フェイク

文字の大きさ
18 / 32

もう、止めることができない

しおりを挟む
「どうした?」

 目の前で七尾の声がして、はっと我に返る。

 七尾人形が十センチくらいの至近距離で明石を見ていた。

「ちかっ」
「ぼけっとしてたから。呼んでも答えないし」

 拗ねたような口調で七尾人形が言った。

「ごめん。どっか行ってたわ」
「『七尾』のこと考えてた?」
「え? いや……まあ……」
「本当に好きなんだな、『七尾』が」
「…………」

 七尾の顔をした七尾人形に笑顔でそう言われると、変な感じだ。

「ちょっと、こっち来て」「え? うわっ」

 突然、ぐいっと七尾人形に腕を捕まれた。そのままの勢いで床へと押し倒される。

「なんだよ」
「今日まだしてないよな。キス」
「……まあ」
「する?」
「……する」

 ふっと、七尾人形が笑って、顔を近づけてきた。慣れた調子でその唇を受け止める。

「ん……」

 舌がするっと入ってきた。どうやら今日は激しいのをする日のようだ。

 七尾人形の舌が歯裏を優しくなぞる。舌を軽く絡み合わせた。

 熱は感じない。そこに人と人が触れ合う際に生まれる『何か』はない。それでも。明石の口内を動く七尾人形の舌でリアル七尾とのキスを想像すると、それだけで興奮したし、気持ちが良かった。

「は……あ……なな……お……?」

 いつもはそこそこ絡ませ合ったらすっと離れていく唇が、今日はしつこかった。苦しいくらいに舌が奥まで侵入し、激しく動く。

「んぅっ……」

 さすがにきつくて、思わず両手で、がっ、と七尾人形の両肩を掴んで引き剥がした。

 軽く息が上がったまま七尾人形に抗議する。

「ちょ……苦しいって!」

 すると、ニヤッと七尾人形が笑った。

「だって。嫉妬したし」
「え?」
「『七尾』に」
「…………」

 自分はあのカスタムサービス項目に、『嫉妬はしない』とは入れなかった。

 明石は面倒くさい関係があまり得意ではない。今までも恋愛関係の中で、嫉妬深い相手や、束縛が強い相手などは敬遠してきた。

 なのに、どうして項目に加えなかったのだろう。

 明石はその答えが分かる。こうやって、七尾が自分のことで嫉妬してくれる姿を見てみたかったのだ。

 七尾の嫉妬は面倒くさくない。むしろ、嬉しいのだ。

 うわっ、俺って結構、ヤバくね?

「俺といる時は俺のこと見ろ」

 そう言ってぎゅっと抱き締められた。リアル七尾にはあり得ない、照れ屋なところを消した七尾。明石のことが好きな七尾。

 こんなこと、あいつには一生言ってもらえることはない。

 七尾人形の背中にゆっくりと手を回して、抱き締め返す。

 だから。まるで麻薬みたいに。目の前のこの七尾を求めて、求め続けて、それに応えてくれる度に快感になって。

 もう、止めることができない。

 どちらが本物の七尾か分からなくなるくらい。いや、本物の七尾を一瞬忘れてしまうくらいに。

 自分はこの人形にのめり込んでいる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君と僕の関係は罰ゲーム

くすのき
BL
小学生の時、幼馴染の発した自分との関係性を聞いてしまった十都棗(とそなつめ)は、彼に頼らない人間になる事を決意して生きてきた。でも大学生となったら、まさかその幼馴染と再会し、しかもお隣さんになっていた。 彼は僕の事を親友と呼ぶが、僕はそのつもりはなくて……。 陽キャ✕陰キャ

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

今日でさようなら

須藤慎弥
BL
勝ち気で素行の悪い陽斗(はると)は、品行方正・文武両道な大地(だいち)の事が好きだった。 住む世界が違う、見ているだけで良い、と実はピュアで控え目な陽斗だったが、同じ高校に入学したのを機に話しかけ、二人は仲良くなることができた。 だが陽斗は、大地が実はモテている事を知り勝手に打ちのめされ、とんでもない要求をしてしまう──。 ※程度はともかく五割そういうシーンです。ご注意ください。 ※BLove様で行われましたコンテスト参加作です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...