76 / 262
第一章
74話 神仙ノ術
しおりを挟む
「だ、大丈夫ですか!?」
私は咄嗟にミラの肩を抱き伏せさせていた。
歳三は私たちと衝撃の方向の間に入り、自らを壁として守ってくれている。
孔明は離れた入口付近で立ち尽くしていたのが功を奏し、爆風で髪が乱れた程度の被害のようだ。
「うちは大丈夫です……。ってお師匠様の部屋が!」
ミラの見つめる先には、弾け飛んだ扉と大きな穴を開けた壁。それらの隙間から黒い煙が上がっていた。
火事かとも思ったが、それならあんな爆発はしない。
それなら魔石の魔力が暴走して爆ぜたのかとも思ったが、今度はあの煙の説明がつかない。
心臓は唸りを上げ、衝撃で耳鳴りも酷いがなんとか状況を整理しようとしていたその時、とある事に気がついた。
「ん……? この匂い、どこかで……」
「えっ! うちそんな匂いますか!?」
ミラの甘くて爽やかな匂いと木の焦げる匂いに混ざって、以前どこかで嗅いだことのある匂いがする。
どこだ、思い出せ……。
………………そう、あれは、夏の日だ。
────! 思い出したぞ……。とある一夏の苦い思い出と共に……。
「……歳三。お前なら知ってるんじゃないか? この匂いを」
「あァ勿論だ。嫌というほどな……」
そう、それはあの人と行った夏祭り。思い破れ涙を飲んだ忘れもしないあの花火。つまり……
「「火薬だ!」」
もし本当に火薬が暴発したならヘクセルの身が危ぶまれる。
一刻も早く、彼? 彼女? の手当を行わなければ!
「な、何があったんですか!?」
ケイルも形相を変えて飛び込んできた。
「想定外の事故が起こった! あの奥に怪我人がいるかもしれない! いや、まずはケイルは井戸から水を汲んできてくれ!」
「井戸なら庭にあります!」
ミラは外へ繋がる扉を指さした。
ケイルはそれを見ると大きく頷き走り出す。
「わ、分かりました……!」
私が訪問した先で火事が起こり、皇都で火の手が広がったなどとなれば、アルガーは心労で胃に穴があいてしまう。
私が慌ててヘクセルの部屋へ行こうとすると、歳三が私の腕を強く握り制止した。
「俺が行く。レオたちはここで待ってろ。まだ火薬が残っていたらこの火に炙られてまた引火するかもしれねェ」
「気をつけてくれ」
「おうよ」
幸いにも壁や扉が燻ってる程度で大きな火は上がっていない。
歳三はボロボロになって残された扉の枠を蹴破りヘクセルの部屋へ突入した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
程なくして歳三は焦げ付いた服に身を包む人間を抱えて出てきた。
歳三の頭には煤が被っていたが、本人はなんともないようで、涼しい顔をしている。
「お、お師匠様! 怪我はありませんか!?」
すぐさまミラが駆け寄る。
「…………う、……うーん」
どうやら意識はあるようだ。
それに見たところ大きな外傷もない。
と、そこにケイルがバケツいっぱいの水を運んできた。
「よし、俺らは火をなんとかするぞ!」
「はい!」
歳三はヘクセルを床にゆっくりと置き、赤黒く光る木々の端を踏み消してまわる。
ケイルは爆発の中心であろう、かつて机だったものに水をかけた。
あっという間に火は消し止められ、白い煙が立ち上った。
私とミラはその間、ヘクセルの介抱を行う。
「すぐに良くなりますからね! ……回復!」
「あれ? 聖職者でもないのに回復魔法……? 珍しいですね」
「あっ! ……えっと、その…………」
なんにせよ彼女の特技がヘクセルを救った。
「そこにいるのはミラかい? ───はは、実験は失敗だよ……」
「お怪我はありませんか?」
「ええと、君は誰かな……。いやぁ、僕はなんともないよ」
中性的だが整った顔と判別つかない体つき。それでいて声まで特徴がないから困った。
彼? 彼女? の身が心配だが軽々しく触れる訳にもいかない。
「おいおい、野ざらしは流石に危な過ぎるぜ」
歳三は手のひら程のすり鉢に入った黒色の粉を抱えている。
この独特な匂いは間違いなく火薬だった。
「ふわぁぁ、随分と沢山のお客さんが来ていたみたいだね……。まいった……」
人と話すのが苦手と言うのは本当らしく、珍妙な唸り声をあげる彼? 彼女? を前に私は対応に困ってしまった。
「わ、私は憲兵にこの事を知らせてきます」
「待てケイル!」
それはとっさの判断だった。
「ここは私がなんとかする」
「いやでも……」
「信じてくれ」
私はケイルの瞳をじっと見つめる。
この技術は誰にも渡してはならない。少なくとも帝国の手にだけは。帝国がこの火薬の存在を知れば、間違いなく戦争はさらに過酷を極めるだろう。
そして王国の手に渡れば、最悪の結末、そう、「世界大戦」を招くに違いない。
その実、単に私のみが火薬の有用性を理解し、独占したいだけかもしれない。だが、少なくともそういう建前は存在していた。
「わ、分かりました……」
ケイルは渋々私の願いを聞き遂げてくれた。
「君は随分と強引なんだね……。それで僕をどうするつもりだい?」
ヘクセルは辛そうに薄く目を開けて私を見る。
私の不自然な言動を訝しむミラの視線が痛かった。
私は咄嗟にミラの肩を抱き伏せさせていた。
歳三は私たちと衝撃の方向の間に入り、自らを壁として守ってくれている。
孔明は離れた入口付近で立ち尽くしていたのが功を奏し、爆風で髪が乱れた程度の被害のようだ。
「うちは大丈夫です……。ってお師匠様の部屋が!」
ミラの見つめる先には、弾け飛んだ扉と大きな穴を開けた壁。それらの隙間から黒い煙が上がっていた。
火事かとも思ったが、それならあんな爆発はしない。
それなら魔石の魔力が暴走して爆ぜたのかとも思ったが、今度はあの煙の説明がつかない。
心臓は唸りを上げ、衝撃で耳鳴りも酷いがなんとか状況を整理しようとしていたその時、とある事に気がついた。
「ん……? この匂い、どこかで……」
「えっ! うちそんな匂いますか!?」
ミラの甘くて爽やかな匂いと木の焦げる匂いに混ざって、以前どこかで嗅いだことのある匂いがする。
どこだ、思い出せ……。
………………そう、あれは、夏の日だ。
────! 思い出したぞ……。とある一夏の苦い思い出と共に……。
「……歳三。お前なら知ってるんじゃないか? この匂いを」
「あァ勿論だ。嫌というほどな……」
そう、それはあの人と行った夏祭り。思い破れ涙を飲んだ忘れもしないあの花火。つまり……
「「火薬だ!」」
もし本当に火薬が暴発したならヘクセルの身が危ぶまれる。
一刻も早く、彼? 彼女? の手当を行わなければ!
「な、何があったんですか!?」
ケイルも形相を変えて飛び込んできた。
「想定外の事故が起こった! あの奥に怪我人がいるかもしれない! いや、まずはケイルは井戸から水を汲んできてくれ!」
「井戸なら庭にあります!」
ミラは外へ繋がる扉を指さした。
ケイルはそれを見ると大きく頷き走り出す。
「わ、分かりました……!」
私が訪問した先で火事が起こり、皇都で火の手が広がったなどとなれば、アルガーは心労で胃に穴があいてしまう。
私が慌ててヘクセルの部屋へ行こうとすると、歳三が私の腕を強く握り制止した。
「俺が行く。レオたちはここで待ってろ。まだ火薬が残っていたらこの火に炙られてまた引火するかもしれねェ」
「気をつけてくれ」
「おうよ」
幸いにも壁や扉が燻ってる程度で大きな火は上がっていない。
歳三はボロボロになって残された扉の枠を蹴破りヘクセルの部屋へ突入した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
程なくして歳三は焦げ付いた服に身を包む人間を抱えて出てきた。
歳三の頭には煤が被っていたが、本人はなんともないようで、涼しい顔をしている。
「お、お師匠様! 怪我はありませんか!?」
すぐさまミラが駆け寄る。
「…………う、……うーん」
どうやら意識はあるようだ。
それに見たところ大きな外傷もない。
と、そこにケイルがバケツいっぱいの水を運んできた。
「よし、俺らは火をなんとかするぞ!」
「はい!」
歳三はヘクセルを床にゆっくりと置き、赤黒く光る木々の端を踏み消してまわる。
ケイルは爆発の中心であろう、かつて机だったものに水をかけた。
あっという間に火は消し止められ、白い煙が立ち上った。
私とミラはその間、ヘクセルの介抱を行う。
「すぐに良くなりますからね! ……回復!」
「あれ? 聖職者でもないのに回復魔法……? 珍しいですね」
「あっ! ……えっと、その…………」
なんにせよ彼女の特技がヘクセルを救った。
「そこにいるのはミラかい? ───はは、実験は失敗だよ……」
「お怪我はありませんか?」
「ええと、君は誰かな……。いやぁ、僕はなんともないよ」
中性的だが整った顔と判別つかない体つき。それでいて声まで特徴がないから困った。
彼? 彼女? の身が心配だが軽々しく触れる訳にもいかない。
「おいおい、野ざらしは流石に危な過ぎるぜ」
歳三は手のひら程のすり鉢に入った黒色の粉を抱えている。
この独特な匂いは間違いなく火薬だった。
「ふわぁぁ、随分と沢山のお客さんが来ていたみたいだね……。まいった……」
人と話すのが苦手と言うのは本当らしく、珍妙な唸り声をあげる彼? 彼女? を前に私は対応に困ってしまった。
「わ、私は憲兵にこの事を知らせてきます」
「待てケイル!」
それはとっさの判断だった。
「ここは私がなんとかする」
「いやでも……」
「信じてくれ」
私はケイルの瞳をじっと見つめる。
この技術は誰にも渡してはならない。少なくとも帝国の手にだけは。帝国がこの火薬の存在を知れば、間違いなく戦争はさらに過酷を極めるだろう。
そして王国の手に渡れば、最悪の結末、そう、「世界大戦」を招くに違いない。
その実、単に私のみが火薬の有用性を理解し、独占したいだけかもしれない。だが、少なくともそういう建前は存在していた。
「わ、分かりました……」
ケイルは渋々私の願いを聞き遂げてくれた。
「君は随分と強引なんだね……。それで僕をどうするつもりだい?」
ヘクセルは辛そうに薄く目を開けて私を見る。
私の不自然な言動を訝しむミラの視線が痛かった。
19
あなたにおすすめの小説
スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。
大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。
そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。
しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。
戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。
「面白いじゃん?」
アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる