フェイク

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キス

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 普段は冷静沈着のクールキャラで通っている七尾だが、素は違う。同期仲間の間では、負けず嫌いですぐ拗ねたり、ムキになることで知られていたりする。

 仕事もできて顔もいいので、社内で妬まれることもあるみたいだが、少なくとも仲間内で七尾を悪く言う奴はいない。完璧に見えてそういう人間臭いところも持ち合わせているから、どこか憎めないのかもしれない。明石もその一人だ。

「お前、本当に七尾みたいだな」
「……だから。明石がそう注文したからだろ?」
「そうみたいだけど」
「……ていうか、本当に覚えてないのか?」
「それが、べろっべろでさぁ、その時。だから、注文したことすら覚えてない」
「……マジで言ってる?」
「うん」

 信じられない、という顔で七尾人形がこちらを見た。

 不思議な感じだ。確かに明石と七尾は同期で飲み仲間だ。でも、同期の中でもあまり絡んだことがない。明石は七尾と面と向かって話すと緊張するので避けているし、七尾も明石と目が合うとさりげなく逸らすことが多いので、あまり二人で会話をしたことがないのだ。

 人形と分かっているから、明石が緊張しないのもあるだろうけど。

 目を逸らすことなく、明石を真っ直ぐ見る七尾と自然に会話が続いているのは、妙な感じだった。

 精密に造られているのにそこは違うのだな、とぼんやりと思う。

「そしたら俺、間違えて注文されたってこと?」
「まあ……そうなるかな」
「……あんなに色々細かく注文しといて?」
「……なにそれ」

 そう尋ねると、七尾人形がすっくとソファから立ち上がった。床に座る明石の方へ体を近づけてくる。

「え……何?」

 なんとなく危険を感じて、上半身を後ろに引いた。

 しかし、そんな明石を気にもせず、自然な動きで七尾人形の顔がすっと目の前に入りこんできた。と、次の瞬間。

 ええ⁉

 反応できない早さで、キスされた。

 唇が重なって、ちゅっ、と明石の唇を軽く吸うようにしながら離れていく。

 明石は目を見開いたまま固まった。ぶわっと顔の熱が一気に上がる。

「……ちょ……なに……これ……」

 何事かと訴えようとしたが、あまりにも予想外過ぎて言葉が上手く出ない。

 すると、目の前で七尾人形がニヤッと笑った。

「これ、明石の追加注文にあったこと」
「……ついかちゅうもん……?」
「そう。誰々に似た人にしてくださいっていう希望を聞くだけじゃなくて、追加料金を払うとその人形にいくつか注文をつけられるカスタムサービスがある。例えば、本人は料理上手じゃないけど、人形には料理がプロ級になるようにして欲しいとか」
「あの……俺は一体どんな注文をつけたんでしょうか……?」
「紙が入ってなかった?」
「紙?」

 そう言われて、取り扱い説明書を捲ってよく見てみると。

 あ、あった。

 最後のページに二つ折りにした紙が三枚挟まっていた。
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