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分かっているけど
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顔を浮かせて、明石から軽くキスをした。じっと七尾人形が見下ろしてくる。
「今って、『ここぞという時』なのか?」
「…………」
その七尾人形の言葉の意味を考えて、一気に心に動揺が広がる。
『注文七 俺とイチャイチャする(ここぞという時)』という項目を思い出した。
中途半端な書き方をした自分自身を恨む。
『イチャイチャ』って。『イチャイチャ』ってどこまで? どこまでのこと⁉
以前聞いた七尾人形の話で、人形を『ラブドール』として購入する顧客もいるらしく、『行為』が可能な機能が標準装備されていることは知っている。だから最後まですることは可能ではあるけれど。
いやいや、それ以前に。自分は、本当に七尾人形とそんなことしてもいいのだろうか?
そっくりだけど。のめり込んでいるけど。詰まるところ、本物の七尾じゃない。
「明石?」
黙り込んでしまった明石に、七尾人形が不思議そうな顔をして話かけてくる。
「……ちょっと、確認なんだけど」
「何?」
「『イチャイチャ』ってどこまで?」
「そりゃ、明石次第だろ?」
「え?」
「明石が最後まですることが『イチャイチャ』だって思うなら、それが『イチャイチャ』だし。キスまでだったらそれだって『イチャイチャ』だし。寸止めでも『イチャイチャ』だし。明石に決定権があるからな」
「俺に……」
正直なところ、申し込んだ時の記憶はないし、自分が一体どういうつもりでそんなものを項目に加えたのか分からない。
じっと七尾人形を見上げる。七尾そっくりの綺麗な顔。この顔でこんな風に迫られると、心に葛藤が生まれる。絶対に手に入らないものを、手に入れられるような錯覚をしてしまう。
「明石……可愛いな」
目がウルウルして。そう続けて、額にキスを落とされた。
「…………」
これ、めちゃめちゃ反則じゃね⁉ そりゃ、『ここぞという時に褒める』ってあったけど。
ああもうっ‼
明石は邪念を振り切って、その体勢からえーいっ‼ と七尾人形を突き飛ばした。
「うわっ」
七尾人形が驚いて尻餅をついた。明石を睨んで抗議してくる。
「ちょっと、明石! 何すんだよ」
「ごめん‼ ごめんだけど、今日は駄目‼」
「…………」
探るように七尾人形に見つめられる。
「今日じゃなかったら、いいの?」
「いや、それは……」
「明石、狡いな。ちゃっかり道作ってんじゃん」
「そういうつもりじゃなかったんだけど……」
それは言葉の綾で。ただそう言ってしまっただけで。
そう……だよな?
自分でもよく分からなくなってきた。
本物じゃない七尾と最後まですることへの罪悪感。倫理観。背徳感。そんな気持ちが渦巻く一方、どうせ叶わないなら偽物でもいいという欲も自分の中にあるのだろうか。
だから、無意識的に『今日は』なんて、次に繋がる可能性を残すような言い方をしてしまったのだろうか。七尾人形が指摘するように。
難しい顔をして考え込んでしまった明石を眺めていた七尾人形が、よいしょ、と体勢を戻して床に座り直した。
「まあ……いいけど。別に。俺が決めることじゃないしな」
「……ごめん」
「謝る必要もないから」
ふっと、七尾人形が相好を崩して手を伸ばしてきた。頭を優しく撫でられる。
今度は項目に入っている『俺に優しくする』を実行されているんだな、と分かっている。分かっているけど。
やっぱり七尾に優しくされるのは、偽物だとしても嬉しい。
どちらにせよ今は最後までする勇気はないけど。もうちょっと、この七尾人形と距離を詰めたくなる。
「なあ、七尾」
「ん?」
「一緒に風呂入るか」
そう言うと、七尾人形は一瞬黙って、それからゆっくりと口角を上げた。
「いいよ」
「今って、『ここぞという時』なのか?」
「…………」
その七尾人形の言葉の意味を考えて、一気に心に動揺が広がる。
『注文七 俺とイチャイチャする(ここぞという時)』という項目を思い出した。
中途半端な書き方をした自分自身を恨む。
『イチャイチャ』って。『イチャイチャ』ってどこまで? どこまでのこと⁉
以前聞いた七尾人形の話で、人形を『ラブドール』として購入する顧客もいるらしく、『行為』が可能な機能が標準装備されていることは知っている。だから最後まですることは可能ではあるけれど。
いやいや、それ以前に。自分は、本当に七尾人形とそんなことしてもいいのだろうか?
そっくりだけど。のめり込んでいるけど。詰まるところ、本物の七尾じゃない。
「明石?」
黙り込んでしまった明石に、七尾人形が不思議そうな顔をして話かけてくる。
「……ちょっと、確認なんだけど」
「何?」
「『イチャイチャ』ってどこまで?」
「そりゃ、明石次第だろ?」
「え?」
「明石が最後まですることが『イチャイチャ』だって思うなら、それが『イチャイチャ』だし。キスまでだったらそれだって『イチャイチャ』だし。寸止めでも『イチャイチャ』だし。明石に決定権があるからな」
「俺に……」
正直なところ、申し込んだ時の記憶はないし、自分が一体どういうつもりでそんなものを項目に加えたのか分からない。
じっと七尾人形を見上げる。七尾そっくりの綺麗な顔。この顔でこんな風に迫られると、心に葛藤が生まれる。絶対に手に入らないものを、手に入れられるような錯覚をしてしまう。
「明石……可愛いな」
目がウルウルして。そう続けて、額にキスを落とされた。
「…………」
これ、めちゃめちゃ反則じゃね⁉ そりゃ、『ここぞという時に褒める』ってあったけど。
ああもうっ‼
明石は邪念を振り切って、その体勢からえーいっ‼ と七尾人形を突き飛ばした。
「うわっ」
七尾人形が驚いて尻餅をついた。明石を睨んで抗議してくる。
「ちょっと、明石! 何すんだよ」
「ごめん‼ ごめんだけど、今日は駄目‼」
「…………」
探るように七尾人形に見つめられる。
「今日じゃなかったら、いいの?」
「いや、それは……」
「明石、狡いな。ちゃっかり道作ってんじゃん」
「そういうつもりじゃなかったんだけど……」
それは言葉の綾で。ただそう言ってしまっただけで。
そう……だよな?
自分でもよく分からなくなってきた。
本物じゃない七尾と最後まですることへの罪悪感。倫理観。背徳感。そんな気持ちが渦巻く一方、どうせ叶わないなら偽物でもいいという欲も自分の中にあるのだろうか。
だから、無意識的に『今日は』なんて、次に繋がる可能性を残すような言い方をしてしまったのだろうか。七尾人形が指摘するように。
難しい顔をして考え込んでしまった明石を眺めていた七尾人形が、よいしょ、と体勢を戻して床に座り直した。
「まあ……いいけど。別に。俺が決めることじゃないしな」
「……ごめん」
「謝る必要もないから」
ふっと、七尾人形が相好を崩して手を伸ばしてきた。頭を優しく撫でられる。
今度は項目に入っている『俺に優しくする』を実行されているんだな、と分かっている。分かっているけど。
やっぱり七尾に優しくされるのは、偽物だとしても嬉しい。
どちらにせよ今は最後までする勇気はないけど。もうちょっと、この七尾人形と距離を詰めたくなる。
「なあ、七尾」
「ん?」
「一緒に風呂入るか」
そう言うと、七尾人形は一瞬黙って、それからゆっくりと口角を上げた。
「いいよ」
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