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第一章
62話 再会
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「───さてさて、これが最後の門ですね」
狭く入り組んだ通路を抜けた先に、その最後の門とやらはあった。
最初に抜けた巨大な門から比べれば一回り小さいが、それでも目の前の門は十人がかりでやっと開きそうな、重厚な両開きの門だった。
「門を開けよ!」
ヴァルターが叫ぶ。
しかし、門はピクリともしない。
「何をしているのだ! 早く門を開けろ!」
門の左右には低めの城壁と、少しだけ小高い物見塔が立っていた。
そこに常在する兵士にヴァルターの声は届いているだろう。しかし、彼らはまるで聞こえていないかのように振る舞う。
「おや? 誰かが騒いでいると思って来てみれば……。執事殿が何の御用で西門を?」
塔の下にある、兵士が出入りする用の扉から見覚えのある男が出てきた。
「団長!」
彼はこちらに向けて手を胸の辺りまで掲げてみせた。
「見ればわかるでしょう! ウィルフリードの方々が陛下に謁見を求めてやって来たのです! ですからこのように私手ずから案内を……!」
「それは私たち近衛騎士団が命を受けたはずです。それに、客人の彼らを何故正門から通さないのですか? わざわざ軍の通路を通る必要はないでしょう」
団長は澄ました顔で淡々とヴァルターを問い詰める。
「この田舎貴族の為に威厳ある正門を開くなどという事は……! ……あっ、えっと、こ、これは……」
ついに本性を表した。
それが彼の本音だろう。
中央の、それも皇帝の側近である彼にとって、地方領主の我々は下に見る存在なのだろう。
「執事殿は政治に関わってはいけない規則でしょう。これは立派な違反ではありませんか?」
「……クッ! 混血の紛い物が! もういい!」
そうぶっきらぼうに言い放つとヴァルターは馬から飛び降り、団長が出てきた扉へと消えていった。
団長はそれを冷ややかな目線で横目に見送り、ぽつんと一頭残されたヴァルターの馬の顔にそっと手を乗せた。
「お久しぶりです団長!」
「また会えて嬉しいよ。……と、帝国の英雄は久しぶりだな」
「はは! 最後に会ったのは『反魔王共闘同盟』の締結時に皆が集まった時か!」
「いいや、それより後にも何度か会っているはずだよ。……いや今はそんなこと置いておいて」
団長は私たちに向き直る。そして真剣な目をして頭を下げた。
「先程はヴァルターが大変な失礼をしました。代わりにお詫び申し上げます」
「そんな! 団長が頭を下げることないですよ!」
「そうだ。私も少し皇都での乱政は耳に挟んでいたので心構えはできていたさ。……まさかあれ程堂々とした奴だとは思ってもいなかったが」
父はヴァルターの前で取り繕っていた表情を崩した。その顔は私が今まで見たことがないぐらい怖く、冷たい顔をしていた。
「一体彼は何者なのです?」
「えっと、あなたは……?」
孔明の問いに団長は戸惑っていた。そう言えば前に団長がうちの屋敷に来た時は孔明はまだ居なかったか。
「彼があの後に召喚した、諸葛孔明という英雄です!」
「これはどうも、お初お目にかかります」
私の紹介を聞いて団長はピンと来たようだ。
「あぁ! そう言えばその腕輪の輝きについて話しましたね! ……そうですか、彼がその!」
孔明と団長は会釈を交わす。
「それで、あの男は何者なのですか? あれがこの世界での宦官とでも?」
「えっと、その「かんがん」ってのは分からないのですが……。いや、ここでは人目につきます。まずは中へご案内してからお話しましょう」
「おお! 近くで見るとスゲェなコイツは!」
「はは! そうでしょう! 我らが帝国の皇城はやはり正面から見るのが一番美しいのですよ!」
私たちはさらにぐるりと通路を通り、正門から団長が通してくれた。
門を開けると現れたのは、白く輝くゴシック様式の皇城。さらにその門の周りに控える近衛騎士団だった。
「改めて……。ようこそいらっしゃいました! ここが帝国の中心、そして皇帝陛下のいらっしゃるライヒシュタート城です!」
マントを翻し両手を広げる団長。それを待っていたかのように騎士たちは一斉に敬礼をする。
この旅で何度見たか分からない敬礼。
だが、先程のスカッとする団長の立ち回りと相まって、近衛騎士団の敬礼は間違いなく一番だった。
どこからともなく軍楽隊のファンファーレが鳴り響く。
この音楽が合図だったのだろうか。城の本体である居館(パラス)から数名の男たちが出てきた。
「お待ちしておりましたウルツ=ウィルフリード様。そしてレオ=ウィルフリード様。私たちが今回のファリア反乱について担当となりました政務官のフェルテンと申します」
私たちは慌てて馬車を降りる。
「わざわざ出迎えすまないな」
父が敬語を使わないあたり、ヴァルターと違い彼らは普通の文官のようだ。
よかった。
「いえいえお気になさらず。……それでは早速陛下の元へ、と言いたいところなのですがまだ準備が陛下のご支度が終わっていないのです」
「なるほど、少々早く着きすぎたようだな。だが陛下を急かしてはいけない。どうしようか……」
さてはヴァルターの野郎がこのような非礼を招くように、早く呼び出しに来たのか。
「朝食は済まされてから来られたでしょうか? もし宜しければささやかながら軽食をご用意しました。待合室にてくつろぎながらお待ちいただければと思います」
そういえば父はどうか分からないが、私と歳三、孔明は朝食を食べていない。陛下の御前でお腹が鳴るという醜態はなんとしても避けたいところだ。
「それは有難い! ここは厚意に甘えるとしよう!」
「それでは私がご案内します。少々話しておくべき事があるのです」
「……なるほど。そうですか、分かりました。それでは後のことは団長にお任せします。陛下のご支度が終わりましたら、私が呼びに参りますので、それまで誰も挨拶には行かせないようにします」
団長の言葉にフェルテンも何かを感じ取ったようだ。空気を読んで、私たちと団長だけにしてくれるらしい。
「ではフェルテン殿、よろしく頼んだ」
「よろしくお願いします!」
父と私は、中央の優秀な政務官と軽い握手で別れ、団長に連れられて城の中へと足を踏み入れた。
狭く入り組んだ通路を抜けた先に、その最後の門とやらはあった。
最初に抜けた巨大な門から比べれば一回り小さいが、それでも目の前の門は十人がかりでやっと開きそうな、重厚な両開きの門だった。
「門を開けよ!」
ヴァルターが叫ぶ。
しかし、門はピクリともしない。
「何をしているのだ! 早く門を開けろ!」
門の左右には低めの城壁と、少しだけ小高い物見塔が立っていた。
そこに常在する兵士にヴァルターの声は届いているだろう。しかし、彼らはまるで聞こえていないかのように振る舞う。
「おや? 誰かが騒いでいると思って来てみれば……。執事殿が何の御用で西門を?」
塔の下にある、兵士が出入りする用の扉から見覚えのある男が出てきた。
「団長!」
彼はこちらに向けて手を胸の辺りまで掲げてみせた。
「見ればわかるでしょう! ウィルフリードの方々が陛下に謁見を求めてやって来たのです! ですからこのように私手ずから案内を……!」
「それは私たち近衛騎士団が命を受けたはずです。それに、客人の彼らを何故正門から通さないのですか? わざわざ軍の通路を通る必要はないでしょう」
団長は澄ました顔で淡々とヴァルターを問い詰める。
「この田舎貴族の為に威厳ある正門を開くなどという事は……! ……あっ、えっと、こ、これは……」
ついに本性を表した。
それが彼の本音だろう。
中央の、それも皇帝の側近である彼にとって、地方領主の我々は下に見る存在なのだろう。
「執事殿は政治に関わってはいけない規則でしょう。これは立派な違反ではありませんか?」
「……クッ! 混血の紛い物が! もういい!」
そうぶっきらぼうに言い放つとヴァルターは馬から飛び降り、団長が出てきた扉へと消えていった。
団長はそれを冷ややかな目線で横目に見送り、ぽつんと一頭残されたヴァルターの馬の顔にそっと手を乗せた。
「お久しぶりです団長!」
「また会えて嬉しいよ。……と、帝国の英雄は久しぶりだな」
「はは! 最後に会ったのは『反魔王共闘同盟』の締結時に皆が集まった時か!」
「いいや、それより後にも何度か会っているはずだよ。……いや今はそんなこと置いておいて」
団長は私たちに向き直る。そして真剣な目をして頭を下げた。
「先程はヴァルターが大変な失礼をしました。代わりにお詫び申し上げます」
「そんな! 団長が頭を下げることないですよ!」
「そうだ。私も少し皇都での乱政は耳に挟んでいたので心構えはできていたさ。……まさかあれ程堂々とした奴だとは思ってもいなかったが」
父はヴァルターの前で取り繕っていた表情を崩した。その顔は私が今まで見たことがないぐらい怖く、冷たい顔をしていた。
「一体彼は何者なのです?」
「えっと、あなたは……?」
孔明の問いに団長は戸惑っていた。そう言えば前に団長がうちの屋敷に来た時は孔明はまだ居なかったか。
「彼があの後に召喚した、諸葛孔明という英雄です!」
「これはどうも、お初お目にかかります」
私の紹介を聞いて団長はピンと来たようだ。
「あぁ! そう言えばその腕輪の輝きについて話しましたね! ……そうですか、彼がその!」
孔明と団長は会釈を交わす。
「それで、あの男は何者なのですか? あれがこの世界での宦官とでも?」
「えっと、その「かんがん」ってのは分からないのですが……。いや、ここでは人目につきます。まずは中へご案内してからお話しましょう」
「おお! 近くで見るとスゲェなコイツは!」
「はは! そうでしょう! 我らが帝国の皇城はやはり正面から見るのが一番美しいのですよ!」
私たちはさらにぐるりと通路を通り、正門から団長が通してくれた。
門を開けると現れたのは、白く輝くゴシック様式の皇城。さらにその門の周りに控える近衛騎士団だった。
「改めて……。ようこそいらっしゃいました! ここが帝国の中心、そして皇帝陛下のいらっしゃるライヒシュタート城です!」
マントを翻し両手を広げる団長。それを待っていたかのように騎士たちは一斉に敬礼をする。
この旅で何度見たか分からない敬礼。
だが、先程のスカッとする団長の立ち回りと相まって、近衛騎士団の敬礼は間違いなく一番だった。
どこからともなく軍楽隊のファンファーレが鳴り響く。
この音楽が合図だったのだろうか。城の本体である居館(パラス)から数名の男たちが出てきた。
「お待ちしておりましたウルツ=ウィルフリード様。そしてレオ=ウィルフリード様。私たちが今回のファリア反乱について担当となりました政務官のフェルテンと申します」
私たちは慌てて馬車を降りる。
「わざわざ出迎えすまないな」
父が敬語を使わないあたり、ヴァルターと違い彼らは普通の文官のようだ。
よかった。
「いえいえお気になさらず。……それでは早速陛下の元へ、と言いたいところなのですがまだ準備が陛下のご支度が終わっていないのです」
「なるほど、少々早く着きすぎたようだな。だが陛下を急かしてはいけない。どうしようか……」
さてはヴァルターの野郎がこのような非礼を招くように、早く呼び出しに来たのか。
「朝食は済まされてから来られたでしょうか? もし宜しければささやかながら軽食をご用意しました。待合室にてくつろぎながらお待ちいただければと思います」
そういえば父はどうか分からないが、私と歳三、孔明は朝食を食べていない。陛下の御前でお腹が鳴るという醜態はなんとしても避けたいところだ。
「それは有難い! ここは厚意に甘えるとしよう!」
「それでは私がご案内します。少々話しておくべき事があるのです」
「……なるほど。そうですか、分かりました。それでは後のことは団長にお任せします。陛下のご支度が終わりましたら、私が呼びに参りますので、それまで誰も挨拶には行かせないようにします」
団長の言葉にフェルテンも何かを感じ取ったようだ。空気を読んで、私たちと団長だけにしてくれるらしい。
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