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第4章 フォース・オブ・ザ・デッド パートⅠ
その3
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キザムがいつも通りに保健室に入ると、沙世理はなぜかドアの鍵をガチャリと掛けてしまった。ご丁寧にも、ドアを手で引っ張って鍵がしっかりと掛かっているかどうか確認している。
「先生、どうしたんですか? 誰かに聞かれたくないような重要な話でも──」
「いいから、土岐野くん、そこのイスに座ってくれる?」
キザムの質問を無視して、沙世理はイスを手で指し示した。声と同様に、表情も硬かった。てっきりキザムの体調についての話だとばかり思って付いてきたが、沙世理の様子を見て、どうやらそれはただの口実で、もっと深い話があるようだと悟った。
「──何かあったんですか?」
キザムはとりあえず差し障りのないような質問から始めてみた。しかし、それが話の中心の的を見事に射抜いてしまった。
「土岐野くん、『何か』あるのはこれからでしょ?」
沙世理が意味深な質問で返してきた。いや質問というよりは、むしろ事実の確認というニュアンスに近かった。
「────!」
一瞬次の言葉を失ってしまい、沙世理の顔をまじまじと凝視してしまった。
まさか、沙世理先生も時間がループしていることを知っているっていうことなのか?
そんな考えがキザムの脳裏に浮かんだ。だが過去のループ世界において、沙世理は一度もそれらしい素振りをキザムには見せなかった。それがなぜ今回だけは『知っている』かのような態度を見せるのか。
いや、待てよ。今回の世界では『変化』が生じている。だとしたら沙世理先生の態度が、前のときと違っていてもおかしくはないけど……。
そこまで思考を進めたが、結局のところ、なぜそのような『変化』が起きているのかは分からないままだった。
「土岐野くん、あなたも頭が混乱しているみたいね。私も正直なところ、自分の身に起きたことについて、まだよく分かっていないの。でも、ひとつだけ分かっていることがあるの。それはね──」
そこで沙世理がキザムの瞳をじっと見つめてきた。
「これから少し先の未来で『大惨事』が起きるということよ」
「えっ、どうして先生はそのことを……?」
キザムは沙世理の言葉を聞いて、驚きで体がこわばってしまった。たしかに沙世理にはあの『大惨事』について話したが、それは前のループ世界でのことで、この世界ではまだ一言も話していないのだ。今の沙世理はあの『大惨事』について知りえるはずがないのである。
『沙世理先生には気を付けた方がいいぞ』
不意に、教室を出る間際に聞いたカケルの言葉が蘇ってきた。まるでキザムに対して警告をするかのようなカケルの言葉。体に得も言われぬ緊張感が走った。
ひょっとしたら、ぼくが何度もタイムループを体験している件に、沙世理先生が絡んでいるということなのか……?
自然とそこに考えが行き着くが、しかし、まだまだ分からないことが数多くある。いや、あり過ぎるぐらいある。ここで結論を出すのはまだ尚早だ。
「──先に先生の話から聞かせてもらえますか?」
キザムは動揺する心を一旦落ち着かせると、沙世理の目を見つめ返して質問を発した。
「そうね、私の話を先にした方が、分かりやすいかもしれないわね。それじゃ、どこから話したらいいかしら。──私がおかしいなと気付いたのは、実はついさっきのことなのよ」
そう言って沙世理がゆっくりと自分自身に言い聞かせるような口調で話し始めた。硬かった表情から険が取れて、いつもの優しい養護教諭の沙世理の顔に戻っていた。
「私は昼休みの直前に目を覚ましたの。寝ていた記憶はなかったけれど、もしかしたら疲れていてついうとうと舟を漕いでいたのかもしれないと思った。でも、すぐにおかしな点に気が付いた。目の前で起きる出来事が夢で見た光景と同じだったの。それで夢の中での出来事を詳細に思い出してみた。中には思い出したくないこともあったわ。自分がとんでもない事態に巻き込まれて死んだなんて、出来れば思い出したくなかったからね。そして、それら一連の出来事について、私に注意を促してくれた生徒が一人だけいたことを思い出したの──」
こまで言えばもう分かるでしょう、という目で沙世理はキザムの顔色を窺ってきた。
「ええ、ぼくが先生に『大惨事』が起きるから手助けして欲しいと頼みました」
キザムは包み隠さずに正直に答えた。ここまできたら隠す意味はないと思ったのである。
「そうだったわね。──ねえ、私たちはあの世界で死んだはずでしょ? もっと正確に言うと、ゾンビと化した生徒に喰い殺されたはずでしょ? それがなぜこうして生きているの? それとも、今ここでこうして土岐野くんと話しているのは夢なのかな?」
沙世理が感じている混乱が手に取るようによく分かった。キザムも初めてタイムループして戻ってきた世界で、同じように頭が混乱したからである。
「先生、今からぼくが話すことを聞いてください。もしかしたら、とんでもなくおかしな話に聞こえるかもしれませんが──」
「今以上にとんでもないことなんて他にないでしょ?」
「まあ、たしかにそうですね」
そこでキザムと沙世理はお互いに顔を見合わせて小さく笑ってしまった。
「とにかく、ぼくが経験してきたことをすべて話しますから、先生は聞いていてください。話のあとで、内容について吟味しましょう」
キザムはそう前置きをしたうえで話を始めた。キザム自身、自分の身に何が起こっているのかまだ分からないことばかりなので、上手く説明出来ない部分が多々あったが、沙世理は文句を言うことなく、黙ってキザムの話に耳を傾けてくれた。
何度も同じ時間をループしていること。学校内でゾンビ化した生徒が暴れて、大惨事が巻き起きること。その大惨事を防ぐために何度も手立てを打ったが、その度に失敗して死んでしまったこと。そこで一人では解決出来ないと考えて、前回のループ世界で初めて沙世理に頼ったこと。さらに四回目のこの世界で明らかにそれと分かるくらいの『変化』が起きていること。
SF映画のような内容にしか聞こえないが、それらは間違いなくキザムが実際に経験したことだった。
「先生、どうしたんですか? 誰かに聞かれたくないような重要な話でも──」
「いいから、土岐野くん、そこのイスに座ってくれる?」
キザムの質問を無視して、沙世理はイスを手で指し示した。声と同様に、表情も硬かった。てっきりキザムの体調についての話だとばかり思って付いてきたが、沙世理の様子を見て、どうやらそれはただの口実で、もっと深い話があるようだと悟った。
「──何かあったんですか?」
キザムはとりあえず差し障りのないような質問から始めてみた。しかし、それが話の中心の的を見事に射抜いてしまった。
「土岐野くん、『何か』あるのはこれからでしょ?」
沙世理が意味深な質問で返してきた。いや質問というよりは、むしろ事実の確認というニュアンスに近かった。
「────!」
一瞬次の言葉を失ってしまい、沙世理の顔をまじまじと凝視してしまった。
まさか、沙世理先生も時間がループしていることを知っているっていうことなのか?
そんな考えがキザムの脳裏に浮かんだ。だが過去のループ世界において、沙世理は一度もそれらしい素振りをキザムには見せなかった。それがなぜ今回だけは『知っている』かのような態度を見せるのか。
いや、待てよ。今回の世界では『変化』が生じている。だとしたら沙世理先生の態度が、前のときと違っていてもおかしくはないけど……。
そこまで思考を進めたが、結局のところ、なぜそのような『変化』が起きているのかは分からないままだった。
「土岐野くん、あなたも頭が混乱しているみたいね。私も正直なところ、自分の身に起きたことについて、まだよく分かっていないの。でも、ひとつだけ分かっていることがあるの。それはね──」
そこで沙世理がキザムの瞳をじっと見つめてきた。
「これから少し先の未来で『大惨事』が起きるということよ」
「えっ、どうして先生はそのことを……?」
キザムは沙世理の言葉を聞いて、驚きで体がこわばってしまった。たしかに沙世理にはあの『大惨事』について話したが、それは前のループ世界でのことで、この世界ではまだ一言も話していないのだ。今の沙世理はあの『大惨事』について知りえるはずがないのである。
『沙世理先生には気を付けた方がいいぞ』
不意に、教室を出る間際に聞いたカケルの言葉が蘇ってきた。まるでキザムに対して警告をするかのようなカケルの言葉。体に得も言われぬ緊張感が走った。
ひょっとしたら、ぼくが何度もタイムループを体験している件に、沙世理先生が絡んでいるということなのか……?
自然とそこに考えが行き着くが、しかし、まだまだ分からないことが数多くある。いや、あり過ぎるぐらいある。ここで結論を出すのはまだ尚早だ。
「──先に先生の話から聞かせてもらえますか?」
キザムは動揺する心を一旦落ち着かせると、沙世理の目を見つめ返して質問を発した。
「そうね、私の話を先にした方が、分かりやすいかもしれないわね。それじゃ、どこから話したらいいかしら。──私がおかしいなと気付いたのは、実はついさっきのことなのよ」
そう言って沙世理がゆっくりと自分自身に言い聞かせるような口調で話し始めた。硬かった表情から険が取れて、いつもの優しい養護教諭の沙世理の顔に戻っていた。
「私は昼休みの直前に目を覚ましたの。寝ていた記憶はなかったけれど、もしかしたら疲れていてついうとうと舟を漕いでいたのかもしれないと思った。でも、すぐにおかしな点に気が付いた。目の前で起きる出来事が夢で見た光景と同じだったの。それで夢の中での出来事を詳細に思い出してみた。中には思い出したくないこともあったわ。自分がとんでもない事態に巻き込まれて死んだなんて、出来れば思い出したくなかったからね。そして、それら一連の出来事について、私に注意を促してくれた生徒が一人だけいたことを思い出したの──」
こまで言えばもう分かるでしょう、という目で沙世理はキザムの顔色を窺ってきた。
「ええ、ぼくが先生に『大惨事』が起きるから手助けして欲しいと頼みました」
キザムは包み隠さずに正直に答えた。ここまできたら隠す意味はないと思ったのである。
「そうだったわね。──ねえ、私たちはあの世界で死んだはずでしょ? もっと正確に言うと、ゾンビと化した生徒に喰い殺されたはずでしょ? それがなぜこうして生きているの? それとも、今ここでこうして土岐野くんと話しているのは夢なのかな?」
沙世理が感じている混乱が手に取るようによく分かった。キザムも初めてタイムループして戻ってきた世界で、同じように頭が混乱したからである。
「先生、今からぼくが話すことを聞いてください。もしかしたら、とんでもなくおかしな話に聞こえるかもしれませんが──」
「今以上にとんでもないことなんて他にないでしょ?」
「まあ、たしかにそうですね」
そこでキザムと沙世理はお互いに顔を見合わせて小さく笑ってしまった。
「とにかく、ぼくが経験してきたことをすべて話しますから、先生は聞いていてください。話のあとで、内容について吟味しましょう」
キザムはそう前置きをしたうえで話を始めた。キザム自身、自分の身に何が起こっているのかまだ分からないことばかりなので、上手く説明出来ない部分が多々あったが、沙世理は文句を言うことなく、黙ってキザムの話に耳を傾けてくれた。
何度も同じ時間をループしていること。学校内でゾンビ化した生徒が暴れて、大惨事が巻き起きること。その大惨事を防ぐために何度も手立てを打ったが、その度に失敗して死んでしまったこと。そこで一人では解決出来ないと考えて、前回のループ世界で初めて沙世理に頼ったこと。さらに四回目のこの世界で明らかにそれと分かるくらいの『変化』が起きていること。
SF映画のような内容にしか聞こえないが、それらは間違いなくキザムが実際に経験したことだった。
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