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第一章 第二の覇道、見出したり
第16話 拾う神あり
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ジェイは盗賊を討伐したその足でアインを連れ街へ向かった。
街へ着くと彼はいつものように冒険者ギルドで依頼達成を告げ報酬を受け取った。
一年間、訓練として無数の依頼をこなしてきた彼は、自己申告のみで報酬を受け取れる程の信頼を得ていた。
もはや喧嘩を売ってくるいつかの冒険者のような命知らずはいない。冒険者ヴァルカンはそれだけの地位を確立していた。
「あ、あの、ジェイ様……」
「どうしたアイン」
「これからどこへ……?」
「奴隷商だ」
アインはその単語を聞くと足を止めた。
「ど、どうしてですか」
「次の兵士を買う為だ。国から出された緊急依頼は報酬も美味い。何人かは買えるだろう」
ジェイは金貨がパンパンに詰まった袋を掲げる。
「……私は外で待っています」
「駄目だ。お前も来い」
それは彼がアインに課したもう一つの試練だった。
「お前に必要なのは過去との決別。それはかつての平穏な日々だけではない。奴隷の身に落ちた日々からも決別しなければならない。お前の人生は兵士として始まり兵士として終わる。檻の外から奴隷を見た時、何を感じるかその目で確かめろ」
「…………」
アインが命令に逆らうことはない。
彼女は重たい足取りでジェイの背中を追いかけ、奴隷商の元へ向かった。
鼻を突くお香の香りに、ジェイはあの日の景色を思い出した。
「いらっしゃいませ。本日はどのような商品をお探しで?」
しかし店主は一年前に最低価格の商品を買った男のことなど覚えてもいないようだった。
そして、かつて自分が取り扱った商品のことも、記憶の端にすらなかった。
「地下の商品を見せてくれ」
「……はあ。かしこまりました」
利益の薄い商品の顧客はあまり歓迎されていないのも、一年前と同じだった。
「随分増えたな」
「大変失礼ですがお客さんは一度こちらへ?」
「ああ。一年前に」
「そうでしたか。でしたらここ半年の間に北の方で戦争がありましてね。難民をまとめて安く買えたんですよ」
「…………」
人間の汚い部分を全て混ぜたようなすえた臭いが充満する地下室。その檻にいたのは、アインと似たような境遇の奴隷たちなのである。
彼女は下唇を噛みながら店主を強く睨みつけた。
「最近はどこも戦争ばかりですよ。世界中で戦争が起きているので世界大戦だなんて呼ぶ人もいるようですよ」
「そうか。──ん、あれは……」
ジェイは乾いた返事で店主の話を流し檻の中を見る。その中には彼が以前見かけた人間がいた。
「そちらの金貨十一枚の少年は──ああ、思い出した。お客さん、前もそれぐらいの値段の奴隷を買っていきましたね。……あの少女がこれですか……」
店主は吟味するようにアインの全身をまじまじと眺める。アインは心底不快そうに自分の身体を抱き締めた。
「こんな上玉になるならもっと高値を付けるべきだったか……。どうですお客さん、金貨六十枚でお売り頂けませんか?」
「断ろう」
「そうですか、それは残念です」
店主は肩をすくめる。
アインは店主の意地汚さに身をよじったが、ジェイが断りの言葉を即答してくれたことに安堵を覚えた。
「それより、あの少年だが」
「ああ、あれは一度買われたがあまりにも命令に逆らうので返品されたのです。契約の紋章を何度も発動させ続けた結果、すっかり廃人ですよ」
檻の中にいた少年。それは一年前にジェイが見た、赤い目が特徴的な反骨心溢れる少年だった。
ただ彼は当時よりかなり衰弱し、溢れんばかりの敵意はすっかり消え去っていた。黒髪には白髪が混じり、痩せこけた顔は生気を失っていた。
「いい面になったな。あれを買おう」
「……お客さん、人助けのつもりなら辞めてくださいよ。また返品されたらたまったもんじゃないですから」
「返品はしないさ。不安なら一筆書こうか?」
ジェイには返品する意志などさらさらない。逃亡兵には相応の措置が待っているだけだ。
「いえ、それなら結構ですが……。お客さん、確か契約の紋章は不要でしたね?」
「ああ」
「でしたらおまけして金貨十枚にてお売りしましょう。紋章を刻む手間が省けますので」
「それはありがたい。では他にも買わせて貰おうか」
「それでしたら是非お客さんにおすすめしたいのが!」
店主はやけに明るい表情で置くの檻へ案内する。
「こちらの少女二人です!」
「二人?」
大きめの檻の中には二人の金髪ロングの少女が肩を寄せあって震えていた。一人は怯えるように、もう一人は恨むような目でジェイと店主を睨みつけていた。
「コイツらなんですが、ちょっとした問題がありましてね……」
「問題?」
「ええ。ご覧のように見た目も状態も悪くありません。ですがこれは双子でしてね。二人のどちらかだけ買われて離れ離れになると途端に精神的に不安定になるんですよ。ですので……」
「まとめて買えと?」
ジェイは体良く不良在庫の処理に使われていると気付いた。
「それぞれ五十金貨、合わせて百金貨のところ今ならセットで八十金貨です!」
「七十だ」
「では七十五金貨でどうでしょう」
「……まあいいだろう。どの道何人か買うつもりだったしな」
「お買い上げありがとうございます!」
ジェイは少年と双子の三人を金貨八十五枚で購入し、奴隷商の元を後にした。
街へ着くと彼はいつものように冒険者ギルドで依頼達成を告げ報酬を受け取った。
一年間、訓練として無数の依頼をこなしてきた彼は、自己申告のみで報酬を受け取れる程の信頼を得ていた。
もはや喧嘩を売ってくるいつかの冒険者のような命知らずはいない。冒険者ヴァルカンはそれだけの地位を確立していた。
「あ、あの、ジェイ様……」
「どうしたアイン」
「これからどこへ……?」
「奴隷商だ」
アインはその単語を聞くと足を止めた。
「ど、どうしてですか」
「次の兵士を買う為だ。国から出された緊急依頼は報酬も美味い。何人かは買えるだろう」
ジェイは金貨がパンパンに詰まった袋を掲げる。
「……私は外で待っています」
「駄目だ。お前も来い」
それは彼がアインに課したもう一つの試練だった。
「お前に必要なのは過去との決別。それはかつての平穏な日々だけではない。奴隷の身に落ちた日々からも決別しなければならない。お前の人生は兵士として始まり兵士として終わる。檻の外から奴隷を見た時、何を感じるかその目で確かめろ」
「…………」
アインが命令に逆らうことはない。
彼女は重たい足取りでジェイの背中を追いかけ、奴隷商の元へ向かった。
鼻を突くお香の香りに、ジェイはあの日の景色を思い出した。
「いらっしゃいませ。本日はどのような商品をお探しで?」
しかし店主は一年前に最低価格の商品を買った男のことなど覚えてもいないようだった。
そして、かつて自分が取り扱った商品のことも、記憶の端にすらなかった。
「地下の商品を見せてくれ」
「……はあ。かしこまりました」
利益の薄い商品の顧客はあまり歓迎されていないのも、一年前と同じだった。
「随分増えたな」
「大変失礼ですがお客さんは一度こちらへ?」
「ああ。一年前に」
「そうでしたか。でしたらここ半年の間に北の方で戦争がありましてね。難民をまとめて安く買えたんですよ」
「…………」
人間の汚い部分を全て混ぜたようなすえた臭いが充満する地下室。その檻にいたのは、アインと似たような境遇の奴隷たちなのである。
彼女は下唇を噛みながら店主を強く睨みつけた。
「最近はどこも戦争ばかりですよ。世界中で戦争が起きているので世界大戦だなんて呼ぶ人もいるようですよ」
「そうか。──ん、あれは……」
ジェイは乾いた返事で店主の話を流し檻の中を見る。その中には彼が以前見かけた人間がいた。
「そちらの金貨十一枚の少年は──ああ、思い出した。お客さん、前もそれぐらいの値段の奴隷を買っていきましたね。……あの少女がこれですか……」
店主は吟味するようにアインの全身をまじまじと眺める。アインは心底不快そうに自分の身体を抱き締めた。
「こんな上玉になるならもっと高値を付けるべきだったか……。どうですお客さん、金貨六十枚でお売り頂けませんか?」
「断ろう」
「そうですか、それは残念です」
店主は肩をすくめる。
アインは店主の意地汚さに身をよじったが、ジェイが断りの言葉を即答してくれたことに安堵を覚えた。
「それより、あの少年だが」
「ああ、あれは一度買われたがあまりにも命令に逆らうので返品されたのです。契約の紋章を何度も発動させ続けた結果、すっかり廃人ですよ」
檻の中にいた少年。それは一年前にジェイが見た、赤い目が特徴的な反骨心溢れる少年だった。
ただ彼は当時よりかなり衰弱し、溢れんばかりの敵意はすっかり消え去っていた。黒髪には白髪が混じり、痩せこけた顔は生気を失っていた。
「いい面になったな。あれを買おう」
「……お客さん、人助けのつもりなら辞めてくださいよ。また返品されたらたまったもんじゃないですから」
「返品はしないさ。不安なら一筆書こうか?」
ジェイには返品する意志などさらさらない。逃亡兵には相応の措置が待っているだけだ。
「いえ、それなら結構ですが……。お客さん、確か契約の紋章は不要でしたね?」
「ああ」
「でしたらおまけして金貨十枚にてお売りしましょう。紋章を刻む手間が省けますので」
「それはありがたい。では他にも買わせて貰おうか」
「それでしたら是非お客さんにおすすめしたいのが!」
店主はやけに明るい表情で置くの檻へ案内する。
「こちらの少女二人です!」
「二人?」
大きめの檻の中には二人の金髪ロングの少女が肩を寄せあって震えていた。一人は怯えるように、もう一人は恨むような目でジェイと店主を睨みつけていた。
「コイツらなんですが、ちょっとした問題がありましてね……」
「問題?」
「ええ。ご覧のように見た目も状態も悪くありません。ですがこれは双子でしてね。二人のどちらかだけ買われて離れ離れになると途端に精神的に不安定になるんですよ。ですので……」
「まとめて買えと?」
ジェイは体良く不良在庫の処理に使われていると気付いた。
「それぞれ五十金貨、合わせて百金貨のところ今ならセットで八十金貨です!」
「七十だ」
「では七十五金貨でどうでしょう」
「……まあいいだろう。どの道何人か買うつもりだったしな」
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