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第二章
157話 本心
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「どう? 無駄話も悪くないでしょ?」
「まぁ……」
「ま、そう言う私も無駄話なんてろくにしてきたことないんだけど。ちょっとした憧れだったのよ。なんの気兼ねもなくだらだら話すってこと」
私も転生者という事情もあり、無駄話から余計なことを漏らさないかと多少の気兼ねはあった。
だがまだ歳三や孔明とは腹を割って話せる。それは召喚主と召喚者の繋がりもあるかもしれない。
だが彼女はそうはいかないだろう。兄妹である皇子たちとの関係は知らないが、それを抜けば周囲は平民である侍女ばかり。更に中央では言葉一つで容易にひっくり返しあえるような泥沼の権力争いをしている。彼女も余計なことを口走らないか気を張っていた事だろう。
とても対等に話せるような人物はいなかったと察せる。
「無駄話もいつでも、いつまでもできるさ。……それよりも今は早く君の本心を聞きたい」
「そうグイグイ言い寄られるの、嫌いじゃないわ」
一言一句私を揶揄うようなことを織り交ぜないと喋ることもできないのかと思ったが、言葉を飲み込んだ。
「……冗談はさておき、きちんと話さないとね」
エルシャは姿勢を正し、今度は真面目な顔で私と向き合う。
「今回私が貴方と結婚することになった理由、それは──」
「それは──?」
遂に明かされる真実に、私は逸る気持ちを抑えきれなかった。
「それは、私を逃がすためよ」
「君を、逃がす……?」
「ええ。貴方たち地方貴族が中央に不信感を抱いているのは知っているわ。だからその矢面に立つ皇族である私を、今一番勢いのある地方貴族である貴方に嫁がせる。こうしてお父様は私を助けようとした」
エルシャのお父様、それは皇帝に他ならない。
不信感は事実である。現にデアーグ辺りは現皇帝を廃す強硬策も厭わない構えだ。
そして私たちとて、孔明の強い後ろ押しにより将来的にこの国を統べるべくその策を案じている。
「それに中央も中央でかなり不穏な雰囲気が漂っている。貴方もヴァルターのことは知っているでしょう?」
「なるほどな」
「お兄様たちはいずれ皇帝の位を継ぐから、中央から逃げ出すことはできない。だからせめて私だけはとお父様とお母様のおかげでここに来れた。……貴方は私の最後の希望。だから絶対に殺したりしないわ。守ることはあってもね」
とりあえず皇帝自体は敵ではないと分かったのは大きい。
要は私たちの本当の敵はヴァルターや現近衛騎士団団長のイロニエなどである。もちろん私の眼下に現れたのが彼らというだけで、どれ程の人数がその裏で暗躍しているかは想像もつかないを
「特にこれから波乱を起こす予感があるのが皇位争いよ。第一皇子のグーター兄様と第二皇子のボーゼン兄様、それぞれで派閥争いをしていてとても平穏とはかけ離れた日々だったわ。もっとも、グーター兄様はあまり乗り気ではなくて、周りの保守的な人間が長男である第一皇子を推してるだけなんだけど……」
こういった内部の勢力図は外側からではどうしても把握しずらいので貴重な情報である?
「貴方も見たでしょうけど、お父様ももう高齢だしいつどうなるか分からない。皇位を巡って家族が殺し合うなんて考えたくないけど、周りの人間たちは自分の権力のために好き勝手やるに違いないわ」
私が見る限り、皇帝から感じられる覇気にはその高齢故の弱々しさなど微塵も感じなかった。むしろ畏まらずとも縮こまってしまうほどの威圧的な力を感じた。
そんな皇帝であっても、もしかしたらヴァルターに毒でも盛られてすぐにでも死んでしまう可能性もある。そんなことをするメリットが今はないからまだしも、常にそういった危険と隣り合わせの環境で暮らすというのは尋常ではないストレスだろう。
私も貴族として生活していくにあたって痛いほど経験した。
「そしてもちろん貴方への足枷としての役割もあるわ。一枚岩ではない帝国の現状を考えれば、二枚目か三枚目あたりの岩にまでなってしまった貴方が王国や協商連合と手を組み国家転覆を狙うかもしれないもの」
「そんな、帝国を滅ぼすような真似はしないよ」
今のところは。
「そうね、そうだと嬉しいわ」
エルシャは伏せ目がちにそう呟いた。
国の中心たる皇族として、地方貴族たちからの求心力の低下を知っているからだろう。全ての貴族が絶対の忠誠を誓い、謀反など起こさないと言い切れる自信はどこにもない。
現に帝国の各地では、小競り合いに始まり、そこから尾を引いた反乱や紛争が頻発している。ファリア領主の私が言うのだから間違いない。
「でも貴方、ちょっと目立ちすぎよ。だから私が来たんだけども」
「それは多分悪目立ちなのだろうな」
「ええ。兵器の開発に大規模な軍事改革。魔女ヘクセルの引き抜きに竜人族の族長らを抱える。こんなのに武力蜂起されれば今すぐにでも帝国は傾くわ」
「……君を悲しませるようなことはしないよ」
「あら、かっこいいこと言うじゃない。今のがプロポーズの代わり?」
「そういうことにしておいてくれ」
私はすっと立ち上がる。エルシャは身構えることなく真っ直ぐに私を見つめていた。
「今日はもう遅い。また明日にでも話そう」
「あら、もう行っちゃうの? もう少し楽しいお話できると思っていたのに、残念」
楽しい話などひとつもしていないのだが。
「今日は長旅に応対にと疲れただろう。早く休んだ方がいい。……ドレスやその髪とか、女性は身支度も大変だろう」
私はこれ以上引き止められないよう、ドアノブに手を掛ける。
「私、貴方との婚約が決まった時、本当はとても不安だったわ。……でも、今は貴方のこと、結構好きよ」
「……私は──、まだ分からない……」
「まぁ……」
「ま、そう言う私も無駄話なんてろくにしてきたことないんだけど。ちょっとした憧れだったのよ。なんの気兼ねもなくだらだら話すってこと」
私も転生者という事情もあり、無駄話から余計なことを漏らさないかと多少の気兼ねはあった。
だがまだ歳三や孔明とは腹を割って話せる。それは召喚主と召喚者の繋がりもあるかもしれない。
だが彼女はそうはいかないだろう。兄妹である皇子たちとの関係は知らないが、それを抜けば周囲は平民である侍女ばかり。更に中央では言葉一つで容易にひっくり返しあえるような泥沼の権力争いをしている。彼女も余計なことを口走らないか気を張っていた事だろう。
とても対等に話せるような人物はいなかったと察せる。
「無駄話もいつでも、いつまでもできるさ。……それよりも今は早く君の本心を聞きたい」
「そうグイグイ言い寄られるの、嫌いじゃないわ」
一言一句私を揶揄うようなことを織り交ぜないと喋ることもできないのかと思ったが、言葉を飲み込んだ。
「……冗談はさておき、きちんと話さないとね」
エルシャは姿勢を正し、今度は真面目な顔で私と向き合う。
「今回私が貴方と結婚することになった理由、それは──」
「それは──?」
遂に明かされる真実に、私は逸る気持ちを抑えきれなかった。
「それは、私を逃がすためよ」
「君を、逃がす……?」
「ええ。貴方たち地方貴族が中央に不信感を抱いているのは知っているわ。だからその矢面に立つ皇族である私を、今一番勢いのある地方貴族である貴方に嫁がせる。こうしてお父様は私を助けようとした」
エルシャのお父様、それは皇帝に他ならない。
不信感は事実である。現にデアーグ辺りは現皇帝を廃す強硬策も厭わない構えだ。
そして私たちとて、孔明の強い後ろ押しにより将来的にこの国を統べるべくその策を案じている。
「それに中央も中央でかなり不穏な雰囲気が漂っている。貴方もヴァルターのことは知っているでしょう?」
「なるほどな」
「お兄様たちはいずれ皇帝の位を継ぐから、中央から逃げ出すことはできない。だからせめて私だけはとお父様とお母様のおかげでここに来れた。……貴方は私の最後の希望。だから絶対に殺したりしないわ。守ることはあってもね」
とりあえず皇帝自体は敵ではないと分かったのは大きい。
要は私たちの本当の敵はヴァルターや現近衛騎士団団長のイロニエなどである。もちろん私の眼下に現れたのが彼らというだけで、どれ程の人数がその裏で暗躍しているかは想像もつかないを
「特にこれから波乱を起こす予感があるのが皇位争いよ。第一皇子のグーター兄様と第二皇子のボーゼン兄様、それぞれで派閥争いをしていてとても平穏とはかけ離れた日々だったわ。もっとも、グーター兄様はあまり乗り気ではなくて、周りの保守的な人間が長男である第一皇子を推してるだけなんだけど……」
こういった内部の勢力図は外側からではどうしても把握しずらいので貴重な情報である?
「貴方も見たでしょうけど、お父様ももう高齢だしいつどうなるか分からない。皇位を巡って家族が殺し合うなんて考えたくないけど、周りの人間たちは自分の権力のために好き勝手やるに違いないわ」
私が見る限り、皇帝から感じられる覇気にはその高齢故の弱々しさなど微塵も感じなかった。むしろ畏まらずとも縮こまってしまうほどの威圧的な力を感じた。
そんな皇帝であっても、もしかしたらヴァルターに毒でも盛られてすぐにでも死んでしまう可能性もある。そんなことをするメリットが今はないからまだしも、常にそういった危険と隣り合わせの環境で暮らすというのは尋常ではないストレスだろう。
私も貴族として生活していくにあたって痛いほど経験した。
「そしてもちろん貴方への足枷としての役割もあるわ。一枚岩ではない帝国の現状を考えれば、二枚目か三枚目あたりの岩にまでなってしまった貴方が王国や協商連合と手を組み国家転覆を狙うかもしれないもの」
「そんな、帝国を滅ぼすような真似はしないよ」
今のところは。
「そうね、そうだと嬉しいわ」
エルシャは伏せ目がちにそう呟いた。
国の中心たる皇族として、地方貴族たちからの求心力の低下を知っているからだろう。全ての貴族が絶対の忠誠を誓い、謀反など起こさないと言い切れる自信はどこにもない。
現に帝国の各地では、小競り合いに始まり、そこから尾を引いた反乱や紛争が頻発している。ファリア領主の私が言うのだから間違いない。
「でも貴方、ちょっと目立ちすぎよ。だから私が来たんだけども」
「それは多分悪目立ちなのだろうな」
「ええ。兵器の開発に大規模な軍事改革。魔女ヘクセルの引き抜きに竜人族の族長らを抱える。こんなのに武力蜂起されれば今すぐにでも帝国は傾くわ」
「……君を悲しませるようなことはしないよ」
「あら、かっこいいこと言うじゃない。今のがプロポーズの代わり?」
「そういうことにしておいてくれ」
私はすっと立ち上がる。エルシャは身構えることなく真っ直ぐに私を見つめていた。
「今日はもう遅い。また明日にでも話そう」
「あら、もう行っちゃうの? もう少し楽しいお話できると思っていたのに、残念」
楽しい話などひとつもしていないのだが。
「今日は長旅に応対にと疲れただろう。早く休んだ方がいい。……ドレスやその髪とか、女性は身支度も大変だろう」
私はこれ以上引き止められないよう、ドアノブに手を掛ける。
「私、貴方との婚約が決まった時、本当はとても不安だったわ。……でも、今は貴方のこと、結構好きよ」
「……私は──、まだ分からない……」
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