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落ち着け
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コーヒーを啜る間、沈黙が続いた。ジムの休憩所とは違って、完全に2人きりの空間だ。そう思うと意識してしまって、いつもみたく気軽に言葉が出てこない。千晃も少し緊張しているように見えた。どうしようかと思っていたところに、千晃の方から話を振ってくれた。
「でかいな」
千晃が、6畳の部屋にはサイズが大きすぎるテレビに目を向けて、ぼそりと言った。
「これも前の家からなんだよ。売ろうと思ったんだけど、テレビってあんま売れないみたいだし、まだ使えるのに捨てるのも嫌で、結局持ってきたんだけど」
「そうか」
「本当は……こんな贅沢な物、俺には必要ないんだろうけどな。言っても、あんま、関心できるような方法で手に入れた物じゃないし」
「……どういう意味?」
「……男に貢いでもらったり、体売って手に入れた金で買った物だから」
「……だけど、お前が死ぬ思いして手に入れた物なんだろ?」
「…………」
「方法は関係ない。その時のお前ができることをやった結果なんだから、それでいいだろ」
「だけど……」
「……前も言いかけたけど。誉は自分で思っているより、ずっと綺麗だと思う」
心が。そう、千晃が続けた。
「千晃……」
どちらからともなく見つめ合った。誉の心臓がぎゅっとなる。この男が好きだな、と思う。言葉が少なくて、何を考えているのか読めないこの男が。会う度に。本当はとても人思いで、優しい人間だと実感する。そして、そんな千晃にどんどん惹かれていくのだ。
すっと、千晃の顔が近づいてきた。
うわっ。どうしよっ。
誉の中で葛藤が生じる。千晃のことは好きだ。だから、このまま関係を持ちたいと思ってしまう自分がいる。でも。もっとふさわしい人間になるまではと、必死でストッパーをかけていた意味がなくなってしまう。まだ目標も達成できていないこんな中途半端な自分で、千晃の傍にいていいのか。
なにより、千晃の気持ちもよくわからないままだ。雰囲気に流されているだけなのか、少なからずとも誉のことを好いていてくれているのか。はっきりとしないそんな状態で関係を持って後悔しないか。でも、一度拒んだらもう二度と機会はないかもしれない。
そんな風にあれこれ考えて頭はフル回転しているのに、体は緊張のあまり全く動かない。あと数センチで千晃の唇が誉に届いてしまう。そう焦ったその時。
テーブルに置かれていた千晃の携帯が、ブルブルと音を立てて震えた。動きを止めて、ちらっと千晃が横目で画面をチェックする。
「病院だ」
そう言って、千晃はすぐに電話に出た。はい、はい、わかりました。すぐ行きます。そう手短に答えて電話を切ると、荷物を掴んで立ち上がった。
「悪い。急患だ」
「うん、わかった」
誉も急いで立つと、すでに玄関へと向かっている千晃に続いた。靴を履いて、千晃が振り返った。
「そしたら、また」
「ん。運転気をつけてな」
千晃は軽く微笑むと、慌ただしくアパートを出ていった。玄関先に微かに残る、千晃の気配に包まれる。ふうっ、と一息吐いて、リビングへと戻った。テーブルに残されたカップを取って、台所の流しに置く。スポンジに洗剤を付けて洗い始めた。
きっとこれで良かったのだ。まだお前には早い、と言われているのだ。
ずっと心臓が強く鼓動を打ち続けている。間近で見た、千晃の綺麗な顔が忘れられない。
落ち着け。
そう心臓に言い聞かせながら、とっくに汚れの落ちているカップを、ごしごしと擦り続けた。
「でかいな」
千晃が、6畳の部屋にはサイズが大きすぎるテレビに目を向けて、ぼそりと言った。
「これも前の家からなんだよ。売ろうと思ったんだけど、テレビってあんま売れないみたいだし、まだ使えるのに捨てるのも嫌で、結局持ってきたんだけど」
「そうか」
「本当は……こんな贅沢な物、俺には必要ないんだろうけどな。言っても、あんま、関心できるような方法で手に入れた物じゃないし」
「……どういう意味?」
「……男に貢いでもらったり、体売って手に入れた金で買った物だから」
「……だけど、お前が死ぬ思いして手に入れた物なんだろ?」
「…………」
「方法は関係ない。その時のお前ができることをやった結果なんだから、それでいいだろ」
「だけど……」
「……前も言いかけたけど。誉は自分で思っているより、ずっと綺麗だと思う」
心が。そう、千晃が続けた。
「千晃……」
どちらからともなく見つめ合った。誉の心臓がぎゅっとなる。この男が好きだな、と思う。言葉が少なくて、何を考えているのか読めないこの男が。会う度に。本当はとても人思いで、優しい人間だと実感する。そして、そんな千晃にどんどん惹かれていくのだ。
すっと、千晃の顔が近づいてきた。
うわっ。どうしよっ。
誉の中で葛藤が生じる。千晃のことは好きだ。だから、このまま関係を持ちたいと思ってしまう自分がいる。でも。もっとふさわしい人間になるまではと、必死でストッパーをかけていた意味がなくなってしまう。まだ目標も達成できていないこんな中途半端な自分で、千晃の傍にいていいのか。
なにより、千晃の気持ちもよくわからないままだ。雰囲気に流されているだけなのか、少なからずとも誉のことを好いていてくれているのか。はっきりとしないそんな状態で関係を持って後悔しないか。でも、一度拒んだらもう二度と機会はないかもしれない。
そんな風にあれこれ考えて頭はフル回転しているのに、体は緊張のあまり全く動かない。あと数センチで千晃の唇が誉に届いてしまう。そう焦ったその時。
テーブルに置かれていた千晃の携帯が、ブルブルと音を立てて震えた。動きを止めて、ちらっと千晃が横目で画面をチェックする。
「病院だ」
そう言って、千晃はすぐに電話に出た。はい、はい、わかりました。すぐ行きます。そう手短に答えて電話を切ると、荷物を掴んで立ち上がった。
「悪い。急患だ」
「うん、わかった」
誉も急いで立つと、すでに玄関へと向かっている千晃に続いた。靴を履いて、千晃が振り返った。
「そしたら、また」
「ん。運転気をつけてな」
千晃は軽く微笑むと、慌ただしくアパートを出ていった。玄関先に微かに残る、千晃の気配に包まれる。ふうっ、と一息吐いて、リビングへと戻った。テーブルに残されたカップを取って、台所の流しに置く。スポンジに洗剤を付けて洗い始めた。
きっとこれで良かったのだ。まだお前には早い、と言われているのだ。
ずっと心臓が強く鼓動を打ち続けている。間近で見た、千晃の綺麗な顔が忘れられない。
落ち着け。
そう心臓に言い聞かせながら、とっくに汚れの落ちているカップを、ごしごしと擦り続けた。
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