英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

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第一章

75話 買取

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「ヘクセルさん、あなたに提案があります」

「ふわぁぁ、本当に強引な人だね。……聞くだけ聞こうか」

「お屋敷も壊れたようですし、これ機に引越しを検討されてはどうでしょうか?」

「うん、まぁ、そうだね……」

「その際は是非ウィルフリードに。───いや、私の治めるファリアへお越し頂きたい」

「『私の治める』って、君は貴族だったのかい!?」

 ヘクセルは目を丸くした。まさかこんな辺鄙な所に尋ねてくる人間が貴族だとは思いもしないだろう。せいぜい身なりのいい商店の子どもぐらいに思っていたに違いない。

 しかしながら「貴族」という身分の力はやはり大きく、ミラの私を見る目も少し変わったように感じる。

「ええそうです。……あなたの才能をこんな所で食い潰すのは余りに惜しい。もちろん、ミラさんもご一緒に」

「うちはそんな……」

「…………研究費用も融通できると思います」

「───ッ!」

 金をチラつかせるようなことはあまり言いたくはなかった。だが、結果としてそれは大きくヘクセルたちの心を揺さぶった。

 貴重な魔石を使った研究。それにどれほど資金がかかるかは想像に容易い。
 そうでなければこのような所に住んだりしない。

「孔明、なんとかできるよな?」

「……そう言われたら、なんとかするしかないでしょう。───呑舟どんしゅうの魚は枝流におよがず。私もレオと共に来ることをお勧めしますよ」

 孔明も私の考えに理解を示してくれた。

「新天地に向かうに当たって人材確保。間違った考えじゃねェな」

「し、しかし、僕なんかが貴族様の下で働くなんて……」

 ヘクセルが生み出したガラクタの中に光る、時代を変えかねない発明品。
 魔導具というこの世界でも新しい技術の先駆者たる、彼? 彼女? の才能は必ずや私の力になるだろう。

「……すぐに答えは出せないでしょう。ですが、残念ながら私たちは明日にはウィルフリードへ帰らなければなりません。……急かすようで申し訳ないですが、明日の朝、西門でお待ちしております。決心がついたら荷物をまとめて来てください」

「……うん」

 ヘクセルは弱々しく頷いた。彼? 彼女? 自身も相当ぐらついているのだろう。
 突然やってきて、金と場所をやるから着いてこい、などと言われて怪しまない方が難しい。その一方でその提案はあまりに魅力的過ぎた。

「ミラさん、この魔導具はお幾らですか?」

 私は携帯電話のような魔導具を手に取る。

「え、あ、それは銀貨五枚で……」

 日本円にして五千円は安すぎる。
 金に物言わす態度は自分でも腹が立つ。しかし、それ以外に誠意の見せ方が分からなかった。

「金貨三枚で買わせてください。これにはそれ以上の価値がある」

「そ、そんな大金……!」

 私はミラの手に金貨を握らせた。

 日本円にして約三十万円。確か日本初の携帯電話もそのぐらいの値段だったはずだ。

「このお金があればしばらく宿には困らないでしょう。その間に新しい家を探せばいい」

 私は精一杯の笑顔を見せ、言葉を続ける。

「もちろん、そのお金で皇都でしか買えない貴重な材料を集めて私たちと来てもいい。お任せします」

「ううん……」

 ヘクセルはミラの肩を借りてなんとか立ち上がる。

「まあ、その、考えとくよ……」

「はい! それでは!」

 当人の具合も良くなさそうだし、これ以上の長居は避けるべきだと思い、私たちはそそくさと退散した。
 ミラが回復魔法を使えるなら、私たちが他にできることもない。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「巻き込んで悪かったな」

「いえ、お気になさらず……」

 他にも行きたい所がなかった訳ではないが、想像よりも時間を食ってしまったため、私たちは大人しく父の待つ迎賓館へ向かった。

 ケイルもある意味隠蔽に関与してしまったことを気に病んでいるのか、あまり喋らなくなってしまった。彼は根が真面目なのだろう。
 しかし、領民の未来を預かる身として、時にしたたかに生きねばならないのだ。

「それにしてもレオ、まだ実情を把握してもないのに財政の負担を増やすのは頂けませんよ。彼らの研究費も馬鹿にはならないでしょうし」

 孔明は彼でいくようだ。

「そうだぜレオ。これからって時に女を引き連れて帰るってのは、流石の俺もどうかと思うぜ」

 歳三は彼女説を採用か。

「先行投資さ。この世界での火薬の作り方。それだけでも金貨をいくら払っても足りないぐらいの価値がある」

「それは認めます。数々の皇帝が永遠の命を求めて作らせた、練丹術の末に生まれたのがあの火薬。神仙の術とも呼ばれるあの力は私でさえ計り知れぬ所です」

「刀と槍の時代が終わり、銃と大砲の時代がやってくる。……今度は俺が時代を先取りする側ってのも数奇なもんだな!」

 何だかんだ言って私の両腕はいつだって味方でいてくれる。
 時に助け、時に戒める。こんな心強い味方は他にいるだろうか?

 しかしながら、物騒な話を始める連中を背に、ケイルは身震いをした。



「到着しましたー」

 皇都の端から中心街まではかなりの距離があり、相当な時間を要した。しかし人通りの減少もあってか、なんとか日が暮れる前には戻ってこれた。
 これでアルガーにも怒られずに済む。

「ありがとうなケイル。案内してくれて助かったよ。また今度皇都に来る機会があればまたお願いしたいな」

「は! ありがたきお言葉」

 やはり不信感を買っているのだろう。彼のよそよそしく行儀めいた振る舞いに、僅かながら距離感を感じ胸が傷んだ。

「……じゃあな」
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