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 私は質素な町人の格好になって、王城の外まで来ていた。アリーの予備の着替えらしい。
「サミュ様、これを……少ないですが」
 そう言いながらアリーは、私の手に袋を握らせてくれる。感触からしてお金らしかった。それなりに重量感もある。
「ダメだよ! もらえない!」
 私がお金の入った袋をアリーのお腹の辺りに押し付けると、それをアリーは押し返して顔を横に振った。
「持って行ってください、こう見えても意外と貯金しているので大丈夫ですよ」
 アリーは優しく微笑む。ただ親しいだけの私にここまでしてくれるなんて、本当に優しい子だ。
「……やっぱりもらえない、だから借りていくね」
「そう、ですか……はい、では貸します、いつか返しに来てください」
 確かな再会の約束。私はそのお金を胸でしっかりと抱きしめる。大事に使う。そして返しに来る。絶対。
「早く行ってください、たぶんそのうち王都の門まで連絡が行ってしまって、誰も出れなくなってしまいます、その前に門を出てください」
 おそらくレオルは、誰かに私の遺体の片づけを命じたはずだから、私の遺体が無いというのは気付かれている。混乱をしつつも、探し始めているはずだ。王城の中で見つからなければ、外に逃げたと理解する。門に連絡が行くのは当然の流れ。
 ここにはいられないと理解している。門が閉じられてしまう可能性もちゃんと。それでも足が重い。何かの間違いであってほしい。私がその場から動けなくなっていると、体が押されてふらついてしまう。
「申し訳ありません、早く行ってください、お願いします」
 アリーがさらに私の体を押した。懇願じみたその言動に、私はやっと足が動く。行かないと。今はとりあえず逃げるんだ。
 私は走り出した。門に向かって出来る限り全力で。足を遅めたら未練で足を止めてしまいそうだったから。


 門を出た後、私は途方に暮れながら身を隠す様に森に入った。今は森の中を当てもなく進んでいる。どうすればいいか、見当もつかない。とりあえず自分の絞り出した知識で危険な魔物がいないエリアを選んで、かつ王都からできるだけ離れる様に進んでいくしかない。
 足を止めてじっくり考える訳にもいかず、歩いていると視線の先に何か黒い塊が見えた。マントが被さって浮き出たシルエットは、人間に見える。人が倒れている。
「どうしたんですか?! 大丈夫?!」
 私が駆け寄って声をかけると、その人物はうめき声をあげてこちらに視線を送ってきた。少年だった。美しいと形容できる少年。逃亡中であるにもかかわらず、私はその美しさに見入ってしまう。
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