150 / 262
第二章
148話 三十六計
しおりを挟む
とりあえずは無事に終わったと思った矢先、カオスに更なるカオスが投下される。
「──陛下お待ちを!」
私がハオランたちを伴って謁見の間を退出しようとしたら、突然ヴァルターと近衛騎士たちが乱入してきた。
「この者たちのことを信用してはなりません! 見てくださいこの有様を!」
そう声高々にヴァルターはボロボロになった兵士を指さす。
「レオ=ウィルフリードの連れてきた護衛たちが突然暴れたのです! これはそれを止めようとした兵士です!」
見ると後ろには父、歳三、アルガーが縄で括られていた。
その三人なら余裕で抜け出せるだろうが、私を案じて大人しく捕まっているようだ。
「ウルツ=ウィルフリードではないか。久しいな」
「はい陛下。このような醜態を晒しお恥ずかしい限りです」
「それで、お前の息子に我が娘をやった。よろしく頼むぞ」
「……既に決してしまったなら覆すことは叶いますまい」
「ハハ! お前には負けたが、息子とは余が一枚上手だったようだな!」
ヴァルターを横目に、父と皇帝はまた私の分からないことを話していた。
そんな様子にヴァルターはイラつきを隠せない。
「陛下! この者どもに耳を貸してはなりません! 騙されているのです!」
しかしその声は届くことはなく、皇帝は皇帝はただどこか得意気な表情で数段高い玉座のある台の上から私たちを見下ろしていた。
「そしてこの獣どもの粗暴さは城の者が見ております! 証拠はこちらにある!」
あの無駄に喧嘩を売られたのも全てこのためのパフォーマンスの一環だったのか。
しかしこんなふざけた茶番は相手にしたら負けである。
「ええい! この獣どもも取り抑えろ! いや、陛下の御前での無礼にはその場で死罪が妥当! やってしまえ!」
父たちも、私たちもぐっと堪えたが、向こうは剣を抜いて実力行使といくようだ。
「馬鹿な真似を……!」
もはや彼に道理など通じない。
恐らくこの場には彼の息がかかった人間しかいないのだろう。そしてその横暴を通すだけの政治的な権力を手にしてしまっているのだ。
「クソ! 絶対に誰一人として傷つけるなよ! ──ハオラン!」
「了解! ──『集合! 脱出する!』」
ハオランの号令で、大きな窓から差し込む光で輝く謁見の間に影が落ち、一瞬で部屋は暗闇に包まれた。
通信機による合図で窓の外に翼を広げた竜人たちが一斉に集まったのだ。
「ここまで退屈な任務は初めてだったよ」
薄暗がりの中、『Drachen Stuka』形態ルーデルのトカゲのような赤い目が妖しく光っていた。
「なっ! どうなってるんだこれは! 誰だお前たちは!」
ヴァルターたちがたじろいだその隙を私たちは逃さなかった。
カワカゼは歳三を縛る縄を居合切りで一閃。アイデクスとヴォルフがそれぞれ父とアルガーの縄を爪で切り裂いた。
そして解放された三人をリカードがまとめて抱える。
「皇帝よ! これは我々が勝手にやったことだ! このレオ=ウィルフリードは関係ない! ──ではさらばだ!」
私はそう言う竜人形態になったハオランに抱きかかえて謁見の間を窓から飛び出した。
「……なっ! まっ、待て……!!!」
皇城の方を振り返ると、ヴァルターや騎士たちがバルコニーあたりに詰めかけこちらを指さしている。
しかし翼のない彼らはもう私たちを捕まえることはできない。
「命からがらの脱出だったな!」
ハオランはカカカと笑いながら楽しそうにそう言う。
「私としてはまだ安心できないがな……」
政治の中枢にいるヴァルターは、逆に言えば一度あそこから離れてしまえば出てこれない。地方貴族とはいえ、皇帝の命なしに一般人である政治官僚(いやヴァルターは本来ただの執事なのだが)に手出しされない程度には私も力を持っている。
逃げるのは最善の一手であるのだ。
『レオ、全員合流できたようだ』
ルーデルが通信機でそう連絡を寄越した。
とにかく捕まらないように四方八方に飛んで逃げた私たちであったが、通信機があれば問題なく合流できる。ヘクセルの魔道具さまさまだ。
「よし。それでは一度エアネスト公爵の元へ行こう。このままファリアやウィルフリードに戻る前に落ち着いて状況を整理したい」
『了解』
エアネストは皇都から南東へ向かったところにある商業都市である。
人口はウィルフリードより多く、皇都より少ない程度。つまりは大都市だ。
『おい、俺は帰らせて貰うぞ。そんなに長旅をするつもりでついてきていないからな』
確かに護衛としても亜人・獣人代表としての役割も終えたシャルフたちまで連れていく必要もない。
「よし、それじゃあここで二手に別れよう。編成し直すため一度適当なところに降りてくれ」
皇都を出てもしばらくは街道沿いに店や家がぽつぽつと並んでいる。
私たちは適当な小さな森の中へ紛れるように着地した。
「レオ、悪いが竜人と言えど、この長旅は堪えるものがある。リーフェンを筆頭に女は戻らせる」
族長として仲間への気使いも大切だ。
「分かった。……父上、そちらはどうしますか」
「俺とアルガーはついて行く」
父が勝手に決めているようだが、アルガーも黙って頷くので、まあ大丈夫だろう。
「もちろん俺も行くぜ?」
「ああ。……ルーデルもこっちに来い」
「……了解」
常に私の指揮下に置いておかないと何をしでかすか分からない。
となると、自然と人間組と亜人・獣人組に丁度よく別れた。
「リーフェン、帰還組の指揮は任せる」
「承知しました族長」
「ついでに言伝を頼まれてくれ。……今日見た一部始終を孔明に伝えて欲しい」
「お任せ下さい」
リーフェンは街に住む側のリーダーをしている女の竜人だ。彼女なら的確に孔明とやり取りできるだろう。
内容が内容なだけにまだ他の貴族には伏せておきたい。いつか直通の通信機が開発されるまではこうして秘密の連絡手段が必要だ。
「それでは皆、数日間付き合わせて悪かった。だが皇帝に直接会って許可を取ったという事実は大きい。大仕事ご苦労だった」
「──陛下お待ちを!」
私がハオランたちを伴って謁見の間を退出しようとしたら、突然ヴァルターと近衛騎士たちが乱入してきた。
「この者たちのことを信用してはなりません! 見てくださいこの有様を!」
そう声高々にヴァルターはボロボロになった兵士を指さす。
「レオ=ウィルフリードの連れてきた護衛たちが突然暴れたのです! これはそれを止めようとした兵士です!」
見ると後ろには父、歳三、アルガーが縄で括られていた。
その三人なら余裕で抜け出せるだろうが、私を案じて大人しく捕まっているようだ。
「ウルツ=ウィルフリードではないか。久しいな」
「はい陛下。このような醜態を晒しお恥ずかしい限りです」
「それで、お前の息子に我が娘をやった。よろしく頼むぞ」
「……既に決してしまったなら覆すことは叶いますまい」
「ハハ! お前には負けたが、息子とは余が一枚上手だったようだな!」
ヴァルターを横目に、父と皇帝はまた私の分からないことを話していた。
そんな様子にヴァルターはイラつきを隠せない。
「陛下! この者どもに耳を貸してはなりません! 騙されているのです!」
しかしその声は届くことはなく、皇帝は皇帝はただどこか得意気な表情で数段高い玉座のある台の上から私たちを見下ろしていた。
「そしてこの獣どもの粗暴さは城の者が見ております! 証拠はこちらにある!」
あの無駄に喧嘩を売られたのも全てこのためのパフォーマンスの一環だったのか。
しかしこんなふざけた茶番は相手にしたら負けである。
「ええい! この獣どもも取り抑えろ! いや、陛下の御前での無礼にはその場で死罪が妥当! やってしまえ!」
父たちも、私たちもぐっと堪えたが、向こうは剣を抜いて実力行使といくようだ。
「馬鹿な真似を……!」
もはや彼に道理など通じない。
恐らくこの場には彼の息がかかった人間しかいないのだろう。そしてその横暴を通すだけの政治的な権力を手にしてしまっているのだ。
「クソ! 絶対に誰一人として傷つけるなよ! ──ハオラン!」
「了解! ──『集合! 脱出する!』」
ハオランの号令で、大きな窓から差し込む光で輝く謁見の間に影が落ち、一瞬で部屋は暗闇に包まれた。
通信機による合図で窓の外に翼を広げた竜人たちが一斉に集まったのだ。
「ここまで退屈な任務は初めてだったよ」
薄暗がりの中、『Drachen Stuka』形態ルーデルのトカゲのような赤い目が妖しく光っていた。
「なっ! どうなってるんだこれは! 誰だお前たちは!」
ヴァルターたちがたじろいだその隙を私たちは逃さなかった。
カワカゼは歳三を縛る縄を居合切りで一閃。アイデクスとヴォルフがそれぞれ父とアルガーの縄を爪で切り裂いた。
そして解放された三人をリカードがまとめて抱える。
「皇帝よ! これは我々が勝手にやったことだ! このレオ=ウィルフリードは関係ない! ──ではさらばだ!」
私はそう言う竜人形態になったハオランに抱きかかえて謁見の間を窓から飛び出した。
「……なっ! まっ、待て……!!!」
皇城の方を振り返ると、ヴァルターや騎士たちがバルコニーあたりに詰めかけこちらを指さしている。
しかし翼のない彼らはもう私たちを捕まえることはできない。
「命からがらの脱出だったな!」
ハオランはカカカと笑いながら楽しそうにそう言う。
「私としてはまだ安心できないがな……」
政治の中枢にいるヴァルターは、逆に言えば一度あそこから離れてしまえば出てこれない。地方貴族とはいえ、皇帝の命なしに一般人である政治官僚(いやヴァルターは本来ただの執事なのだが)に手出しされない程度には私も力を持っている。
逃げるのは最善の一手であるのだ。
『レオ、全員合流できたようだ』
ルーデルが通信機でそう連絡を寄越した。
とにかく捕まらないように四方八方に飛んで逃げた私たちであったが、通信機があれば問題なく合流できる。ヘクセルの魔道具さまさまだ。
「よし。それでは一度エアネスト公爵の元へ行こう。このままファリアやウィルフリードに戻る前に落ち着いて状況を整理したい」
『了解』
エアネストは皇都から南東へ向かったところにある商業都市である。
人口はウィルフリードより多く、皇都より少ない程度。つまりは大都市だ。
『おい、俺は帰らせて貰うぞ。そんなに長旅をするつもりでついてきていないからな』
確かに護衛としても亜人・獣人代表としての役割も終えたシャルフたちまで連れていく必要もない。
「よし、それじゃあここで二手に別れよう。編成し直すため一度適当なところに降りてくれ」
皇都を出てもしばらくは街道沿いに店や家がぽつぽつと並んでいる。
私たちは適当な小さな森の中へ紛れるように着地した。
「レオ、悪いが竜人と言えど、この長旅は堪えるものがある。リーフェンを筆頭に女は戻らせる」
族長として仲間への気使いも大切だ。
「分かった。……父上、そちらはどうしますか」
「俺とアルガーはついて行く」
父が勝手に決めているようだが、アルガーも黙って頷くので、まあ大丈夫だろう。
「もちろん俺も行くぜ?」
「ああ。……ルーデルもこっちに来い」
「……了解」
常に私の指揮下に置いておかないと何をしでかすか分からない。
となると、自然と人間組と亜人・獣人組に丁度よく別れた。
「リーフェン、帰還組の指揮は任せる」
「承知しました族長」
「ついでに言伝を頼まれてくれ。……今日見た一部始終を孔明に伝えて欲しい」
「お任せ下さい」
リーフェンは街に住む側のリーダーをしている女の竜人だ。彼女なら的確に孔明とやり取りできるだろう。
内容が内容なだけにまだ他の貴族には伏せておきたい。いつか直通の通信機が開発されるまではこうして秘密の連絡手段が必要だ。
「それでは皆、数日間付き合わせて悪かった。だが皇帝に直接会って許可を取ったという事実は大きい。大仕事ご苦労だった」
17
あなたにおすすめの小説
スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
スーパー忍者・タカシの大冒険
Selfish
ファンタジー
時は現代。ある日、タカシはいつものように学校から帰る途中、目に見えない奇妙な光に包まれた。そして、彼の手の中に一通の封筒が現れる。それは、赤い文字で「スーパー忍者・タカシ様へ」と書かれたものだった。タカシはその手紙を開けると、そこに書かれた内容はこうだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる