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第二章
124話 締結
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最近はあらゆる会議が紛糾し、流石の私も対立する人の間を取り持つのも上手くなったものだ。
「そんな皆さんの不安を解消するために、この会議の後簡単な説明会を開こうと思います」
「……説明会?」
「はい。──偶然にもこの場には帝国にも名高い高位の貴族が十数名います。身内のことを言うのもなんですが、私の父ウルツ=ウィルフリードは帝国最強の英雄と呼ばれています。……そんな父の隷下で戦えば自らの武勇を高めることもできるでしょう」
この言葉に最も反応したのらリカードであった。
力こそ原始の理と説く彼ら人虎族にとっては心惹かれる条件足り得るとの私の予想は的中したようだ。
「他にもこちらにいらっしゃるデアーグ=エアネスト公爵はより魅力的な提案があるそうです」
私のパスにデアーグは頷き、その場で立ち上がった。
「私の領内で開拓事業を行う方には十年間の税を免除します。そして十年が過ぎた後、税さえ納めれば、開拓村……、いや、街にまで発展した地域での自治を認め兵役等の一切の義務を課さないとお約束しましょう」
「そ、それはいずれ国とも呼べる規模になってもか……?」
「ええ。私の領民を手にかけることがなければ、永遠にその権利を認めます」
「なんということだ……!」
この中で最も高位なエアネスト家だからこそできる芸当だ。
彼の持つ広大な領地なら小さな国を抱えることも可能であり、更に中央政府への強い力を持つ彼ならそれを認めさせることも夢ではない。これは私にはできないことだ。
「エアネスト公ほどではありませんが、私からも提案があります」
デアーグの顔を立てつつ、私自身の利益も逃さない。
「貧弱な私がリカード殿に一矢報えた理由。それはこの刀という武器にあります」
そう言いながら私が刀を掲げると、リカードはびくりと肩を震わせた。
「何を隠そうこの刀は帝国で腕を振るうドワーフの名工、ザーグ氏による一振なのです。ドワーフの技術力を命を持って体感したこの私だからこそ、ドワーフの方々にはその恩を返したい。もし私の新設する新たな開発機関に所属して頂けるのなら、一生家族も生活に困らないほどの報酬といかなる要望にも応えるだけの予算を準備し皆さんを迎え入れます」
「ふむ……。それは確かに良い話だ……」
ドワーフの族長はもさもさの髭を撫でながら私の提案を吟味している。
「……妖狐族の方は早くから私の理念に共感して頂き、そのお力を借りました。よって次は私たちが妖狐族の求める情報、技術、安全な土地を提供します。──技術面ではドワーフの方々との橋渡しにもなるでしょう」
「妖狐族にとっては魅力しかない内容。わっちらだけでも是非そのお話に乗らせて頂きたいでありんすなぁ」
シラユキは扇で笑みを隠しつつも、妖艶な雰囲気を醸し出す目つきで私を見つめる。
「──ああそれと話は変わりますが、帝国では戦争において個々の戦いで最も武勲を挙げた者がその土地を拝領するのです。このエルフの森で言えば私たちファリアとウィルフリードあたりになるのでしょうが……、帝国でも西端に位置する私たちが遥か遠く離れたこのエルフの森を手にしてもとても管理できません。ですのでもしこの場で条約に調印して頂けるのであれば、私たちはエルフの森に対する一切の権利を放棄しそのままお返ししましょう。……焼いてしまった一部の木々は木材として買い取るとした時の値段分の補償も致します」
「…………」
終始一貫して冷静を保っていたエルフの長老の顔が若干揺らぐのが見て取れた。
ほとんど敗北と言っていいエルフの森での戦いで、領土割譲もなく逆に補償まで付いて丸ごと土地が戻ってくるなど、彼も思ってもみなかっただろう。
人狼には狩場。人虎には武勇。ドワーフには職。妖狐には技術。エルフには誇り。
それぞれが最も求めているものを提供する意志を見せる。交渉における正攻法だ。
「わ、我々には、何かないのか!?」
「俺たちには!」
「私たちの力は必要とされないのだろうか……」
誰かが優遇されればそれを羨む。それは至極真っ当な欲求だ。
これこそ私の策であった。
「ですので”説明会“と申したのです。それぞれの貴族がどの種族かが望むような条件を提示しているでしょう。皆さんはその中から好きな領地に所属すれば良い。それだけです」
そこに強制はない。自分の意思で自分たちの未来を決めることができる。
これぞ私が望む平和な世への大きな一歩。
種族間に存在する壁を取り払った、対立のない社会。『超融和社会』とでも呼ぼうか。
「ですがいくら土地が余っているとはいえ、流石に数千人規模の受け入れができる領地も少ないです。残念ながら条件のいい領地は早い者勝ちになってしまいますね」
主導権はこちらががっちりと握る。これも交渉における基本だ。
「善は急げです。一刻も早く条約を結び、より良い領地探しを始めた方がよくありませんか?」
もはや反論の声は上がらなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ウィリーの部活の文官が諸々の条文を記した紙をもって順番に回っていく。
形式上帝国側からはウィリーの名前を一番上に、亜人・獣人側はハオランから順にサインをした。
そして最後に私が代表して帝国の紋章が彫られた巨大な金印をウィリーから預かり、全員のサインが覆い被さるように印を押した。
「──皆様御協力感謝申し上げます。……ではこの場にいる全員の賛同とこの条約へのサインをもって、正式に終戦を宣言、そして新たな同盟の成立をここに宣言します!」
会場には拍手が響き渡った。
「これから始まる帝国と亜人・獣人諸国との友好関係と更なる発展をお祈り申し上げます」
帝国歴二四三年五月二十五日。記念すべきその日は歴史書の一頁に刻まれた。
「そんな皆さんの不安を解消するために、この会議の後簡単な説明会を開こうと思います」
「……説明会?」
「はい。──偶然にもこの場には帝国にも名高い高位の貴族が十数名います。身内のことを言うのもなんですが、私の父ウルツ=ウィルフリードは帝国最強の英雄と呼ばれています。……そんな父の隷下で戦えば自らの武勇を高めることもできるでしょう」
この言葉に最も反応したのらリカードであった。
力こそ原始の理と説く彼ら人虎族にとっては心惹かれる条件足り得るとの私の予想は的中したようだ。
「他にもこちらにいらっしゃるデアーグ=エアネスト公爵はより魅力的な提案があるそうです」
私のパスにデアーグは頷き、その場で立ち上がった。
「私の領内で開拓事業を行う方には十年間の税を免除します。そして十年が過ぎた後、税さえ納めれば、開拓村……、いや、街にまで発展した地域での自治を認め兵役等の一切の義務を課さないとお約束しましょう」
「そ、それはいずれ国とも呼べる規模になってもか……?」
「ええ。私の領民を手にかけることがなければ、永遠にその権利を認めます」
「なんということだ……!」
この中で最も高位なエアネスト家だからこそできる芸当だ。
彼の持つ広大な領地なら小さな国を抱えることも可能であり、更に中央政府への強い力を持つ彼ならそれを認めさせることも夢ではない。これは私にはできないことだ。
「エアネスト公ほどではありませんが、私からも提案があります」
デアーグの顔を立てつつ、私自身の利益も逃さない。
「貧弱な私がリカード殿に一矢報えた理由。それはこの刀という武器にあります」
そう言いながら私が刀を掲げると、リカードはびくりと肩を震わせた。
「何を隠そうこの刀は帝国で腕を振るうドワーフの名工、ザーグ氏による一振なのです。ドワーフの技術力を命を持って体感したこの私だからこそ、ドワーフの方々にはその恩を返したい。もし私の新設する新たな開発機関に所属して頂けるのなら、一生家族も生活に困らないほどの報酬といかなる要望にも応えるだけの予算を準備し皆さんを迎え入れます」
「ふむ……。それは確かに良い話だ……」
ドワーフの族長はもさもさの髭を撫でながら私の提案を吟味している。
「……妖狐族の方は早くから私の理念に共感して頂き、そのお力を借りました。よって次は私たちが妖狐族の求める情報、技術、安全な土地を提供します。──技術面ではドワーフの方々との橋渡しにもなるでしょう」
「妖狐族にとっては魅力しかない内容。わっちらだけでも是非そのお話に乗らせて頂きたいでありんすなぁ」
シラユキは扇で笑みを隠しつつも、妖艶な雰囲気を醸し出す目つきで私を見つめる。
「──ああそれと話は変わりますが、帝国では戦争において個々の戦いで最も武勲を挙げた者がその土地を拝領するのです。このエルフの森で言えば私たちファリアとウィルフリードあたりになるのでしょうが……、帝国でも西端に位置する私たちが遥か遠く離れたこのエルフの森を手にしてもとても管理できません。ですのでもしこの場で条約に調印して頂けるのであれば、私たちはエルフの森に対する一切の権利を放棄しそのままお返ししましょう。……焼いてしまった一部の木々は木材として買い取るとした時の値段分の補償も致します」
「…………」
終始一貫して冷静を保っていたエルフの長老の顔が若干揺らぐのが見て取れた。
ほとんど敗北と言っていいエルフの森での戦いで、領土割譲もなく逆に補償まで付いて丸ごと土地が戻ってくるなど、彼も思ってもみなかっただろう。
人狼には狩場。人虎には武勇。ドワーフには職。妖狐には技術。エルフには誇り。
それぞれが最も求めているものを提供する意志を見せる。交渉における正攻法だ。
「わ、我々には、何かないのか!?」
「俺たちには!」
「私たちの力は必要とされないのだろうか……」
誰かが優遇されればそれを羨む。それは至極真っ当な欲求だ。
これこそ私の策であった。
「ですので”説明会“と申したのです。それぞれの貴族がどの種族かが望むような条件を提示しているでしょう。皆さんはその中から好きな領地に所属すれば良い。それだけです」
そこに強制はない。自分の意思で自分たちの未来を決めることができる。
これぞ私が望む平和な世への大きな一歩。
種族間に存在する壁を取り払った、対立のない社会。『超融和社会』とでも呼ぼうか。
「ですがいくら土地が余っているとはいえ、流石に数千人規模の受け入れができる領地も少ないです。残念ながら条件のいい領地は早い者勝ちになってしまいますね」
主導権はこちらががっちりと握る。これも交渉における基本だ。
「善は急げです。一刻も早く条約を結び、より良い領地探しを始めた方がよくありませんか?」
もはや反論の声は上がらなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ウィリーの部活の文官が諸々の条文を記した紙をもって順番に回っていく。
形式上帝国側からはウィリーの名前を一番上に、亜人・獣人側はハオランから順にサインをした。
そして最後に私が代表して帝国の紋章が彫られた巨大な金印をウィリーから預かり、全員のサインが覆い被さるように印を押した。
「──皆様御協力感謝申し上げます。……ではこの場にいる全員の賛同とこの条約へのサインをもって、正式に終戦を宣言、そして新たな同盟の成立をここに宣言します!」
会場には拍手が響き渡った。
「これから始まる帝国と亜人・獣人諸国との友好関係と更なる発展をお祈り申し上げます」
帝国歴二四三年五月二十五日。記念すべきその日は歴史書の一頁に刻まれた。
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