俺の弟は世界一可愛い

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02.夏樹視点《胸のざわめき》

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放課後斎藤と遊びに出かける予定の僕が、そこに居合わせたのは本当にただの偶然だった。
1~3学年の教室や職員室などがある第一校舎から少し離れたところにある第二校舎、特別授業のときにしか使われないそこに今日の調理実習で使用したエプロンを忘れてしまい急いで取りに来たら、その光景が目に飛び込んで身体が動かなくなっていた。

はるが同じ学年の女の人に抱きつかれ、そのまますぐ近くの教室へと入っていく。
扉が閉じた後に、カチャンッ…と鍵をかける音が僕の頭の中にやけに大きく響いてきた。

何故か分からないけど僕の頭は真っ白で身体は全く動かないままでいると、しばらくして鍵の掛かった教室からガタガタと嫌でも中の状況を想像させられてしまう音が聞こえてくる。
その瞬間僕は弾けるようにその場から走り去った。

はるが僕以外にも優しく触れている相手がいるなんて知らなかった・・・。
自分の中になんとも言い難い気持ちがグルグルと渦巻いた。


モヤモヤの正体がわからずに走り続け、気がつけば自分の教室の前にいて息はすっかりあがっていた。
息を整えることもせず扉を開けると、教室で僕のことを待っていた斎藤がこちらを見てから目を見開いた。
「どうしたんだよ、何かあったのか!?」
急いで駆け寄ってきた斎藤に思い切りしがみつき、たくましい胸に顔を埋めると
「おい…夏樹?本当に何があったんだよ、大丈夫か?」
優しく頭をポンポンと撫でながら心配そうに訪ねてくる斎藤に思わず涙が溢れてくる。

「・・・・・・・・見ちゃった」
「見たって、何を?」
「・・・・・・はる」
「自分の兄ちゃんなんかいつも見てるじゃん」
「・・・・・・女の人とぎゅーってしてた・・・」
「あー・・・そういうことね」

夏樹がおかしなことになってる原因を把握するとわしゃわしゃと頭を撫で回してきた。
「あの人、はるの彼女かなぁ・・・?」
「いや、それはないと思う」
「でもはるはすごく格好いいし優しいし何でも出来るしモテるんだよ?もしかしたら僕が知らなかっただけで付き合ってる人がいたのかも・・・」

想像しただけで胸がぎゅーっと締め付けられて息が苦しくなる。

「うぅ~なんでかわからないけど凄く胸が痛いよ~!」
「夏樹は超絶にニブチンだもんなぁ。自分の気持ちに気付くいい機会になったんじゃねぇの?」
「わぁぁん!斎藤が冷たい~~!」
ぐりぐりと頭を押し付けると痛えよ!と小突かれた。ひどい・・・。

(でもまぁあんだけイチャイチャラブラブオーラ全開で生活してて逆によく今まで自分の気持ちに無自覚でいられたよな・・・)
呆れ気味に溜息を零しながら自分にしがみついている頭をわしゃわしゃと撫で続ける斎藤だった。




しばらく胸の中で喚き散らして落ち着くと、それで?と斎藤が切り出してきた。
「なんでモヤモヤするのかは分かったのか?」
「・・・・分かんない」
「何でだよ。お前がちゃんとそれに気付いたら俺に対するお前の兄ちゃんからの鋭すぎる嫉妬の目も少しは和らぐから、俺の平和な学校生活のためにもよーーーく考えろ。お前はやればできる子だ」

やけに力のこもった目で訴えかけてくる斎藤に「えぇぇ、理由わかってるなら教えてよ~」と泣きつくと
「周りがそれを言うのは暗黙の掟で禁止されてるんだよ」
とよくわからない返しをされてしまった。何なのだろう暗黙の掟とは・・・。
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