英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

文字の大きさ
98 / 262
第二章

96話 決起

しおりを挟む
「────うォー!痛てェ!」

 私が食堂で軽食をつまみながら、母に近況報告をしていると歳三がやってきた。
 服はボロボロで、所々から血が滲んでいる。

「勝敗は?」

 私はすかさずそう聞いた。

「俺がここに居るって事は……」

「……おめでとう歳三」

 歳三は満足気に笑ってみせた。どうやら今回は父が医務室送りになったらしい。
 しかし、刀を腰元で握る手がカタカタと震えている辺り、かなりの激戦であったと伺える。

「お代わりのお茶をお持ち……まぁ!」

 歳三はすぐさまマリエッタに首根っこを掴まれて、医務室まで連行されていった。

「歳三は毎日あんな調子?」

「いえ、普段は真面目に兵たちに稽古をつけています。今のファリア軍なら、ウィルフリードの兵士にも負けませんよ。……ただ、ファリアには歳三や父上に匹敵するほどの人物はいないので、抑えきれなかったのでしょう」

「ふふふ、そう……。戦争は何があるか分からないわ。レオも今のうちにしたいことはしときなさい」

 母はそう言いながら目を細めた。
 美しく透き通ったその全てを見通す瞳の奥に、微かに悲しみの色が見て取れた。

「母上はこの度の出兵には同伴を?」

「いいえ。今回は私まで名指しで呼ばれていないから行かないわ。むしろ前回の魔王領討伐の命が特殊だったのよ」

「そうですよね……」

 本来であれば、戦場は女子供が来るべき場所ではない。……と、少なくとも男である私はそう思う。

「レオも気がつけばもう十二歳。帝国法では立派な成人よ。だから従軍命令には背けないわ……」

 母は悲しそうな、しかし息子の成長を優しく眺めるように目を細めた。

「戦争が始まって、レオも領主としての地位と責任がある。これでは貴族学園にも行けないわね……。だから、今だけはやりたいことをやっておきなさい?」

「私のしたいことですか……」

 私はそっと目を瞑る。
 瞼の裏に浮かぶのは、家族や、歳三、孔明、タリオ、シズネらとの団欒の景色ばかりだ。

「──今夜は、みんなで楽しく食卓を囲みたいです」

「そうね。そうしましょう。……きっとその頃には孔明も来るわ」

 夜から明日の出立まで、熱い議論がこの部屋や会議室で行われるのだろう。アルガーともその時に会えるだろうか。
 それまでの、ほんの少しの幸せな日常。

 そんな瞬間も、東の果てでは帝国の兵士と、罪もなき亜人・獣人たちが命を落としている。

「マリエッタ、準備してちょうだい」

「かしこまりました」

 僅かばかりの平和に浸っていたい。それだけが私の願いだ。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「皆様、大変お待たせ致しました。諸葛孔明、到着しました。」

 日はすっかり傾いて、屋敷中のランプには日が灯されている。
 そのうち幾つかの食堂のシャンデリア、はヘクセルお手製の光の魔石ランプに置き換わっていた。

「遅かったな孔明。さあ、もう食事にしよう」

「はい、頂きます」

 食堂には続々と料理が運ばれて来る。

「ふぅ……!いやぁ負けた負けた!」

 思ったよりもだいぶ重症な父が現れた。包帯グルグル巻きの父は、歳三の肩を借りてやっと立っているようだ。

「ち、父上……、その傷は後々響きませんか……?」

「ははは!大丈夫だ!長い行軍には十分な休息が必要だ。休み休み行くから、エルフの森に着く頃にはまた万全になるはずだからな!」

「一応、互いに深手は避ける戦い方をしたいしなァ?はは!」

 それなら大将は最初から万全な状態で出軍すべき……、という言葉は飲み込んだ。
 父のその言い訳も、今だからこそ言えることだ。戦場へ行けば否応なしに剣を握り続けなければならないのだから。

「良かったら、マリエッタや他の家の者も参加してくれないか?皆で食べた方がきっと楽しい」

「……かしこまりました。準備が出来次第、手隙の者を集めます」

「うん、頼むよ」

 こうして、複雑な心中の中、最後かもしれない晩餐会が開かれた。




「──ふむ!これは美味ですね!流石はレオが考えた“すいーつ”なるものです!」

「あぁ。私自身がどうしても甘いものが食べたくなってな。いやいや、砂糖が作れる作物があって良かったよ」

 前年からファリアでは果物や穀物とは別に、輸出用の商品作物にも手をつけた。そのひとつが砂糖の製造という訳である。

 あまり知られていないが、砂糖にはわずかながら依存性がある。一度世間に受け入れられれば、間違いなく恒久的な財源になりうる。
 生産の拡大は即ちファリアの発展に直結するだろう。

 ちなみに、例に習ってこれも製造法は私たちが独占している。
 ……特許などの仕組みがないからね、仕方ないね。き、聞かれれば答えるよ。

「母上、マリエッタ、スイーツは食べすぎると太ってしまうから気をつけてくださいね」

 私の言葉も聞かずに、母はリンゴを砂糖に漬けたコンポートを頬張る。

「これを軍に導入すれば兵たちの士気も上がりそうだな!」
「おいおい、そんな事より俺お手製のたくあんも食べてくれよ!」

「奥様、こちらもどうぞ」
「あら、ありがとうマリエッタ」

「こんなに立派なものを僕が頂いて良いのでしょうか……」
「えぇ、私も初めてで……」
「いいから食べよう!……あぁ!ウィルフリード家に仕えられて俺たちは幸せ者だ!」

 この光景を目の前にして、私は思わずクスリと笑みがこぼれた。
 これを守る為に、私は敵を殺めなければならない。

「──それでは私はこれで失礼します。お休みなさい」

 私はその場をそっと立ち去った。

 浸っていたい日常と、
 これから向かう残酷な戦場との落差に絶望しないうちに、
 何も考えず、
 今日は、
 ……眠りたい。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

処理中です...