上 下
8 / 24
目覚めない病気

07

しおりを挟む
「街の外、東の方に、魔法を研究しているというお爺さんがいるのよ」
「魔法の研究を」
 私のつぶやきに、マリアは頷いて続ける。
「そう、街から苦情、というのか、気味が悪いという話が寄せられてたのだけど、害はないからどうしようかと、オルリヌが言っていたわ」
 そこまで言ってマリアは考える様に少し俯く。ややあって、顔をあげた。
「そういえばオルリヌは、いつだったか一人でそのお爺さんを訪ねたはずよ」
 シネヴィラとマークの表情が変わる。犯人を見つけたかのような表情。マリアも近い表情をしている。
「もしかしたら、その時そのお爺さんと何かあったのかも、それで恨まれたとかかもしれないわ、そんな怪しい人間、理不尽な逆恨みだってしかねないわ!」
 決めつける様なマリアの口調に、私は呆れて頭を抱えそうになる。まだわからないではないか。助けを求める様に、私はシネヴィラとマークに視線を移す。二人もその意見に賛同している様に、頷いていた。もう疲れ果てて、思考力が鈍っている可能性がある。おそらくこの二人はオルリヌに付きっ切りで、あまり休めていないだろう。もうそれでいいではないか、と思考放棄している可能性さえある。
 とりあえず、ここにいる誰も冷静に話を聞ける状態ではなさそうだ。私はその場で誰よりも早く、動き始めた。ここにいる人間に任せると最悪の場合、話も聞かずに犯人として、そのお爺さんをつるし上げそうな雰囲気だった。
「なるほど、その人が犯人かわかりませんが、話を聞いてみる価値はありそうですね」
 サイラスに視線を送って、寝室のドアに向かう。
「オーロラ様? もしかして自ら話を?」
 シネヴィラの驚いた様な口調の声が、後ろから聞こえてくる。私は振り返って笑顔を浮かべた。
「はい、いつもそうしているのですよ」
 そう言って一礼すると、私はサイラスと一緒にドアの方に向かう。ドアに手をかけてから、一度振り向いて三人の顔を見る。面倒なことになっているけど、それも最後の楽しみへのスパイスである。あぁ、楽しみ。おバカさんの追い詰められた顔を見るのが。とても。
 私は悦に浸った笑顔を浮かべてしまいそうになり、逃げる様に部屋から出た。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【長編版】婚約破棄と言いますが、あなたとの婚約は解消済みです

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,649pt お気に入り:2,189

【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:1,513

新生のブリッツ・シュヴァルベ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:4

誰にも邪魔させない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:47

かつて『私』は『あたし』だった

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:24,148pt お気に入り:1,552

【完結】義姉の言いなりとなる貴方など要りません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,907pt お気に入り:3,545

処理中です...