英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

文字の大きさ
122 / 262
第二章

120話 舌戦

しおりを挟む
 亜人・獣人との正式なったが交渉は三日後。つまり準備にかけられるのは二日しかない。あまりに短い準備期間だ。
 それでもやるしかない。

 そもそも論として、帝国内での貴族間の関係は複雑で、権力闘争も熾烈を極めている。実際に私が二年前ファリア反乱を体験したように、各地で反乱や小規模な紛争は数え切れないほど起こっていた。
 各々の利益と思惑が絡み合った会議は一進一退。明快な解決策を見いだせないまま白熱した論争が繰り広げられた。

 特に東に位置する領土を持つ領主たちは、初期から戦いを続けていたこともあり自分たちの武功に応じた土地や金品などを要求している。それは帝国から与えられるものはもちろんのこと、亜人・獣人らから戦争の結果として奪うという意味だ。
 しかし一方的な搾取は長期間成り立たない。すぐに彼らの反発を招き、再び戦争が始まるだろう。

 そんな理由から私は亜人・獣人側にも配慮した和解案を提案するが、当然の如く猛反発を食らう。初日から会議は混沌を極めた。
 だが私自身の領地にとっても交易などの問題もあるので諸領主との対立もできるだけ避けたい。

 帝国と亜人・獣人の国々。地方領主と中央政府。そして地方領主と地方領主。
 この二律背反する二者全てに納得がいくような内容など不可能だ。




「なぁ孔明……、何か妙案はあるか……?」

 私は領主たちの入れ替わりで時間が空いた隙に、空いた天幕を見つけそこで二人で相談することにした。

「実を言うと、少し大望を抱いております。これは好機なのですよ。多くの人々の欲望が醜く渦巻く壺の中に一滴の毒を混ぜたとしても、それに気がつく者は少ない。この状況を逆手に取り、我が君を王にするための秘策を練っている所です」

 孔明は羽扇の下で不敵な笑みを浮かべながらそう言う。

「えっと……、色々聞きたいことがあるんだが……。まずその最近急に出てくる『我が君』ってのはどうしたんだ……?」

「これですか。えぇ。私がこの世界に来て初めて、レオが戦で勝利を収める姿を目の当たりにしました。そこでレオの中に確かに眠る王の器を確かに感じたのです。貴方なら、きっと天下泰平の世を統べる王となれるだろう、と」

「そ、そうか……!それなら良かった……?──その期待を裏切らないよう、これからも頑張ろうと思うよ……」

 孔明がそんなことを真顔で言うもんだから、私は王には到底似つかわしくない、おどおどとした返事をしてしまった。

「そ、それで、その秘策とやらを教えてくれないか?」

「いいですかレオ。この場合、誰が敵か、誰に損得が生まれるのかといった利害得失ばかり考えても仕方ありません。まずは私たちが持つ手札を考えましょう」

「手札……?」

「そうです。例えばファリア領はレオにとって一番自由に使える手札でしょう」

「確かに、私の領土だからな」

「そして少し視野を動かせば、ウィルフリードもあり、ウィルフリード程の都市は切り札ともなり得る一枚ですね」

 孔明は袖の中からおもむろに小さな地図を取り出した。
 それはファリアを中心に周辺の村やウィルフリードなどの近隣領土が記されたものだった。

「他にも私たちに協力してくれるような人物はいないでしょうか?」

 孔明がわざわざ地図を取り出した意味を考え、よく見てから答える。

「リーンの街か」

「そうです。そしてこの三者を線で結べば……」

 地図上には少々歪な三角形が描き出された。

「これが今の私たちの勢力圏となるでしょう。リーンの街自体は手札に加えることはできないですが、この三角形の勢力圏の中なら私たちの手札にしても良いとは思いませんか?」

「確かに、各領主は自らが領有する領土周辺地域開拓に関する権利を有する。……だがこの中に有益そうなものと言えば……、ファリアが有する鉱山ぐらいしか思い浮かばないな」

「リーンを含めた理由をもう一度考えてください」

「……!そうか、その発想があったか!確かに亜人や獣人ならむしろ……」

 私が正解を導き出したことに、孔明は満足そうに頷いた。




「第一に考えることとして、今ある手札についてでした。それでは次は新たな手札を手に入れましょう」

「新たな手札?」

「はい。このように多くの貴族が集まっているというのも珍しいもの。好機と捉えるべきでしょう」

「……友好関係を築くなら今しかないな」

「流石は我が君、その通りにございます!」

 今度はヒントなしで私から先に答えを出したことで、孔明は大袈裟に頭を下げた。

「……と言っても、その先は何も浮かんでいないぞ」

「そうですね……。レオの評判が高まっているのは今が最高潮でしょう。お父上であるウルツ殿が武功を立てその名を広めたように、レオも帝国内での確固たる地位を確立していくべきでしょう」

「では、父上に相談して、この戦いに参加している父上のかつての戦友たちを紹介してもらい、父上だけでなくウィルフリード家としての付き合いを考えるべきだな」

「その通りにございます。武勇に秀でた者同士で手を組むことはレオの“今後”にとって、大きな布石となるだろうと考えています……」

 平和を目指す私が武闘派の派閥を作るというのはなんとも滑稽な話ではある。
 しかし、亜人・獣人の国々といった、国家規模の問題に直面している以上、ファリアといった小さな領地ではなく、帝国内での勢力圏を築き対処すべきであるというのは至極当然の考えであった。

 それに父が英雄と呼ばれる程偉大な人物であること。父のツテでザスクリア=リーンと知り合い、リーンの街との友好を結べた実績があるということ。
 これらを鑑みて、私はすぐに父の協力を仰いだ。



 それからというもの、私は選挙活動さながら、父や孔明らと一緒にできるだけ多くの貴族へ挨拶回りを行った。

 今回の戦争でのファリア、ウィルフリード両軍の圧倒的な活躍。特にファリアの斬新な戦術とそれを用いて終戦に導いた私。その私が描く今後の帝国の構図。

 これらを弁舌に優れた孔明の熱弁と、信頼に厚い父の後押しに、大抵の実力派貴族たちは好意的な反応を示してくれた。
 一方で、父の爵位が与えられた経緯などに未だ反感を持つ保守派貴族らの反応は鈍いものだった。

 それでも二日間、私たちはめげずに彼らを口説き回った。




 そして三日目の朝になり、何とか各貴族が求める条件をまとめた最終案に、今回の戦争に参加した全三十二の貴族のうち二十八の貴族から了承のサインを貰えた。

「──ふぅ……。それにしてもよく集まったな……」

「しかしこれはあくまでも最低条件。これを元にどれだけ有利に……、いえ、穏便な条約を結べるかですよ」

「ああ。そして最後は皇帝陛下に承認いただけるような条約にせねばならない」

「厳しい戦いには違いありません。ですが、粉骨砕身、全力で挑む他ありません」

「ああ。──さぁ、行こうか……!」

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

処理中です...