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2話 助けてくれた婚約者

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 先に出たスザンネよりも早くレストランに着いた。奥の個室に通されて待っていると、遅れて二人がやってきた。

 軽く挨拶を交わして席に着く。

 スザンネの婚約者はどこかで見覚えがあった、向こうも同じようで少し驚いた顔をしていた。名前はフォンというらしい。

 でもどこで見たんだっけな……。よく思い出せない。
 
 考えていると、ふと、スザンネの首に光るものが見えた。

「ねえ! ちょっと……! それ私のだよね? 勝手に持ち出さないでよ!」

「……え? なんのこと? どうしたの、お姉ちゃん。なんでそんな怒った顔してるの? 急に怖いよお~」

 家とは正反対の態度。へらへらと作った偽物の笑顔をこちらに向けてくる。

 きらりと光を反射していたのは、アーリアの机から無くなっていたエメラルドのネックレスだった。

 我慢ならなくなったアーリアは、席に座っているスザンネの首に手を伸ばす。抵抗するスザンネは、アーリアの手首を掴むと爪を立てて食い込ませた。

「お姉ちゃんやめて~っ! これ私のだもん! 首絞めないでよ……」

「……っ、早く返せ! 泥棒!」

 手首にスザンネの爪がぎりぎりと沈み込んでくる感覚がする。それでも痛みは感じなかった。アーリアは怒りでいっぱいだった。

「手を離しなさい! アーリア! こんな大事な席でみっともない! 恥を知りなさい!」

 スザンネの母親、ベルーザに怒声を浴びせられると、余計に怒りが込み上げてきた。アーリアがキッと睨み付けると、立ちあがったベルーザは手を大きく振りかぶった。

 殴られる……! 

 反射的にアーリアは目を瞑った。来ると思っていた鋭い衝撃はなかなか来ない。そっと少しずつ瞼を持ち上げると、そこにはフォンに振り上げた手を抑えられているベルーザの姿があった。

「暴力はいけません」

 フォンが掴んだ手を優しく下ろすと、ベルーザの顔はたちまち真っ赤に染まっていった。

「……僕、持ち主がどなたか知ってますよ」

 アーリアの耳に柔らかい声音が響く。スザンネの婚約者を見ると、穏やかな笑みが浮かんでいる。下がった目尻には笑い皺があって、雰囲気を更に柔らかくしていた。

「アーリア様のもの、ですよね?」

「……? ええ、そうです。そうなんです! ……でも、どうしてご存じなのですか?」

「実はこの前のパーティーでこのネックレス探しているの、見たんです」

「ああ、あのとき……」

 アーリアはフォンに見覚えがあった訳を少しずつ思い出していった。パーティーがあった日、ネックレスの留め具が壊れてどこかに行ってしまったのだ。

 お開きになったあとの会場で、床に這いつくばって探しているアーリアを手伝ってくれた男性がいた。それがフォンだった。

「あのときはありがとうございました! おかげさまで本当に助かったんですよ!」



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