政略結婚でも、相手を幸せにしたいと思うのはおかしいだろうか

藍砂さふ

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7歳の時、恋愛結婚という言葉を初めて知った。

きっかけは使用人の退職だった。

『素敵!恋愛結婚ね!』
『いつからお付き合いしていたの?』
『どちらが先に好きになったの?』

庭師にねだって作ってもらったブーケを持って使用人の休憩室へと向かった私は、偶然彼女たちの楽しげな会話を聞いてしまった。

質問の嵐に少し照れながら答えていた彼女に、侍女長が最後に聞いていた。

『今、幸せなの?』

彼女は普段の淡々とした声からは想像もできない無邪気な子供のような声で応えた。

『ええ、とっても』

その時、結婚とは一般的に好いた者同士ですること、普通の人には子供の時から婚約者はいないことを知った。 

なら、私と彼はどうして『婚約』をしているのだろう。私は不思議に思って彼に尋ねたことがある。

『ソテル様、どうして私たちは婚約しているの?』

彼は少し考え込むような素振りを見せると、いつもと変わらない顰め面で告げた。

『互いの利益の為だ』
『りえき……』
『俺の家はお前の家にお金を借りている。お前の家は跡継ぎがお前しかいないから、婿養子が必要なんだ』

同い年にも関わらず、彼の言っていることは今も昔も難しくてさっぱりわからない。

彼は論理的に物事を理解したがるけど、私はわかりやすい結果だけを知りたい。

『じゃあ、私たちは恋愛結婚じゃないの?』

理解を諦め聞きたかった本題をズバリと聞いた私に、彼は珍しく驚いたように目を見開いていた。

そしてまたしばらく考え込むと、やはりいつもの顔に戻って、告げた。

『そういうことだな』

後に彼は、私たちのような結婚の形を『政略結婚』と呼ぶと教えてくれた。

それからずっと違和感を持っていた。

私たちは将来結婚するのに、彼はちっとも幸せそうではない。あの使用人はあんなに幸せそうだったのに。

恋愛結婚と政略結婚は別物なのだろうか。できることなら私は彼に笑って欲しい。

そんな疑問を持ちながら、貴族の子女は15歳になると必ず通うという王立学園へと入学した。

そこで私は、自分の価値観を大きく壊す存在に出会った。

「政略結婚なんて、誰も幸せになれませんよね」

その子は街の学問所から特待生として入学してきた一般家庭の子だった。

名前をフローラさんといって、優秀な上にとても美人で、同じクラスの子たちが可愛いと噂していた。

「どうして?結婚って幸せなものでしょう?」
「は……?好きでもない人と結婚して、幸せなわけないですよね」

不審そうな顔で首を傾げる彼女に、私も首を傾げた。

『政略結婚』は、幸せじゃない。好きな人同士で結婚することは不幸せ。

じゃあ、ソテル様は不幸せ?

「どうしたら幸せになれるの?」
「それはもちろん、好きな人と結婚することでしょう?結婚できなくても、好きな人と一緒にいれば幸せです」

結婚しなくても、幸せ。

でもソテル様は、今多分幸せじゃない。

ソテル様は私が好きじゃないから、幸せじゃない。

どうしよう、どうしたらソテル様を幸せにできるだろう。

授業中も食事中も眠っている時もずっとそのことばかり考えていたら、ある日またフローラさんが話しかけてきた。

「ララ様ってよくソテルギウス様と一緒にいますけど、好きなんですか」
「……?好き」
「へ、へえ。付き合ってるんですか?」
「付き合う……?」
「恋人なのかってことです」
「婚約者?」
「婚約者!?」

フローラさんは驚いている。

ソテル様は『婚約者以外の男と同じ空間に立つな。死ぬぞ』と言っていたけど、もしかして平民は違うのだろうか。

「貴族令嬢には体に爆薬が埋め込まれている……?」
「突然何言い出すんですか!それよりねえ!ほんとなの!?ソテルギウス様と婚約してるなんて……!」

思わず額をさすっていると、いつもと口調が変わった彼女がガクガクと私の肩をゆすってくる。

コクリと頷くと、初めて会った時とは一変、ギロリとこちらを睨みつけてきたフローラさんは『負けませんから』と一言告げ去っていった。


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