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1話 無くなった大切なもの
しおりを挟む穏やかな陽射しが窓から差し込んでいる。気温は少しずつあがってきていた。春が近い。
「じゃあ、私、先に出るわ。……食事会だからって張り切ったりしないで、ただ黙って微笑んでればいいから。余計なことは絶対しないで」
妹のスザンネがアーリアにぴしゃりと言い放った。今日はスザンネの婚約者も招いて食事会が開かれる。この感じを見るに、相当気合いがはいっているらしい。
黙っていると馬鹿にしたように半笑いで、アーリアの胸ぐらをつかんできた。
「……返事くらいできない? 妹が先に結婚するなんて悔しくてやってられない?」
「ちょっと……、やめて。離して!」
服を掴まれたまま前後に揺さぶられ、アーリアの身体も揺れた。ドンと突き飛ばすように手を離され、バランスを崩した身体は地面に倒れた。
膝から崩れ落ちるように転んで、咄嗟についた手が擦りむけてじーんと痛む。
「ばっかじゃないの。運動神経わる~」
アーリアを上から見下ろしたスザンネは酷い言葉を吐き捨てると、助けもせずに行ってしまった。
なんて暴力的なんだろう。自分の悪事をバラされるのが怖いだけのくせに。
昔からこういうところは全然変わらない。階段から突き落とされて、骨折するほどの大けがを負ったこともある。
屋敷の使用人に傷の手当てを頼んだあと、アーリアは自室に戻った。
「……ない……、私のネックレス……確かにここにしまっておいたのに……」
四角く切り出したエメラルドが嵌められたネックレスが無くなっていた。亡くなった母が残してくれた唯一の形見なのに。
机の一番上の引き出しの左端。そこにあるジュエリーケースの中がいつもの定位置だった。毎日ジュエリーケースを開けて煌めくエメラルドを見て、母のことを思い出すのが習慣になっている。だから昨日もネックレスがあることを確認していた。
「……あいつ!」
スザンネはアーリアにとって血の繋がらない妹だった。アーリアの母親が亡くなったあと、父と再婚した女性が連れてきた子供だった。
継母は可愛い娘のいいなり状態でなんでも願いを叶えてあげていた。そのせいか気に入らないことがあればすぐに喚き、怒り、騒ぎ立てる。意見が対立しても、いつもアーリアが負けるしかなかった。スザンネが機嫌を損ねるとアーリアが怒られたからだ。
つい先日も、アーリアのネックレスを見てねだってきていた。きっぱりと断られて、珍しくすんなり諦めた、そう思っていたのに……。
探している余裕はない。仕方なくアーリアも出かける準備をはじめた。
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