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第6章 フォース・オブ・ザ・デッド パートⅢ
その5
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「二人とも助かったみたいで良かった。僕は三年の村咲。生徒会長をやっている」
キザムとカケルのことを遠回しに見ていた生徒の輪の中から、一人の背の高い生徒が前に進み出てきた。
「あっ、うん……助けてくれて……ありがとう……」
一度は見殺しにされそうになったので、若干のわだかまりが心にあったが、一応キザムは礼儀としてお礼を言った。先ほどまで防火シャッター越しに自分と会話していたのが、この村咲だと声質から分かった。
「君たちが怒っているいるのは無理ないし、気持ちは分かるよ。ただ生徒会長として、ここにいる生徒を守らなくてはいけない立場だったから、あの化け物──いや、常軌を逸した集団を入れるわけにはいかなかったんだ……」
村咲の言い分も分からないではないが、どうしても言い訳染みて聞こえてしまう。
「あんた、どうしていきなり心変わりしたんだ?」
床に尻を付けて座り込んでいるカケルは、まだ怒りが収まっていないらしいことが声から分かった。右手に持っていた拳銃は服の下に仕舞いこんだのか、どこにも見当たらない。たくさんの生徒がいる前で見せるのはよくないと判断したのだろう。あの緊急時にそれだけの判断を咄嗟にしたのだから、恐れ入るとしか言いようがない。
「今、この校内ではいったい何が起きているんだ? 君たちは何か事情を知っているのかい?」
村咲は露骨に違う話をし始めた。キザムたちを助けた理由は今は話したくないらしい。
「そちらはどこまで事情を知っているんですか?」
キザムは慎重に言葉を選んで、逆に質問で返した。村咲たちがゾンビのことを知っているのかどうか、まだ判断をしかねたからである。ここで徒にゾンビのことを話してしまうと、余計に混乱させる恐れがあった。こちらの手の内のカードを切るのは、相手の話を聞いてからでも遅くはない。
「僕らも正直、よく分からないんだ……。校内放送を聞いて校庭に避難しようとしたんだが、階段を駆け上がって逃げてくる生徒の集団を目にして、一階に向かうのは危険だと判断して、三階で待機することにしたんだ。もちろん、逃げてきた生徒に事情を聞いてみたが、どうも言っていることが要領を得なくてね……。なんて言ったらいいか、訳が分からないというか……」
そこで村咲は少し口ごもった。おそらく、一階から逃げてきた生徒の口から、狂変した生徒に襲われたという話を聞いたに違いない。しかし、その現場を実際に見ていない村咲たちは半信半疑で信じられずにいるのだろう。
「逃げてきた生徒たちはどうのようなことを言っているんですか?」
「うん……それが、その……生徒が生徒を襲っているっていう話なんだけど……。しかも、喰われたとかどうとか……」
心の迷いがそのまま声に出ていた。
「ええ、その通りです」
キザムは下手に否定することなく、はっきりと言い切った。
「──そうか……やっぱり事実なんだな……。生徒が生徒を襲うなんて信じられなかったが……本当にそんなことがこの学校で起きているんだ……」
キザムの話を聞く前からそれなりの覚悟が出来ていたのか、村咲は驚きはしつつも、素直にキザムの言葉を受け入れた。
「原因はよく分かりませんが、一部の生徒が誰彼構わず生徒を襲っています。もしかしたら、タチの悪い違法ドラッグでも吸引して、一時的に精神が混乱しているのかもしれません」
やはりキザムはゾンビという単語は避けて、違法ドラッグのせいではないかとウソをついた。平常時に話したらすぐにバレてしまうような安易なウソではあるが、この混乱した状況下では、有りえそうなウソの方が皆が納得すると考えたのである。
「ドラッグかよ……。どこのどいつだ、そんなバカなことをしたのは……」
「やだ、コワイ……。警察を呼んだ方がいいんじゃない……」
生徒の輪の間で、様々な声があがった。しかし、疑問に感じている生徒の声はあがらなかった。とりあえず、キザムのウソに上手く誤魔化されてくれたみたいである。
「そうか……」
村咲は眉間に深い縦皺を刻んで苦悩の表情を浮かべている。生徒会長としてこれからどうしたらよいか、深く頭を悩ませているのだろう。
「──うん、まあ、今はそれしかないか」
村咲が重く一度頷いた。そして、振り向いてこの場に集まった生徒たちの方に顔を向けた。
「僕たちはもうしばらくの間、ここで待機することにする。さっき聞こえたサイレンからも分かるように、いずれ救援が来るはずだから、ここで待つことにしよう」
村咲の声を聞いて安心したのか、生徒たちの輪が引いていく。
近くの教室に入る者、廊下の窓から外を不安げに見る者、手にしたスマホで誰かに連絡を取ろうとする者──。
各々がそれぞれの行動に移る。顔にはまだ不安の色があったが、混乱や動揺する様子は見当たらない。これも生徒会長である村咲の人格によるものだろう。
とりあえず、キザムたちの救出劇から始まった一連の騒ぎも収まって、落ち着きを取り戻したようである。
キザムとカケルのことを遠回しに見ていた生徒の輪の中から、一人の背の高い生徒が前に進み出てきた。
「あっ、うん……助けてくれて……ありがとう……」
一度は見殺しにされそうになったので、若干のわだかまりが心にあったが、一応キザムは礼儀としてお礼を言った。先ほどまで防火シャッター越しに自分と会話していたのが、この村咲だと声質から分かった。
「君たちが怒っているいるのは無理ないし、気持ちは分かるよ。ただ生徒会長として、ここにいる生徒を守らなくてはいけない立場だったから、あの化け物──いや、常軌を逸した集団を入れるわけにはいかなかったんだ……」
村咲の言い分も分からないではないが、どうしても言い訳染みて聞こえてしまう。
「あんた、どうしていきなり心変わりしたんだ?」
床に尻を付けて座り込んでいるカケルは、まだ怒りが収まっていないらしいことが声から分かった。右手に持っていた拳銃は服の下に仕舞いこんだのか、どこにも見当たらない。たくさんの生徒がいる前で見せるのはよくないと判断したのだろう。あの緊急時にそれだけの判断を咄嗟にしたのだから、恐れ入るとしか言いようがない。
「今、この校内ではいったい何が起きているんだ? 君たちは何か事情を知っているのかい?」
村咲は露骨に違う話をし始めた。キザムたちを助けた理由は今は話したくないらしい。
「そちらはどこまで事情を知っているんですか?」
キザムは慎重に言葉を選んで、逆に質問で返した。村咲たちがゾンビのことを知っているのかどうか、まだ判断をしかねたからである。ここで徒にゾンビのことを話してしまうと、余計に混乱させる恐れがあった。こちらの手の内のカードを切るのは、相手の話を聞いてからでも遅くはない。
「僕らも正直、よく分からないんだ……。校内放送を聞いて校庭に避難しようとしたんだが、階段を駆け上がって逃げてくる生徒の集団を目にして、一階に向かうのは危険だと判断して、三階で待機することにしたんだ。もちろん、逃げてきた生徒に事情を聞いてみたが、どうも言っていることが要領を得なくてね……。なんて言ったらいいか、訳が分からないというか……」
そこで村咲は少し口ごもった。おそらく、一階から逃げてきた生徒の口から、狂変した生徒に襲われたという話を聞いたに違いない。しかし、その現場を実際に見ていない村咲たちは半信半疑で信じられずにいるのだろう。
「逃げてきた生徒たちはどうのようなことを言っているんですか?」
「うん……それが、その……生徒が生徒を襲っているっていう話なんだけど……。しかも、喰われたとかどうとか……」
心の迷いがそのまま声に出ていた。
「ええ、その通りです」
キザムは下手に否定することなく、はっきりと言い切った。
「──そうか……やっぱり事実なんだな……。生徒が生徒を襲うなんて信じられなかったが……本当にそんなことがこの学校で起きているんだ……」
キザムの話を聞く前からそれなりの覚悟が出来ていたのか、村咲は驚きはしつつも、素直にキザムの言葉を受け入れた。
「原因はよく分かりませんが、一部の生徒が誰彼構わず生徒を襲っています。もしかしたら、タチの悪い違法ドラッグでも吸引して、一時的に精神が混乱しているのかもしれません」
やはりキザムはゾンビという単語は避けて、違法ドラッグのせいではないかとウソをついた。平常時に話したらすぐにバレてしまうような安易なウソではあるが、この混乱した状況下では、有りえそうなウソの方が皆が納得すると考えたのである。
「ドラッグかよ……。どこのどいつだ、そんなバカなことをしたのは……」
「やだ、コワイ……。警察を呼んだ方がいいんじゃない……」
生徒の輪の間で、様々な声があがった。しかし、疑問に感じている生徒の声はあがらなかった。とりあえず、キザムのウソに上手く誤魔化されてくれたみたいである。
「そうか……」
村咲は眉間に深い縦皺を刻んで苦悩の表情を浮かべている。生徒会長としてこれからどうしたらよいか、深く頭を悩ませているのだろう。
「──うん、まあ、今はそれしかないか」
村咲が重く一度頷いた。そして、振り向いてこの場に集まった生徒たちの方に顔を向けた。
「僕たちはもうしばらくの間、ここで待機することにする。さっき聞こえたサイレンからも分かるように、いずれ救援が来るはずだから、ここで待つことにしよう」
村咲の声を聞いて安心したのか、生徒たちの輪が引いていく。
近くの教室に入る者、廊下の窓から外を不安げに見る者、手にしたスマホで誰かに連絡を取ろうとする者──。
各々がそれぞれの行動に移る。顔にはまだ不安の色があったが、混乱や動揺する様子は見当たらない。これも生徒会長である村咲の人格によるものだろう。
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