水の流れるところ

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馴れ合い

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 文字通り体を使った営業活動が功を奏したのか、この店の店長を任されてもう随分と経つ。通常は、経験のあるホストがそのまま店長やマネージャーになるケースが多いらしい。だがこの店は経営者の意向もあり、内輪でれ合いになるのを防ぐために、店員は外部から雇っている。

 まあ結局のところ、いくら外部から雇ったところで、「れ合い」になることは避けられないことを、自分は身をもって経験しているわけだが。

 勤務2年目の誉が店長に抜擢ばってきされた時。マネージャーからは、持ち前の愛想の良さや、統括する能力が認められた上での昇進だと説明があった。だが、明らかにマネージャーとの「れ合い」の結果だと誉は理解している。ただ単に、自分たちの関係が要因だと、誉や周りに思われたくないための言い訳だったのだろうと思う。まあ、自分は給料が上がるのならなんでもいいのだが。見返りさえもらえれば。

「失礼します」

 営業用スマイルを前面に出しつつ、テーブルの脇にひざまずく。空になっていたアイスペールを、新しい物と素早く交換した。

 3番テーブルには、常連客である30代ぐらいの女グループが座っており、きゃあきゃあと甲高い笑い声を上げながらホストたちと盛り上がっていた。誉の存在には目もくれず、ホストたちに構ってもらおうと、必死で自分の存在をアピールする様子が伝わってくる。客が店員へと注意を払わないことは良い傾向だ。それだけ、ホストたちが客を楽しませているという証拠だし、店が上手く回っていることを意味している。

 ついでに空になったグラスを下げようと、テーブルの上を目立たないように綺麗きれいにしていると、ふと視線を感じて、その方向に目だけを動かした。

 ソファに悠々と座る、ホストの1人と目が合った。この店で断トツの人気と成績を誇るホストだ。

 意味ありげな視線で誉をじっと見る。誉は、周りに気づかれないように軽くそのホストに微笑んで、トレイを持ってさっと立ち上がった。誉がテーブルから離れてバーへと戻る間も、背中にその視線を感じていたが、それに気づかないフリをした。

 ここに通う大勢の女客が夢中になっているあのホスト。歳は20代半ばだが、もっと若く見える。若く見えるくせに、大人っぽい色気もある。端正な顔で優しく微笑み、甘い言葉をささやいてしなだれる姿は、他のホストたちにはないかれるものがあるようだ。

 軽く触れられるだけで舞い上がり、何十万、何百万と貢いでいるあの男がゲイだと知ったら、女たちはどう思うのだろう。そして、こんなそこら辺にいそうな、自分みたいな普通の男と関係があるなんてわかったら。だまされた、とでも思うのだろうか。いや、でもこれはビジネスなのだから。リアルとは違う。あのホストはただ、客に一時の快楽を与えているだけだ。うその快楽。それを承知で客は通うのだし、その裏側にあるこちらの事情など関係ない。

 それにしても。体の関係なしにここまで女たちを夢中にさせることができるのは、もはや才能だと言えるだろう。

 ただ、女たちを相手にした鬱憤を誉で解消するのは、ほどほどにして欲しい。
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