フェイク

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好き

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 気持ちを落ち着かせるために、水を一口含んだ。ふうっ、と息を吐いて、よしっ、と七尾の方へ体を傾ける。

「七尾」
「……何?」

 少し不安そうに七尾が返した。一体これから何が始まるんだ、という顔で。

「好き」
「え?」
「俺も七尾が好き」
「…………」

 七尾が、ハトが豆鉄砲を食らったような表情をして固まった。その数秒後、ぶわっ、と顔が一気に赤くなる。

 視線を泳がし、急にあたふたし始めた。珍しい。こんな七尾を見るのは初めてだ。照れて無口になることはあっても、こんなに真っ赤になって動揺することなんてなかった。

 そんな七尾を目の当たりにしたせいか、明石は逆に肝が据わったらしい。慌てる七尾の問いに冷静に答えていく。

「ちょ、いや、何言ってんの」
「何って。そのままじゃん。俺の気持ちをそのまま言ってんの」
「だけど、いや、だって、明石は……」

 そこで七尾が言葉に詰まった。言われなくても、明石には七尾の言いたいことがすぐに分かった。

「確かに今、俺のとこには男の同居人がいる」
「……友達ってことか?」
「友達ではないかな。だけど、そいつとはしてないし、この先もするつもりはない」
「……なのに一緒に住んでんの?」
「これには深いわけがある」
「…………」
「もしかしたら、俺の頭がおかしいと思われるような内容だけど。聞いてくれるか?」

 七尾は少し思いを巡らすような表情をしてから、静かに頷いた。

「……分かった」

 明石は、七尾人形が来た経由から、現在の関係に至るまで包み隠さず七尾に話した。

 話を聞いている間、七尾は百面相よろしく、赤くなったり、困惑したり、驚いたり、色々な変化を繰り返していた。それでも茶々も入れず、ちゃんと最後まで真剣に聞いてくれた。

 話し終えると、また少し沈黙が広がった。

 七尾はにわかには信じられないという顔をしつつも、明石の話について真剣に熟考しているようだった。

「……つまり、お前はその俺そっくりな人形と仲良くしてたってこと?」
「まあ、それなりに」
「それって……どこまで……?」
「言ったじゃん。してないって」
「それは聞いたけど……。その……それなりってどれなりなわけ?」
「……キスはした」
「…………」
「風呂は入ってた。一緒に」
「……マジで?」
「うん。あと、ぎゅってされたりとか、可愛いって言われたりとか、そんなのはあったけどな」
「…………」

 苦笑いして七尾を見る。

「だけど。それは全てさっき説明したとおり、俺が望んだことだからさ。そういう風なことしてもらうように俺がオーダーしてたんだよ」
「……だけど、全く覚えてないんだろ?」
「ん。買ったことすら覚えてない。でも……だからこそかな、俺の本音全開だったと思うんだよね」
「…………」
「七尾にあれして欲しい、これして欲しいって、なんか色々思ったんだろうな。酔った頭で」

 でもな。そう続けて、七尾をじっと見た。

「その人形と過ごして分かったことがある。てか、人形に諭されたんだけど。俺の望む七尾は確かに魅力的だった。して欲しいことしてくれるわけだし。だけど、それは七尾じゃないって気づいた。照れ屋で、すぐ拗ねて、ムキになんのが七尾じゃん。そういうところがなかったら七尾じゃないし。それで、俺はそんな七尾が好きになったんだなって」
「……お前、酷い言いようだな、俺のこと」
「本当のことじゃん。でも、そんな……人間臭い七尾が好きなんだよ」
「…………」

 じっと見つめ合う。二人の空気が甘いものに変わった。

 七尾がすっと顔を近づけてきた。七尾人形で練習したせいか、動揺することもなく受け入れ体勢に入る。

 二人の唇が重なった。温かい、七尾の体温が伝わってくる。

 ああ、これが、七尾の『熱』なんだ。

 しばらくすると、七尾の唇がゆっくりと離れていった。

「なあ……」

 七尾に瞳を覗かれる。

「ん?」
「俺ともしてくれる?」
「何を?」
「風呂」
「……当たり前だろ」

 ふっと、どちらからともなく笑い合った。

「今日……泊まってくか? もう遅いし」
「いいの?」
「いいよ」

 だけど。ニヤッと笑って七尾が続けた。

「俺は人形みたいにオーダー通りにはしないからな」
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