割だ。
イノリは右肩に据えたレールに矢を乗せ、陣地前に並ぶダミーを避けてくるレンジャーに向けて放った。
水蒸気の尾を引いて飛ぶ矢はシルフの誘導により、軽量型ゴーレムの下腹部に深々と刺さる。
急停止の衝撃で矢柄内のガラス瓶が割れ、閉じ込められていた水蒸気が一気に膨張、圧力で矢柄を破裂させる。
矢柄は刻まれた溝に従い切断されると同時に放射状に裂け、土中に留まり圧抜けを防ぐ。
行き場をなくした蒸気圧は、矢柄もろとも周囲の土を四散させるのだ。
股関節周りの筋肉を失ったレンジャーは、体を支えられず転倒、行動不能になる。
(火炎槍でやれたことなら、自ら飛ぶ矢でも可能かも)
ルークスの読みは的中し、新兵器は見事に敵の足を止めた。
ダミーの左を通過しようとした二列縦隊の先頭を二基とも行動不能にすると、イノリはレールをダミーの右側へ向ける。
同じように二矢放ち、二基を足止めした。
誘導担当シルフが、強風担当に負けじと頑張ってくれるので一発必中である。
擱座した僚基の左側を通ろうとするレンジャー二基を、ルークスは三本の矢で大破させた。
一本は外れたのではなく、命中前に破裂したのだ。
「今のは加熱しすぎだ。カリディータ、加減して」
加熱担当のサラマンダーが「応よ」と答えた。
彼女は、台に並べた矢を一人で炙っている。
他のサラマンダーがいると温度を一定にできないので、一人で熱管理しているのだ。
最適な温度を模索するのも、彼女の役割だった。
自ら飛ぶ矢はアルティと共に二十、次の船で三十本届いている。
今あるだけで、半数のレンジャーを行動不能にできる計算だ。
イノリと相性の悪い軽量型ゴーレムを、決戦前にまとめて始末できるので、ルークスは上機嫌である。
(あるいは、この別動隊との戦いが決戦になるかも)
左右四基ずつレンジャーを大破させたところで、作戦の第二段階に入る。
イノリと共に後列に並んでいた、十八基のゴーレムが左右に移動を開始した。
鹵獲ゴーレムについて、二国は協定を定めている。
帝国軍のバーサーカーと、マルヴァド軍のグリフォンはリスティアで、レンジャーはパトリアと。
ゴーレム戦では戦力外のレンジャーをリスティアは欲しないので、ありがたくルークスは全部もらうことにしたのだ。
パトリア王国が内骨格ゴーレムを作るにあたって、手本があればゴーレムスミスたちの苦労が減る。
球体関節などの重要部品は流用する手もあるので、レンジャーはいくらあっても困らない。
バーサーカーについては研究用に武具を回収したので十分だし、グリフォンは後日マルヴァドが返却を要求するのは確実なので、もらっても面倒が増えるだけ。
それにグリフォンの一級品武具はパトリア製なのだから、今さら研究する必要もない。
そのためここでパトリア軍が使っているのは、鎧を外し土を増加して従来型と同程度の腕力を持たせた改造レンジャーである。
鎧がないので従来型との戦闘は無理だが、原型レンジャーなら圧倒できる。
自ら飛ぶ矢が行動不能にしたレンジャーは二十を数えた。
動けなくなった軽量型に味方ゴーレムが到達、破壊を始める。
予定通りの展開に、ルークスだけでなく精霊たちにも楽観の空気が流れた。
突然、イノリ内部に金属音が響いた。
「何か当たっ――」
言葉を発しかけたルークスの肺から、空気が絞り出される。
水繭に穴が空き、高圧空気が流れこんだのだ。
リートレがすぐ穴を塞いだものの、高まった圧を抜くことはできない。
水繭の周囲はより高い気圧なのだ。
水繭はイノリの背中内面に密着している。
ウンディーネが外部へ通じる穴を空けるまで、精霊たちは恐慌状態になっていた。
「主様、ご無事で!?」
「ルールー!? ルールー!!」
「どうしたんだ、ルークス!? 返事をしやがれ!!」
気圧が戻ってやっとルークスは呼吸を取り戻した。
「何が……あったの?」
「何かが胴体を貫通したわ。それ以上はわからない」
リートレの声が上ずるのを、ルークスは初めて聞いた。
再び金属音がした。
イノリの鎧兜に何かが当たり、火花を散らす。
「!?」
ルークスは、何かが作業ゴーレムの頭部に当たるのを見た。
剥き出しの土に突き刺さっているのは、金属片だった。
鉄板らしいが、かなりひしゃげたらしく湾曲している。
「あるいは……元が板状ではなかったか……」
ルークスの脳内で不吉な情報が浮かび上がる。
「金属が――破裂した!?」
真っ先に自ら飛ぶ矢に目が行く。
台上ではカリディータが心配そうに見上げている。
並べられた矢はどれも無事だ。
それに台は作業ゴーレムの右側にある。
たとえ矢が破裂したとしても、破片が正面に刺さるわけがない。
「味方じゃなければ、敵――」
めまぐるしく働くルークスの脳が何かが何か答えを出した。
「これが、大地の怒りか!?」
0
あなたにおすすめの小説
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
魔法が使えない落ちこぼれ貴族の三男は、天才錬金術師のたまごでした
茜カナコ
ファンタジー
魔法使いよりも錬金術士の方が少ない世界。
貴族は生まれつき魔力を持っていることが多いが錬金術を使えるものは、ほとんどいない。
母も魔力が弱く、父から「できそこないの妻」と馬鹿にされ、こき使われている。
バレット男爵家の三男として生まれた僕は、魔力がなく、家でおちこぼれとしてぞんざいに扱われている。
しかし、僕には錬金術の才能があることに気づき、この家を出ると決めた。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる