水の流れるところ

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会えた

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 すっと、サウナの扉が開いて、だれかが入ってきた。ちらっと、条件反射で相手を確認して、はっと息をむ。

 会えた。

 千晃が、前と同じように颯爽さっそうと入ってきた。軽く辺りを見回して、誉を認めると微かに目を見開いた。会えた喜びについうれしくなってニコリと千晃に笑いかける。千晃は軽く微笑み返して、誉に近づいてきた。

「隣、いい?」
「どうぞ」

 誉の左側に腰を下ろした千晃を、体全体で意識する。鼓動が少し早くなった。こんな近くに千晃がいる。鏡越しではない、手を伸ばしたら触れられる距離に。そう思ったら、本当に千晃が隣にいるのか、どうしても確かめたくなった。そっと腕を伸ばして、ぎゅっ、と千晃の右耳を摘まんでみる。

「うおっ」

 千晃が驚いて大きな声を上げた。周りの人たちが一斉に怪訝けげんな顔でこちらを見る。クールなイメージなのに、リアクションが素直で、しかも大きかったのは意外だった。すみません、と小さく頭を下げてから、千晃が眉をひそめてこちらを向いた。小さな声で抗議される。

「何するんだ」
「ごめん。ちょっと、確かめたくなって」
「何を?」
「本当に九条さんがいるのか」
「はあ……」
「良かった。リアル九条さんだった」

 そう言って笑いかけると、じっと見つめられた。なんだろう? と思っていると、千晃が目を逸らして、前を向いた。そのままの姿勢で声を落として話し始める。

「この前のことだけど」
「……ああ、うん」
「……悪かった」
「え?」
「ちょっと……無理やりだったし……意味わからなかっただろ?」
「いや……わかってたけど」
「え?」

 千晃が驚いたようにこちらを見た。

「本当に?」
「うん。あれって、俺があーでもない、こーでもない言って煩かったからだろ? だからとりあえず止めようと思ったんだろ?」
「まあ……そうだけど」
「……聞いてもいい?」
「……何?」
「なんで……わかったの?」
「…………」
「あれが全部、:嘘(うそ)だって」

 誉がホストの男に向けた全て。笑顔も仕草も言葉も。何もかも「フェイク」だったこと。

「……笑顔」
「え?」
「鏡の中の笑顔と、全然違ったから」
「…………」
「なんであんな無理して笑ってんだろうと思った。しかも……相手の機嫌を損ねないように」
「……びてるってはっきり言ってくれていいよ」
「いや……まあ……それで、それを見てたら……苛ついたというか……気づいたら、言葉が出てた」

「俺が言うことでもなかったけどな」と、少し自嘲気味に微笑んで千晃が続けた。

 千晃になら。別に全て話してもいいか。そんな気持ちになった。どうせもう、自分の化けの皮は:剥(は)がれてしまったようだし。

「九条さん。これからまだ時間ある?」
「え? ああ、まあ……。俺、来たばっかだし」
「終わったら、ちょっと休憩しない?」
「……いいけど……」
「じゃあ、俺、先に出て、休憩所で待ってる」
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