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擬似支配
憧れの雪花(4)
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「うわ、あっつ」
雪花くんの額に掌をあてて驚愕する。
この寒い日に防寒着なしでしかもスニーカーで外で過ごすバカははじめて見た。しかも連日シグネージュの雛を見るためだけにだ。
綺麗な風景だった彼の輪郭がみるみるはっきりとして人間味をおびる。
守ってあげたい。
庇護欲を掻き立てられる。
「大丈夫か?」
とりあえず、声をかける。
「うーん」
意識はあるが、立ち上がろうとして、ふにゃっと彼の上体が床につぶれる。
腕を肩に回させて抱き上げる。抱き上げた肩が薄く体の線が細いのがわかる。
「シグネージュは昔図鑑で見て、ずっと見てみたかった。」
「なんで?」
「さぁ、なんでだったかな。」
「そんなに見てみたかったのに、この年になるまで見たことがなかったのか。ああ、海外住みだったとか?」
「ははっそんな感じかな。」
雪花は乾いた笑いをもらす。
「そうかな。こことは違うば…しょ」
雪花は最後まで言い終わらない内に意識を失った。すぐに、少し苦しそうな寝息が聞こえてきて、ほっとする。
保健室の扉を足で開ける。
「どうかしたか、理人」
間伸びして気怠そうな声が俺に問いかける。
「廊下で倒れたから、拾ってきた。この薄着でずっと外にいて、高熱出してるバカだよ。」
保健室のベッドに雪花くんを下ろす。
「なぁ、着替えない?」
保健師に問いかける。
この保健師は天パの長い髪をひとつに結び、黒縁のメガネをかけた独特な雰囲気のある男だ。気だるげで柔らかな雰囲気が異性にモテそうだと思う。
「体操着ならある。あと、コートは私のを貸そう。靴は…この時期にスニーカーはバカだな。」
保健師が俺と同じ感想をもらす。
「俺の置き靴かすよ。」
「雪花くん、とりあえぜ服濡れているし、着替えろ。」
手元のおぼつかない雪花くんを手伝おうと、セーターを脱がした後、ワイシャツのボタンに手をかける。
すると、急に意識の覚醒した彼に突き飛ばされる。
「おい、なんだよ。」
わずかにワイシャツがはだけた隙間から、背中に走る無数の痛々しい真っ赤な線が見える。
「おい、これどうした?」
雪花くんは目線を泳がせながら、ワイシャツを羽織り直して体の前で、ぎゅっと握りしめる。
「なんでもない。放っておいて。」
「いや、お前ぼうりょ…。」
俺が雪花くんのワイシャツを掴むのを保健師が制止して、俺の口を掌で塞ぐ。
ーシーッ
そうして保健師は俺をベッドから離して、カーテンを閉めた。
保健師と雪花くんは小声で何か話しているが、会話までは聞こえない。
数分後、保健師は彼の衣服を持ってカーテンの先から出てきた。
「おい。あれ…」
「大丈夫。君が想像しているようなことはないよ。」
保健師が俺の肩を軽く叩く。彼は体操着に着替え、ベッドの中で眠っていた。
「君も望むなら、彼を見守って欲しいが。」
保健師は、愛も変わらず本気かどうか分からない間伸びしたトーンで呟く。
俺は、彼の秘密を知り得た保健師を羨ましいと思った。
雪花くんの額に掌をあてて驚愕する。
この寒い日に防寒着なしでしかもスニーカーで外で過ごすバカははじめて見た。しかも連日シグネージュの雛を見るためだけにだ。
綺麗な風景だった彼の輪郭がみるみるはっきりとして人間味をおびる。
守ってあげたい。
庇護欲を掻き立てられる。
「大丈夫か?」
とりあえず、声をかける。
「うーん」
意識はあるが、立ち上がろうとして、ふにゃっと彼の上体が床につぶれる。
腕を肩に回させて抱き上げる。抱き上げた肩が薄く体の線が細いのがわかる。
「シグネージュは昔図鑑で見て、ずっと見てみたかった。」
「なんで?」
「さぁ、なんでだったかな。」
「そんなに見てみたかったのに、この年になるまで見たことがなかったのか。ああ、海外住みだったとか?」
「ははっそんな感じかな。」
雪花は乾いた笑いをもらす。
「そうかな。こことは違うば…しょ」
雪花は最後まで言い終わらない内に意識を失った。すぐに、少し苦しそうな寝息が聞こえてきて、ほっとする。
保健室の扉を足で開ける。
「どうかしたか、理人」
間伸びして気怠そうな声が俺に問いかける。
「廊下で倒れたから、拾ってきた。この薄着でずっと外にいて、高熱出してるバカだよ。」
保健室のベッドに雪花くんを下ろす。
「なぁ、着替えない?」
保健師に問いかける。
この保健師は天パの長い髪をひとつに結び、黒縁のメガネをかけた独特な雰囲気のある男だ。気だるげで柔らかな雰囲気が異性にモテそうだと思う。
「体操着ならある。あと、コートは私のを貸そう。靴は…この時期にスニーカーはバカだな。」
保健師が俺と同じ感想をもらす。
「俺の置き靴かすよ。」
「雪花くん、とりあえぜ服濡れているし、着替えろ。」
手元のおぼつかない雪花くんを手伝おうと、セーターを脱がした後、ワイシャツのボタンに手をかける。
すると、急に意識の覚醒した彼に突き飛ばされる。
「おい、なんだよ。」
わずかにワイシャツがはだけた隙間から、背中に走る無数の痛々しい真っ赤な線が見える。
「おい、これどうした?」
雪花くんは目線を泳がせながら、ワイシャツを羽織り直して体の前で、ぎゅっと握りしめる。
「なんでもない。放っておいて。」
「いや、お前ぼうりょ…。」
俺が雪花くんのワイシャツを掴むのを保健師が制止して、俺の口を掌で塞ぐ。
ーシーッ
そうして保健師は俺をベッドから離して、カーテンを閉めた。
保健師と雪花くんは小声で何か話しているが、会話までは聞こえない。
数分後、保健師は彼の衣服を持ってカーテンの先から出てきた。
「おい。あれ…」
「大丈夫。君が想像しているようなことはないよ。」
保健師が俺の肩を軽く叩く。彼は体操着に着替え、ベッドの中で眠っていた。
「君も望むなら、彼を見守って欲しいが。」
保健師は、愛も変わらず本気かどうか分からない間伸びしたトーンで呟く。
俺は、彼の秘密を知り得た保健師を羨ましいと思った。
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