フェイク

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俺に言えないことか

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 会議が終わり、各担当者と挨拶を交わしてから業務に戻るために会議室を出た。

 先ほどのいつもと違う七尾の態度に戸惑っていたせいか、七尾には少し素っ気なく挨拶をして逃げるように出てきてしまった。

 オフィスに戻る途中で、トイレに寄ろうと方向転換をする。早く帰って、七尾人形とのんびりしたい。そう思いながらトイレの扉を開けた。

 中は無人だった。さっさと用を済ませ、手を洗って外に出る。

「うわぁっ」

 出た途端、目の前に人が立っていて、予想外のことに派手に驚いた。

「ビックリし……」

 相手を認めて、言葉を失った。

 そこに七尾が立っていた。しごく真剣な目で。

「……ちょっといいか?」
「え?」
「話があるんだけど」
「話?」

 七尾がさりげなく周りを見回した。人気がないことを確認して、明石が出てきたばかりのトイレへと明石を押し込みながら七尾も入ってきた。

「ちょっ……七尾⁉」

 扉が締まるのを確かめてから、七尾が明石の方を向いた。どう見ても、和やかな話ではなさそうだ。七尾には珍しく、少し眉を寄せた不機嫌そうな顔をしていた。

「……どうした?」
「それは俺が聞きたい」
「え?」
「お前、一体どうした?」
「俺?」
「ここんとこ、仕事でもミスばっかりだし。いつも上の空だし。営業側でも噂になってるぞ。最近、明石どうしたんだって。こんなこと続けてると、本社に戻れなくなるぞ」
「……ごめん」
「謝って欲しいわけじゃないって。どうしたのかって聞いてんだよ」

 苛々した口調で七尾が声を荒らげた。その勢いに黙り込む。

 どうしたと言われても。七尾人形のことを言うわけにはいかないし。そちらに意識を奪われてミスを繰り返してたのは自分だから。謝ることしかできない。

「……俺に言えないことか」
「…………」
「……辞めるとかじゃないよな?」
「は? 何を?」
「会社」
「違うって。そんなわけないだろ」
「じゃあ、なんだよ?」
「…………」

 しばらく沈黙が続いた。何も話そうとしない明石をじっと見つめていた七尾が、はあっ、と溜息を吐いた。

「プライベートのことに俺がなんか言う筋合いもないけど。仕事に影響しないようにしろよ」
「……分かった。ごめん」
「……そう言うってことは、原因はプライベートのことなんだな」
「…………」
「なあ」
「……何?」
「だいぶ前に、お前、俺の服のブランド聞いてきたよな?」
「ああ……うん」
「あれ、誰のためだったんだ?」
「え?」
「お前、自分が着たいみたいなこと言ってたけど。あれから、お前が飲み会とかであのブランドの服着てるの、見たことないし」
「…………」
「ていうか、ここずっと、飲み会も来てないよな? さっき、あずまが言ってたぞ。最近、仕事終わったらすぐに帰るようになって、付き合い悪いって」

 東は明石の部下の一人で、ウマも合うのでよく仕事終わりに飲みに行ったり、相談に乗ったりしていた奴だった。東も本社からの出向者で、来る前は明石のいた部署にいた。だから、七尾の後輩でもある。
  
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