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第二章
108話 邂逅
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私はこの世界では世にも珍しい横開きの玄関の前に立ち、扉をノックした。
「……誰だ」
中から太く低い声で返事が帰ってきた。
「プロメリア帝国ファリア領領主、レオ=ウィルフリードです。妖狐族の長殿とお話がしたく参りました」
私は見えない相手に声を張り上げ、そう伝えた。
「……もう一人は誰だ」
意外な返答に、私たちは思わず顔を見合わせた。
あちらからは見える位置にいるのだろうか。それとも、魔力や何か気配を察知しているのだろうか。
「……レオの付き人をしている土方歳三と申す。許可は受けていないが、敵意はない。何卒レオと共に屋敷へ上がらせて頂きたく参った!」
こういう所は侍らしく、格好いい歳三の姿が見れる。
「……まぁいいだろう。カワカゼがそう判断したならな。──二人とも入れ」
私は恐る恐る木の扉を右に開いた。
そして目に飛び込んできたのは、懐かしいあの顔だった。
「し、シズネさん……」
「ごめんねレオくん……。今は何も話せないの──」
そこにいたシズネはウィルフリードやファリアで共に過ごした彼女とは少し違うように見えた。
それは悲しみに満ちた伏し目がちな視線のせいか、堅苦しく何重にも着物を着ているからか。
「こっちへ……」
私たちは寂しげに丸まったシズネの背中を追った。
丁寧に結われたシズネの髪には、私が彼女と街に出掛けた時に買ってあげた髪飾りはなかった。
「──どうぞ……」
渡り廊下を進んだ先にある襖をシズネが両手で丁寧に開ける。
「──よく来たな、とだけ言っておこう」
「あなたが妖狐族の長ですか……」
畳と障子でできた部屋の奥には、戦国時代の甲冑のような軽装鎧に身を包んだ妖狐族の男がいた。髪と獣の耳には金に白髪が混じり、尾は細りシズネのようなふわふわさはなかった。
胡座をかき、短く切りそろえられた髭を撫でる彼にはどことなく威厳や威圧感の類を感じる。
「いかにも。俺がこの妖狐族の里、ヤマトの里が長、ヒュウガ=ミツルギである」
ヒュウガと名乗る彼はハキハキと区切りながら、私を真っ直ぐ見つめて言い切った。
私は慌てて正座をし、彼の挨拶に応じる。
「改めまして、私はプロメタリア帝国ファリアから参りました、レオ=ウィルフリードです。この度はこのような場を設けて頂き感謝申し上げます」
「同じく土方歳三。よろしくお願い致す」
「……ふん。最低限の礼儀は弁えているようだな」
歳三も刀を右脇に置き、拳をついて頭を下げていた。
たまたま二人とも日本人だったおかげで、自然と正しい態度で臨めて良かった。どうやら妖狐族というのは礼儀を特に重要視しているらしい。
私も慌てて武士の礼儀に習い刀を右脇に置いた。
「今回は娘がどうしてもと言うので時間を取ったが、本来は事前に連絡もなしに押しかけるとは言語道断だぞ」
「申し訳ありません。しかし、事態が事態です。私は一刻も早くこの戦争を終わらせるためにやって参りました」
「……まぁ理屈は分かる。──“フブキ”、彼らにお茶を。仮にも客人をもてなさないとは、我が名が傷つくというものよ」
「……はい」
フブキと呼ばれ返事をしたのは、私たちがシズネと呼んでいた人物だった。
彼女はヒュウガに言われるがまま、部屋を出ていき恐らくは台所の方へ向かった。
「ご息女ですか?」
「ああ。何やら其方で世話になっていたらしいな」
「……いえ、お世話になったのは私の方です。シズネさん──、いや、フブキさんは私の家庭教師として長年勤めてくれました」
「偽名を使い身分を隠してまでして、外の世界を知りたいなどと言って飛び出した我が我儘娘よ」
普通こうした突拍子もない行動は抑圧されるものだと思っていたが、ヒュウガのどこか嬉しそうな顔を見るに、知への好奇心は妖狐族に取って代わることのない最も大切な部分なのだと感じた。
「それでヒュウガ殿、これも何かの縁と思い私にご助力願いたいのです」
私は畳に額が付くほど頭を下げた。
「……武力を持たない我々妖狐族に戦争をどうこうできるとは思わないがな。……まず聞くだけ聞こう。話はそれからだ」
「ありがとうございます」
私は顔を上げ、ヒュウガの細く鋭い目に気圧されないよう、拳を握りしめた。
「単刀直入に言います。この戦争において亜人・獣人の軍を率いているのは誰なのでしょうか。私が直接彼らに話をつけにいきます」
「……くくく!──はははは!そんな事ができるものか!そんなもの、お前たち帝国軍がさっさと引き返せば良いのだ。それも出来ないのに理想を口にする権利があるのか?」
ヒュウガは大きく口を開けて笑った。
正直に言って、全くもってその通りではある。しかし、ただ帝国が撤退しただけでは根本的解決にならない。
帝国は領土的野心を決して諦めることはないし、この戦争に巻き込まれた亜人や獣人たちは必ず復讐を誓うだろう。
私とて無策でこの場にいる訳ではない。孔明に頼らずとも、自ら考えた言葉をただ伝えるだけだ。
私は覚悟を決め、大きく息を吸い込んだ。
「……誰だ」
中から太く低い声で返事が帰ってきた。
「プロメリア帝国ファリア領領主、レオ=ウィルフリードです。妖狐族の長殿とお話がしたく参りました」
私は見えない相手に声を張り上げ、そう伝えた。
「……もう一人は誰だ」
意外な返答に、私たちは思わず顔を見合わせた。
あちらからは見える位置にいるのだろうか。それとも、魔力や何か気配を察知しているのだろうか。
「……レオの付き人をしている土方歳三と申す。許可は受けていないが、敵意はない。何卒レオと共に屋敷へ上がらせて頂きたく参った!」
こういう所は侍らしく、格好いい歳三の姿が見れる。
「……まぁいいだろう。カワカゼがそう判断したならな。──二人とも入れ」
私は恐る恐る木の扉を右に開いた。
そして目に飛び込んできたのは、懐かしいあの顔だった。
「し、シズネさん……」
「ごめんねレオくん……。今は何も話せないの──」
そこにいたシズネはウィルフリードやファリアで共に過ごした彼女とは少し違うように見えた。
それは悲しみに満ちた伏し目がちな視線のせいか、堅苦しく何重にも着物を着ているからか。
「こっちへ……」
私たちは寂しげに丸まったシズネの背中を追った。
丁寧に結われたシズネの髪には、私が彼女と街に出掛けた時に買ってあげた髪飾りはなかった。
「──どうぞ……」
渡り廊下を進んだ先にある襖をシズネが両手で丁寧に開ける。
「──よく来たな、とだけ言っておこう」
「あなたが妖狐族の長ですか……」
畳と障子でできた部屋の奥には、戦国時代の甲冑のような軽装鎧に身を包んだ妖狐族の男がいた。髪と獣の耳には金に白髪が混じり、尾は細りシズネのようなふわふわさはなかった。
胡座をかき、短く切りそろえられた髭を撫でる彼にはどことなく威厳や威圧感の類を感じる。
「いかにも。俺がこの妖狐族の里、ヤマトの里が長、ヒュウガ=ミツルギである」
ヒュウガと名乗る彼はハキハキと区切りながら、私を真っ直ぐ見つめて言い切った。
私は慌てて正座をし、彼の挨拶に応じる。
「改めまして、私はプロメタリア帝国ファリアから参りました、レオ=ウィルフリードです。この度はこのような場を設けて頂き感謝申し上げます」
「同じく土方歳三。よろしくお願い致す」
「……ふん。最低限の礼儀は弁えているようだな」
歳三も刀を右脇に置き、拳をついて頭を下げていた。
たまたま二人とも日本人だったおかげで、自然と正しい態度で臨めて良かった。どうやら妖狐族というのは礼儀を特に重要視しているらしい。
私も慌てて武士の礼儀に習い刀を右脇に置いた。
「今回は娘がどうしてもと言うので時間を取ったが、本来は事前に連絡もなしに押しかけるとは言語道断だぞ」
「申し訳ありません。しかし、事態が事態です。私は一刻も早くこの戦争を終わらせるためにやって参りました」
「……まぁ理屈は分かる。──“フブキ”、彼らにお茶を。仮にも客人をもてなさないとは、我が名が傷つくというものよ」
「……はい」
フブキと呼ばれ返事をしたのは、私たちがシズネと呼んでいた人物だった。
彼女はヒュウガに言われるがまま、部屋を出ていき恐らくは台所の方へ向かった。
「ご息女ですか?」
「ああ。何やら其方で世話になっていたらしいな」
「……いえ、お世話になったのは私の方です。シズネさん──、いや、フブキさんは私の家庭教師として長年勤めてくれました」
「偽名を使い身分を隠してまでして、外の世界を知りたいなどと言って飛び出した我が我儘娘よ」
普通こうした突拍子もない行動は抑圧されるものだと思っていたが、ヒュウガのどこか嬉しそうな顔を見るに、知への好奇心は妖狐族に取って代わることのない最も大切な部分なのだと感じた。
「それでヒュウガ殿、これも何かの縁と思い私にご助力願いたいのです」
私は畳に額が付くほど頭を下げた。
「……武力を持たない我々妖狐族に戦争をどうこうできるとは思わないがな。……まず聞くだけ聞こう。話はそれからだ」
「ありがとうございます」
私は顔を上げ、ヒュウガの細く鋭い目に気圧されないよう、拳を握りしめた。
「単刀直入に言います。この戦争において亜人・獣人の軍を率いているのは誰なのでしょうか。私が直接彼らに話をつけにいきます」
「……くくく!──はははは!そんな事ができるものか!そんなもの、お前たち帝国軍がさっさと引き返せば良いのだ。それも出来ないのに理想を口にする権利があるのか?」
ヒュウガは大きく口を開けて笑った。
正直に言って、全くもってその通りではある。しかし、ただ帝国が撤退しただけでは根本的解決にならない。
帝国は領土的野心を決して諦めることはないし、この戦争に巻き込まれた亜人や獣人たちは必ず復讐を誓うだろう。
私とて無策でこの場にいる訳ではない。孔明に頼らずとも、自ら考えた言葉をただ伝えるだけだ。
私は覚悟を決め、大きく息を吸い込んだ。
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