17 / 32
悲しくなる
しおりを挟む
なんとか誤魔化そうと言い訳を絞り出す。
『あ、いや、その……これ、この七尾のカーディガン、格好いいなって思って』
『……そう?』
『うん。俺もこんなの欲しいから、どこのブランドか見たくてさ』
『お前と俺って服の趣味、全然違うと思ってた』
確かにそうだった。七尾が明石の私服姿をどれだけ覚えているか分からないけど。
明石は服装にこだわりなんてない。たいていパーカーにジーンズとか、暑くなればTシャツにジーンズとか、寒くなったらニットにジーンズとか、年柄年中、ジーンズに量産店で適当に買った無地のトップスを合わせるだけなのだ。見るからに高そうな洒落たデザインの服を身に纏っている七尾とは全然違う。しかし、ここで怪しまれるわけにはいかない。
『まあそうなんだけど。ちょっと、冒険してみようかなって。七尾みたいにスタイル良くないから、同じの着ても似合わないかもしれないけどな』
そう返すと、七尾が黙った。
あ、照れてる。
軽く褒めただけなのに。
七尾は分かりにくいが、結構な照れ屋だ。人に褒められると嬉しい反面、どう答えていいか分からないらしい。
会社ではそんなことはない。お世辞と本音の区別がつくのだろう。
七尾は照れると途端に口数が減る。それに加えて、目も逸らされる。しかも明石に対する時だけ。他の同期たちとは違うのに。
こういう場面が訪れる度に。明石は悲しくなるのだ。自分だけが七尾に心を許されていない。距離を置かれていると。
だから、酔っ払った自分が、カスタムオーダーに『照れない』と『目を逸らさない』を入れたことは理解できた。
この距離を置かれている感覚が嫌いで、それを感じさせる七尾と対峙したくなかったのだ。
七尾の無言の緊張が伝わってきて、自分も緊張してくる。これ以上言う言葉も見つからず明石も黙ると、沈黙が二人の間に広がった。
そこでふと、七尾人形だともっと話せるんだけどな、と思う。自分がそうカスタムメイドしたせいだけど。
明石を好きなことを前提にしているせいか、七尾人形は明石に対して積極的だ。照れたり恥ずかしがったりしないので、こういう気まずい沈黙は生まれなかった。
『……後でメールするわ』
ふいに七尾が口を開いた。
『え?』
『ブランド。名前知りたかったんだろ? 店の地図も付ける』
『ああ……ありがとう』
本当はサイズが知りたかったんだけどな。そう思いながら礼を言う。
最終的には、店長と常連客の七尾が仲良しだったので、店長から何気なく聞き出して事なきを得たのだが。
『あ、いや、その……これ、この七尾のカーディガン、格好いいなって思って』
『……そう?』
『うん。俺もこんなの欲しいから、どこのブランドか見たくてさ』
『お前と俺って服の趣味、全然違うと思ってた』
確かにそうだった。七尾が明石の私服姿をどれだけ覚えているか分からないけど。
明石は服装にこだわりなんてない。たいていパーカーにジーンズとか、暑くなればTシャツにジーンズとか、寒くなったらニットにジーンズとか、年柄年中、ジーンズに量産店で適当に買った無地のトップスを合わせるだけなのだ。見るからに高そうな洒落たデザインの服を身に纏っている七尾とは全然違う。しかし、ここで怪しまれるわけにはいかない。
『まあそうなんだけど。ちょっと、冒険してみようかなって。七尾みたいにスタイル良くないから、同じの着ても似合わないかもしれないけどな』
そう返すと、七尾が黙った。
あ、照れてる。
軽く褒めただけなのに。
七尾は分かりにくいが、結構な照れ屋だ。人に褒められると嬉しい反面、どう答えていいか分からないらしい。
会社ではそんなことはない。お世辞と本音の区別がつくのだろう。
七尾は照れると途端に口数が減る。それに加えて、目も逸らされる。しかも明石に対する時だけ。他の同期たちとは違うのに。
こういう場面が訪れる度に。明石は悲しくなるのだ。自分だけが七尾に心を許されていない。距離を置かれていると。
だから、酔っ払った自分が、カスタムオーダーに『照れない』と『目を逸らさない』を入れたことは理解できた。
この距離を置かれている感覚が嫌いで、それを感じさせる七尾と対峙したくなかったのだ。
七尾の無言の緊張が伝わってきて、自分も緊張してくる。これ以上言う言葉も見つからず明石も黙ると、沈黙が二人の間に広がった。
そこでふと、七尾人形だともっと話せるんだけどな、と思う。自分がそうカスタムメイドしたせいだけど。
明石を好きなことを前提にしているせいか、七尾人形は明石に対して積極的だ。照れたり恥ずかしがったりしないので、こういう気まずい沈黙は生まれなかった。
『……後でメールするわ』
ふいに七尾が口を開いた。
『え?』
『ブランド。名前知りたかったんだろ? 店の地図も付ける』
『ああ……ありがとう』
本当はサイズが知りたかったんだけどな。そう思いながら礼を言う。
最終的には、店長と常連客の七尾が仲良しだったので、店長から何気なく聞き出して事なきを得たのだが。
15
あなたにおすすめの小説
君と僕の関係は罰ゲーム
くすのき
BL
小学生の時、幼馴染の発した自分との関係性を聞いてしまった十都棗(とそなつめ)は、彼に頼らない人間になる事を決意して生きてきた。でも大学生となったら、まさかその幼馴染と再会し、しかもお隣さんになっていた。
彼は僕の事を親友と呼ぶが、僕はそのつもりはなくて……。
陽キャ✕陰キャ
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
今日でさようなら
須藤慎弥
BL
勝ち気で素行の悪い陽斗(はると)は、品行方正・文武両道な大地(だいち)の事が好きだった。
住む世界が違う、見ているだけで良い、と実はピュアで控え目な陽斗だったが、同じ高校に入学したのを機に話しかけ、二人は仲良くなることができた。
だが陽斗は、大地が実はモテている事を知り勝手に打ちのめされ、とんでもない要求をしてしまう──。
※程度はともかく五割そういうシーンです。ご注意ください。
※BLove様で行われましたコンテスト参加作です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる