水の流れるところ

文字の大きさ
65 / 73

日常茶飯事

しおりを挟む
「うわ、凄いマンション」

 自宅に着くと、誉は感嘆の声を上げて、きょろきょろとリビングを見渡した。

「何言ってんだ。誉だって住んでただろ? 高級マンションに」
「いや、こんな立派なとこじゃないって」
「大したことない」
「大したことあるって。ほら、置いてある家電、ほとんどハイブランドだし」
「そうなのか?」
「え?? 知らないで買ったの?」
「何がいいのかわからないから、人から勧められた物をそのまま買った」
「だれが勧めてくれたの?」
「同僚とか」

 体の関係があった相手とか。

「ああ、なるほどね」

 誉が言うには、家に置いてある物は全て高級品で占められているが、色やデザインがどこかちぐはぐで、統一感がないとのことだった。そう言われてみれば、そうかもしれない。今まで気にしたこともなかった。

「千晃ってこだわりがないんだな」
「そうみたいだな」
「こんな高級品ばっか勧められて、ぽんって買えちゃうのが凄いけど」

 さすが、お医者様だな。そう冗談めかした口調で続けて、誉が千晃に笑いかけてきた。

 やっと2人きりになれた。入院中はなにかと人の出入りがあったし、千晃も通常通り仕事があったので、落ち着いて誉と話す時間もあまりなかった。今日は誉のために休みを取ったのだが、こんな風にゆっくりと何気ない会話をするのは随分と久しぶりに感じた。

 目の前に誉がいる。ふつふつと誉に触れたい欲望が湧き上がってくる。が、ぐっと耐えてそれを押さえつけた。専門ではないが自分も医者の端くれだ。事件によって誉が抱えている精神的苦痛を増幅するような行為は、絶対にしてはならない。入院中も我慢できたのだから、2人きりになっても耐え続けなくてはならない。誉はきっと、今はだれにも無遠慮に触られたくないはずだ。

「誉の部屋にアパートからの荷物も運んでおいた」
「え?? そんなことまでしてくれたの??」
「ほとんどは業者がやってくれた。俺は荷物まとめただけだから。要るだろ? 色々と。家電はそのままにしておいたけど。服とか運べる物は全部運んでもらったから。あと、資格勉強ができるように勉強机と椅子も用意した」

 意味深に笑って、誉を見る。

「これで心置きなく『医療事務』の勉強できるな」

 誉が驚いた顔をして、千晃を見返してきた。

「なんで知ってんの??」
「誉を探してアパート行った時に参考書を見た。荷物まとめる時にもな」
「……あー、そうか、置きっぱなしだったよな。いや、なんか、受かるかもわからないし、ちゃんと続けられて受かる自信がつくまでは内緒にしておこうと思ったんだけど」
「どんな資格でも誉だったら大丈夫だろ」
「……そんなこと言ってくれるの、千晃だけだって」
「俺だけでも、事実だからいいだろ」
「……ありがとう」

 誉がゆっくりと感謝の言葉を口にした。10cm以上ある身長差のせいで、誉と向かい合って話すと、どうしても誉が千晃を見上げる形になる。その、少し上目遣いでこちらを見る誉の姿が、小動物のようで可愛くてしょうがない。それは、初めて誉と会った時から変わらない印象だった。

 これから、こんな状況が日常茶飯事になると思うと、自分はどこまで耐えられるだろうかと少し不安になる。もちろん、その誘惑に負けることは許されないが。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...