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第四章
235話 歩み
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「歳三!」
「レオ!? お前なんでここに来た!?」
砲撃音が鳴り響く前線に到着し、私たちは無事に歳三と合流することができた。
と言っても、当の歳三には目立った怪我はなく、助けられた感謝よりも私に対する憤怒を全面に押し出していた。
「これで最後だ。私はもう逃げない。最後にここに立っていることが、私にとって何よりも意味があることなのだ」
「訳分からねェこと言ってねェで帰って姫様の乳でもしゃぶってろ!」
「……下品だぞ歳三」
ここまで怒っている歳三は初めて見た。タリオは脚を折ると心配していたが、手を掛ける歳三は私の脚を切り落として後送するのではないかとすら思えた。
かの鬼の副長が、今私の目の前にいる。
「──チッ! 孔明の野郎は何を考えてるんだ!」
「落ち着いてくれ歳三。ともかく私はここから退くつもりはないし、このまま世界軍を率いて魔王領の完全制圧を成し遂げるつもりだ。状況を説明してくれ」
「はァ……。仕方ねェ、こっちに来い」
歳三ようやく諦めてくれ、私たちは一際大きな天幕へと案内された。
その天幕がどうやら本陣となっているようで、中には大勢の参謀や通信手たちが忙しなく働いていた。
「──この地図を見ろ。これが魔王領の概略図だ」
大陸全土を描いた地図の中でも魔王領の部分は霧で誤魔化されていた。しかしここにある地図は魔王領を拡大したものであり、しかも地形までが詳細に記されている。
そして最も目を引くのは、魔王領の中でも最北端の部分に一枚の写真が添付されていることだ。
「俺たちは魔王領の完全制覇を目指して活動していた。そして遂に全てを調査し終えようとした時、見つけたのがこれだ」
歳三はその写真をこちらにポイと投げ捨てた。
私はそれを手に取りじっと眺める。
真っ黒で全体的にモヤが掛かっているが、その奥、月光のような薄明かりに照らされたシルエットはまるで城のような影を形取っていた。
そして私はあることに気が付いた。写真は全体が暗く、画質もあまり良くないが、城の手前には無数の旗が突き刺さっている。
その旗印は判然としないが、ぼんやりとどこかで見たことのある五つのようなもの花弁が描かれていた。
「魔王城、とでも呼ぶべきか。ソイツは本当に恐ろしい見た目をしていたぜ。……そして俺たちはそのまま魔王城の調査に乗り出そうと門に近付いた、その時突然門が開いて中からモンスターが溢れ出てきた」
「まるで迎撃してきたようだな」
「それだけじゃねェ。確かに調査したはずの周辺の地面からアンデット──それもゾンビ系のモンスターが大量に湧いてきた。俺たちを包囲するようにな」
私たちはまんまとおびき出された、とでもいうのだろうか。
「……だがレオのお陰で助かったぜ。本当なら一万どころか数百の兵士でも探索は出来たが、お前が五万の大軍を持たせてくれたからな」
「ただのトラウマだよ」
お陰で調査には相当な金が掛かったが、結果的にそれは無駄にならなかった。
「俺たちは何とか包囲を脱してここまで撤退してきた訳だ。……魔王領は現在四つの区域に分けられる。かつての帝国軍が魔王討伐に出向いていた第一区域、ウルツが調査を進めた第二区域、そして俺たちが調査を終えた第三区域、そして魔王城が存在する第四区域」
歳三は魔王領の地図に線を書き足していった。
「第二区域までは道路の整備が完了し、鉄道の延伸も進めている。つまり完全に支配下としている地域だ。第三区域は現在整備を進めている場所、つまりここが魔王領と人類の領域の最前線だ。ここは絶対に守り抜かなきゃならねェ」
「大体は把握できた。ではこれより第三区域まで来たモンスター共を撃退、そして殲滅。第四区域及び魔王城を制圧すればいい。そうだな?」
「そう言うのは簡単だが、向こうは数が多すぎる。無限に湧き出てくるからな」
「……では事前に上がっていた八十万という数字は?」
「その時は八十万だった。だが今は分からねェ。爆煙の中から次々にモンスターが押し寄せてくる」
歳三の表情には絶望が滲んでいた。
「事態は急を要するのだな。──ナポレオン、反撃の狼煙を上げるぞ」
「ああ。一度最前線の砲兵を吾輩直属のものに変えるぞ」
砲兵出身のナポレオンが直々に鍛え上げた砲兵隊は、歳三の特殊作戦部隊すら凌ぐ練度である。
「了解だぜ」
「ではここに全軍の将校を集めろ。陸軍も空軍も、王国も協商連合も関係なく本当に全ての師団級の指揮官をだ」
「全軍に通達せよ」
「は!」
それから二百人もの将校がこの一つの天幕に集った。
それは圧巻の光景だ。国も、種族も関係なく同じ高さの椅子に座り、同じ視線の高さで同じ目的のために手を取り合い、ここに集まっているのだ。
それはある意味、私が望んだ光景であった。
魔王という強大な敵を前にして、人類は再びその運命を共にすることを選んだのである。
「では作戦を考えよう。まずこれがうちの軍師が事前情報で立てた草案である。これは世界軍の根本的な運用を示したものであり、実際の状況に当てはめた場合──」
作戦会議はナポレオンが主導して進められた。それは全軍の指揮官をナポレオン、副官を歳三という二人のプロフェッショナルに指名したからだ。
最終的な決定権は私にあるが、実際の指揮はナポレオンに任せることで『葡萄月将軍』の効果を受けさせる意味合いもある。
「──というのが現在考えうる最善の案だ。……これでいいな、レオ」
「……ああ。責任は全て私が取る。──全軍行動を開始せよ!」
「「「は!」」」
「レオ!? お前なんでここに来た!?」
砲撃音が鳴り響く前線に到着し、私たちは無事に歳三と合流することができた。
と言っても、当の歳三には目立った怪我はなく、助けられた感謝よりも私に対する憤怒を全面に押し出していた。
「これで最後だ。私はもう逃げない。最後にここに立っていることが、私にとって何よりも意味があることなのだ」
「訳分からねェこと言ってねェで帰って姫様の乳でもしゃぶってろ!」
「……下品だぞ歳三」
ここまで怒っている歳三は初めて見た。タリオは脚を折ると心配していたが、手を掛ける歳三は私の脚を切り落として後送するのではないかとすら思えた。
かの鬼の副長が、今私の目の前にいる。
「──チッ! 孔明の野郎は何を考えてるんだ!」
「落ち着いてくれ歳三。ともかく私はここから退くつもりはないし、このまま世界軍を率いて魔王領の完全制圧を成し遂げるつもりだ。状況を説明してくれ」
「はァ……。仕方ねェ、こっちに来い」
歳三ようやく諦めてくれ、私たちは一際大きな天幕へと案内された。
その天幕がどうやら本陣となっているようで、中には大勢の参謀や通信手たちが忙しなく働いていた。
「──この地図を見ろ。これが魔王領の概略図だ」
大陸全土を描いた地図の中でも魔王領の部分は霧で誤魔化されていた。しかしここにある地図は魔王領を拡大したものであり、しかも地形までが詳細に記されている。
そして最も目を引くのは、魔王領の中でも最北端の部分に一枚の写真が添付されていることだ。
「俺たちは魔王領の完全制覇を目指して活動していた。そして遂に全てを調査し終えようとした時、見つけたのがこれだ」
歳三はその写真をこちらにポイと投げ捨てた。
私はそれを手に取りじっと眺める。
真っ黒で全体的にモヤが掛かっているが、その奥、月光のような薄明かりに照らされたシルエットはまるで城のような影を形取っていた。
そして私はあることに気が付いた。写真は全体が暗く、画質もあまり良くないが、城の手前には無数の旗が突き刺さっている。
その旗印は判然としないが、ぼんやりとどこかで見たことのある五つのようなもの花弁が描かれていた。
「魔王城、とでも呼ぶべきか。ソイツは本当に恐ろしい見た目をしていたぜ。……そして俺たちはそのまま魔王城の調査に乗り出そうと門に近付いた、その時突然門が開いて中からモンスターが溢れ出てきた」
「まるで迎撃してきたようだな」
「それだけじゃねェ。確かに調査したはずの周辺の地面からアンデット──それもゾンビ系のモンスターが大量に湧いてきた。俺たちを包囲するようにな」
私たちはまんまとおびき出された、とでもいうのだろうか。
「……だがレオのお陰で助かったぜ。本当なら一万どころか数百の兵士でも探索は出来たが、お前が五万の大軍を持たせてくれたからな」
「ただのトラウマだよ」
お陰で調査には相当な金が掛かったが、結果的にそれは無駄にならなかった。
「俺たちは何とか包囲を脱してここまで撤退してきた訳だ。……魔王領は現在四つの区域に分けられる。かつての帝国軍が魔王討伐に出向いていた第一区域、ウルツが調査を進めた第二区域、そして俺たちが調査を終えた第三区域、そして魔王城が存在する第四区域」
歳三は魔王領の地図に線を書き足していった。
「第二区域までは道路の整備が完了し、鉄道の延伸も進めている。つまり完全に支配下としている地域だ。第三区域は現在整備を進めている場所、つまりここが魔王領と人類の領域の最前線だ。ここは絶対に守り抜かなきゃならねェ」
「大体は把握できた。ではこれより第三区域まで来たモンスター共を撃退、そして殲滅。第四区域及び魔王城を制圧すればいい。そうだな?」
「そう言うのは簡単だが、向こうは数が多すぎる。無限に湧き出てくるからな」
「……では事前に上がっていた八十万という数字は?」
「その時は八十万だった。だが今は分からねェ。爆煙の中から次々にモンスターが押し寄せてくる」
歳三の表情には絶望が滲んでいた。
「事態は急を要するのだな。──ナポレオン、反撃の狼煙を上げるぞ」
「ああ。一度最前線の砲兵を吾輩直属のものに変えるぞ」
砲兵出身のナポレオンが直々に鍛え上げた砲兵隊は、歳三の特殊作戦部隊すら凌ぐ練度である。
「了解だぜ」
「ではここに全軍の将校を集めろ。陸軍も空軍も、王国も協商連合も関係なく本当に全ての師団級の指揮官をだ」
「全軍に通達せよ」
「は!」
それから二百人もの将校がこの一つの天幕に集った。
それは圧巻の光景だ。国も、種族も関係なく同じ高さの椅子に座り、同じ視線の高さで同じ目的のために手を取り合い、ここに集まっているのだ。
それはある意味、私が望んだ光景であった。
魔王という強大な敵を前にして、人類は再びその運命を共にすることを選んだのである。
「では作戦を考えよう。まずこれがうちの軍師が事前情報で立てた草案である。これは世界軍の根本的な運用を示したものであり、実際の状況に当てはめた場合──」
作戦会議はナポレオンが主導して進められた。それは全軍の指揮官をナポレオン、副官を歳三という二人のプロフェッショナルに指名したからだ。
最終的な決定権は私にあるが、実際の指揮はナポレオンに任せることで『葡萄月将軍』の効果を受けさせる意味合いもある。
「──というのが現在考えうる最善の案だ。……これでいいな、レオ」
「……ああ。責任は全て私が取る。──全軍行動を開始せよ!」
「「「は!」」」
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