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第7章 フォース・オブ・ザ・デッド パートⅣ
その5
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「郷力、早くするんだっ! そのペースじゃ、追いつかれるぞ!」
村咲が遅れている郷力に大声で呼びかけた。
「走るのを止めて、廊下を滑るんだ! 野球のスライディングの要領だ!」
カケルがアドバイスを送った。カケルは一階でゾンビに追われた際に、防火シャッターの隙間にスライディングで飛び込んで難を逃れた。そのことを郷力に伝えようとしているのだろう。
「ス、ス、スライディングだって? オレが野球をやっているように見えるか?」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ! お前が走るスピードよりもスライディングの方が何倍も早いぞ!」
カケルが容赦なく言葉を発していく。
「クソが! 言いたいことを言いやがって! だったら、スライディングだろうがなんだろうがやってやるよ!」
郷力が文句を放ちながらも腰の位置を落とす。そして、足のつま先から滑るようして床の上をスライディングした──。
しかし、2メートルも進まないうちに郷力の身体はぴたっと止まってしまった。初心者にスライディングのハードルは高かったらしい。
「おい、小学生でももっとましなスライディングするぞ!」
言いながらカケルが防火シャッターを潜って、郷力救出に向かう。
「まったく世話が焼けるやつだ」
村咲もすぐ後に続いた。
廊下に寝そべっている郷力の両足をカケルと村咲がそれぞれ掴んだ。そのまま廊下の上を滑らせるようにして、郷力の巨体を引っ張って来る。
「お、お、おい……。オレは自分の足で走れるぞ……。荷物じゃねえんだぞ!」
両足を引っ張られるという非常にマヌケな格好のまま、不満を漏らす郷力である。むろん、カケルも村咲も郷力の声は一切無視している。逃げることに集中しているのだ。
カケルと村咲に廊下を運ばれる郷力と、二体のゾンビたちによる競争は、幸いにしてカケルたちの勝利で終わった。
三人が防火シャッターを潜り抜けるのと同時に──。
「キザム、急いで机を外してくれ!」
カケルからの指示が飛んできた。
「分かったよ!」
キザムは足で机を蹴り付けた。机が勢いよく吹っ飛んだかと思うと、防火シャッターが一気に床まで降りてきて、完全に廊下を塞いだ。これでゾンビはもうこちら側には来られない。
「みんな無事で良かった──」
キザムはほっと息をつくと、そのままごろんと廊下に仰向けに横になった。ようやく人心地が付いた。もちろんこの後、流玲を捜しにいかないとならないが、今は少しだけ休憩したかった。
「まあ、いろいろと想定外のことが起こったが、とりあえず作戦成功っていうところだな」
キザムと同じく廊下に寝転がった村咲が総括する声に、不満そうに口を挟んだ者がいた。
「いいか、オレが両足を持たれて運ばれたことは絶対に内緒だからな! 絶対に誰にも言うなよ! それから、オレが足が遅いということも絶対に内緒だからな──」
「はいはい。それだけ元気があれば大丈夫そうだな」
カケルが面倒くさそうにつぶやいた。
絶体絶命の危機を命からがら脱することが出来て、皆ひとときの間、なんとも言えない高揚感に浸っていた。もっとも荷物扱いされたことをまだ根に持っているのか、ブツブツと文句を言っている者がひとりだけいたが、皆聞こえない振りをしていた。
「──さあ休憩が済んだら、僕たちも校庭に避難するとしよう」
誰よりも早く立ち上がったのは、生徒会長の村咲だった。
「そうだな。いつまでも休憩しているわけにはいかなからな」
カケルもゆっくりと立ち上がる。
「僕たちは避難するが、君たちは屋上に向かうんだろう?」
「もちろん、ここまできて逃げるわけにはいかないからな」
「かなり体調が悪そうに見えるが、本当に大丈夫なのか?」
カケルは体調が完璧ではないのか、壁に手を付いて身体を支えている状態だった。
「心配するな。オレはまだまだ動け……」
突然、カケルが胸を強く押さえて苦しみ悶えだした。顔は俯き加減になり、身体は小刻みに震えている。その様は例の症状に酷似していた。
「おい! どうしたんだ? 大丈夫なのか? おい、しっかり……えっ、まさか──」
焦る村咲がカケルに近寄ろうとして、そこでカケルがゾンビに噛まれたことを思い出したのか、前に出しかけた足をピタリと止める。
「──まさか、ゾンビになったんじゃ……」
このままゾンビ化してしまうのかと思われたが、不意にカケルが顔をがばっと上げた。その表情は普段時と何も変わらない。
「お前――!」
村咲は顔にあからさまに不愉快な表情を浮かべた。
「──なんだよ。少し驚かせようと思ってゾンビのマネをしただけだよ。オレにはそれくらいまだ余裕があるっていうところを見せてやろうと思ってな」
カケルがしてやったりという笑顔を浮かべて村咲の顔を見つめた。疲れが色濃く残る顔だが、ゾンビ化の症状は一切現われていない。
「──いいか、今度それをやったら、迷うことなくお前の頭をイスで叩き割るからな!」
村咲は実際に手近に転がっていたイスを手に持っている。
「おー、こわ。生徒会長らしからぬ暴言だな。まったく、この時代の生徒会長には冗談も通用しないのかよ」
「あのな、世の中にはやっていい冗談と、やっちゃダメな冗談が──」
「分かったよ。分かった。オレが悪かったから、そう本気で怒るなって」
「すみません。カケルにはぼくからちゃんと言っておきますから」
キザムは慌ててカケルを庇うように助け舟を出した。カケルがわざと冗談めかすことで、村咲の心配を打ち消そうとしたのは分かったが、お堅い性格の村咲には通じなかったらしい。
「とにかく、ゾンビのマネをするだけの余裕があるならば、大丈夫みたいだな」
「ええ、ぼくらは大丈夫です」
「一応校庭に避難したら、君たちのことは先生たちに伝えておくから。生徒会長として見て見ぬ振りは出来ないからな」
「すみません。いろいろと迷惑ばかり掛けてしまって」
「いいさ。これも生徒会長の仕事だからな」
村咲はまだ廊下に寝転がっている郷力の方に目を向けた。
「ほら、郷力。そろそろ移動するぞ」
「分かったよ」
荷物扱いされた不満もようやく収まったのか、郷力が避難の準備に入る。
「柚石さんも準備してくれるかな」
柚石は蔵口のことでまだ気落ちしているのか、何も言わずにひょろひょろと立ち上がった。その様子を見て、村咲がすかさず柚石の身体を支えるように手助けする。このへんの動きはさすが生徒会長の面目躍如といったところである。
「それじゃ、僕らは階段を降りて校庭に向かうとするよ」
「はい、分かりました。下の階にゾンビはいないと思いますが、十二分に気を付けて下さい」
「ああ、ありがとう。君らも気を付けてくれよ。生徒会長として、これ以上生徒の犠牲者を増やしたくはないからな」
「はい、必ず流玲さんを連れて避難します」
村咲が黙って右手を差し出してきた。キザムも黙って手を差し出して、がっちりと村咲と握手をかわした。
最初の接触こそ防火シャッター越しに拒否されて死ぬ間際に追い詰められるという最悪なものだったが、今ではもうすっかりお互いに仲間として認め合っていた。
「いいか、絶対に死ぬんじゃ──」
「おっと、そこから先は絶対に言うなよ。死亡フラグになっちまうからな」
横からカケルが冗談混じりに声を挟んできた。
「まったく、お前は最後の最後まで不真面目なやつだな」
やれやれという感じで言う村咲だったが、その表情には笑顔が浮いていた。なんだかんだいいつつも、カケルと村咲もお互いに認め合っているのだろう。
こうしてキザムとカケルは村咲たちと別れて、また二人で行動することになった。
目指すは流玲が逃げた屋上である。そこに流玲が必ずいると信じて向かう──。
村咲が遅れている郷力に大声で呼びかけた。
「走るのを止めて、廊下を滑るんだ! 野球のスライディングの要領だ!」
カケルがアドバイスを送った。カケルは一階でゾンビに追われた際に、防火シャッターの隙間にスライディングで飛び込んで難を逃れた。そのことを郷力に伝えようとしているのだろう。
「ス、ス、スライディングだって? オレが野球をやっているように見えるか?」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ! お前が走るスピードよりもスライディングの方が何倍も早いぞ!」
カケルが容赦なく言葉を発していく。
「クソが! 言いたいことを言いやがって! だったら、スライディングだろうがなんだろうがやってやるよ!」
郷力が文句を放ちながらも腰の位置を落とす。そして、足のつま先から滑るようして床の上をスライディングした──。
しかし、2メートルも進まないうちに郷力の身体はぴたっと止まってしまった。初心者にスライディングのハードルは高かったらしい。
「おい、小学生でももっとましなスライディングするぞ!」
言いながらカケルが防火シャッターを潜って、郷力救出に向かう。
「まったく世話が焼けるやつだ」
村咲もすぐ後に続いた。
廊下に寝そべっている郷力の両足をカケルと村咲がそれぞれ掴んだ。そのまま廊下の上を滑らせるようにして、郷力の巨体を引っ張って来る。
「お、お、おい……。オレは自分の足で走れるぞ……。荷物じゃねえんだぞ!」
両足を引っ張られるという非常にマヌケな格好のまま、不満を漏らす郷力である。むろん、カケルも村咲も郷力の声は一切無視している。逃げることに集中しているのだ。
カケルと村咲に廊下を運ばれる郷力と、二体のゾンビたちによる競争は、幸いにしてカケルたちの勝利で終わった。
三人が防火シャッターを潜り抜けるのと同時に──。
「キザム、急いで机を外してくれ!」
カケルからの指示が飛んできた。
「分かったよ!」
キザムは足で机を蹴り付けた。机が勢いよく吹っ飛んだかと思うと、防火シャッターが一気に床まで降りてきて、完全に廊下を塞いだ。これでゾンビはもうこちら側には来られない。
「みんな無事で良かった──」
キザムはほっと息をつくと、そのままごろんと廊下に仰向けに横になった。ようやく人心地が付いた。もちろんこの後、流玲を捜しにいかないとならないが、今は少しだけ休憩したかった。
「まあ、いろいろと想定外のことが起こったが、とりあえず作戦成功っていうところだな」
キザムと同じく廊下に寝転がった村咲が総括する声に、不満そうに口を挟んだ者がいた。
「いいか、オレが両足を持たれて運ばれたことは絶対に内緒だからな! 絶対に誰にも言うなよ! それから、オレが足が遅いということも絶対に内緒だからな──」
「はいはい。それだけ元気があれば大丈夫そうだな」
カケルが面倒くさそうにつぶやいた。
絶体絶命の危機を命からがら脱することが出来て、皆ひとときの間、なんとも言えない高揚感に浸っていた。もっとも荷物扱いされたことをまだ根に持っているのか、ブツブツと文句を言っている者がひとりだけいたが、皆聞こえない振りをしていた。
「──さあ休憩が済んだら、僕たちも校庭に避難するとしよう」
誰よりも早く立ち上がったのは、生徒会長の村咲だった。
「そうだな。いつまでも休憩しているわけにはいかなからな」
カケルもゆっくりと立ち上がる。
「僕たちは避難するが、君たちは屋上に向かうんだろう?」
「もちろん、ここまできて逃げるわけにはいかないからな」
「かなり体調が悪そうに見えるが、本当に大丈夫なのか?」
カケルは体調が完璧ではないのか、壁に手を付いて身体を支えている状態だった。
「心配するな。オレはまだまだ動け……」
突然、カケルが胸を強く押さえて苦しみ悶えだした。顔は俯き加減になり、身体は小刻みに震えている。その様は例の症状に酷似していた。
「おい! どうしたんだ? 大丈夫なのか? おい、しっかり……えっ、まさか──」
焦る村咲がカケルに近寄ろうとして、そこでカケルがゾンビに噛まれたことを思い出したのか、前に出しかけた足をピタリと止める。
「──まさか、ゾンビになったんじゃ……」
このままゾンビ化してしまうのかと思われたが、不意にカケルが顔をがばっと上げた。その表情は普段時と何も変わらない。
「お前――!」
村咲は顔にあからさまに不愉快な表情を浮かべた。
「──なんだよ。少し驚かせようと思ってゾンビのマネをしただけだよ。オレにはそれくらいまだ余裕があるっていうところを見せてやろうと思ってな」
カケルがしてやったりという笑顔を浮かべて村咲の顔を見つめた。疲れが色濃く残る顔だが、ゾンビ化の症状は一切現われていない。
「──いいか、今度それをやったら、迷うことなくお前の頭をイスで叩き割るからな!」
村咲は実際に手近に転がっていたイスを手に持っている。
「おー、こわ。生徒会長らしからぬ暴言だな。まったく、この時代の生徒会長には冗談も通用しないのかよ」
「あのな、世の中にはやっていい冗談と、やっちゃダメな冗談が──」
「分かったよ。分かった。オレが悪かったから、そう本気で怒るなって」
「すみません。カケルにはぼくからちゃんと言っておきますから」
キザムは慌ててカケルを庇うように助け舟を出した。カケルがわざと冗談めかすことで、村咲の心配を打ち消そうとしたのは分かったが、お堅い性格の村咲には通じなかったらしい。
「とにかく、ゾンビのマネをするだけの余裕があるならば、大丈夫みたいだな」
「ええ、ぼくらは大丈夫です」
「一応校庭に避難したら、君たちのことは先生たちに伝えておくから。生徒会長として見て見ぬ振りは出来ないからな」
「すみません。いろいろと迷惑ばかり掛けてしまって」
「いいさ。これも生徒会長の仕事だからな」
村咲はまだ廊下に寝転がっている郷力の方に目を向けた。
「ほら、郷力。そろそろ移動するぞ」
「分かったよ」
荷物扱いされた不満もようやく収まったのか、郷力が避難の準備に入る。
「柚石さんも準備してくれるかな」
柚石は蔵口のことでまだ気落ちしているのか、何も言わずにひょろひょろと立ち上がった。その様子を見て、村咲がすかさず柚石の身体を支えるように手助けする。このへんの動きはさすが生徒会長の面目躍如といったところである。
「それじゃ、僕らは階段を降りて校庭に向かうとするよ」
「はい、分かりました。下の階にゾンビはいないと思いますが、十二分に気を付けて下さい」
「ああ、ありがとう。君らも気を付けてくれよ。生徒会長として、これ以上生徒の犠牲者を増やしたくはないからな」
「はい、必ず流玲さんを連れて避難します」
村咲が黙って右手を差し出してきた。キザムも黙って手を差し出して、がっちりと村咲と握手をかわした。
最初の接触こそ防火シャッター越しに拒否されて死ぬ間際に追い詰められるという最悪なものだったが、今ではもうすっかりお互いに仲間として認め合っていた。
「いいか、絶対に死ぬんじゃ──」
「おっと、そこから先は絶対に言うなよ。死亡フラグになっちまうからな」
横からカケルが冗談混じりに声を挟んできた。
「まったく、お前は最後の最後まで不真面目なやつだな」
やれやれという感じで言う村咲だったが、その表情には笑顔が浮いていた。なんだかんだいいつつも、カケルと村咲もお互いに認め合っているのだろう。
こうしてキザムとカケルは村咲たちと別れて、また二人で行動することになった。
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