50 / 70
第8章 フォース・オブ・ザ・デッド パートⅤ
その7
しおりを挟む
キザムは瞬時にカケルがこれから何を言おうとしているのか悟った。自分のことは自分が一番よく知っているからである。
「その生徒は幼い頃に難病の治療において、当時新しく開発されたばかりの画期的な遺伝子療法を受けていた。その遺伝子療法が何らかの形でゾンビカタストロフィーを引き起こす原因になったのではないかとの推論が下された」
カケルの話を聞きながら、自分の幼い頃の記憶を思い返していた。学校に通えずに病院の院内学級に通っていた日々。病院を退院してからというもの、院内学級のことを思い返すことはほとんどなかった。皆無といってもよかった。病院に入院していたこと事態を思い出したくなかったからである。
「──ねえ、その生徒って……もちろん、ぼくのことだよね……?」
「ああ、そうだ。──キザム、おまえのことだよ」
カケルはキザムの質問に対して、ゆっくりと首肯した。
「オレがこの時代にタイムトラベルしてきた目的は──キザム、おまえの監視のためなのさ」
「──監視って……。じゃあ、ぼくは……カケルにずっと監視されていたの……?」
キザムの心の中で、カケルに対する絶対的な気持ちが傷付くのが分かった。絶対的な信頼が音を立てて揺らぐのが分かった。
「それじゃ、カケルがぼくに近付いたのも、ゾンビカタストロフィーを止める為だったの? ぼくに近付いて、ぼくと知り合いになって、ぼくと休み時間に楽しく話をして、ぼくと友達になってくれて……それも全部……全部……ゾンビカタストロフィーを止める為にしたことだったの……?」
「──悪いが……そういうことになる……」
カケルは心に思うところがあるのか、悲しく問い掛けるようなキザムの視線から露骨に顔を逸らした。キザムにとってカケルは初めて出来た親友とも呼べる大切な存在だった。でも、それは違っていた。キザムの勘違いでしかなかった。なぜならば、カケルはキザムを監視するために、キザムに近付いたに過ぎなかったのだ。
「──キザムを監視をする中で、もしもゾンビカタストロフィーの発生原因を突き止めることが出来たら、なんとしてでも発生を未然に防ぐことに全力を傾注する。逆に万が一にも、ゾンビカタストロフィーの発生を防ぐことが出来なかったら、いかなる手段を講じてでもして、被害を最小限度に押さえることに努める。──それがオレに課された使命だった」
カケルがなぜこの時代に来たのか、そして、この時代で何をしようとしていたのか、やっと知ることが出来た。
「もっとも、オレも流玲さんの告白を聞くまでは、おまえが受けた遺伝子療法にゾンビカタストロフィーの発生原因があると思っていたが、どうやらそれは間違いだったみたいだな。ゾンビカタストロフィーの発生原因はおまえではなく、そこにいる流玲さんにあったんだからな。あるいは、おまえは流玲さんと日常的に接触する機会があったから、そこでゾンビカタストロフィーの発生に関わるような何かが生じた可能性も捨てきれなくはないが、この状況ではそれは否定してもいいだろうな。とにかく、結果的にこうしてゾンビカタストロフィーの発生原因を突き止めることが出来て良かったぜ。──さあ、話はこれで終わりだ。キザム、そこをどいてくれ。オレはここで決着を付けないとならないんだ。ゾンビカタストロフィーの発生原因をこの手で排除しないとならないんだ。その為にタイムトラベルしてきたんだからな」
「──カケル……。ダメだよ……そんなのダメだよ……。いいか、ぼくはここをどかないからな! だってそうだろう? こんなの絶対におかしいよ!」
キザムの心の中は正直、何が正しくて、何が真実で、何が本当なのかもう混乱して訳が分からなくなっていた。信頼していたカケルに裏切られたという衝撃も大きく影響していた。
「──キザム、おまえだって分かっているはずだ。流玲さんはどこも噛まれていないのにゾンビ化しているんだぞ? それはつまり流玲さんからゾンビ化が始まったという、これ以上ないくらいの証拠なんだよ。なによりも、流玲さん自身がさっき自分で証言しただろう。ゾンビカタストロフィーは自分から始まったとな。今さらそれを聞いていなかったとは言わせないぜ」
「それはそうだけど……でも……でも、そんな……」
キザムは上手くカケルに反論出来なかった。キザムとて頭の中ではカケルの言い分をちゃんと理解していたのだ。でも、流玲にはまだ人としての意思が残っている。まだ完全にゾンビ化してしまったわけではないのだ。ここで引き下がることはどうしても出来なかった。
「──なあ、キザム。オレが生きていた未来の世界において、ゾンビに襲われて死んだ人間はどれくらの数がいたと思う?」
不意にカケルが声のトーンを落として、違う話題を振ってきた。
「なんだよいきなり……。それって今答えないといけない質問なのか? 今は流玲さんのことを──」
「ゾンビ化した人間とゾンビに喰い殺された人間の総数は、おおよそ人口の三分の一程度といったところだ。そして、ゾンビ化せずに生き残った人間の数が三分の一……」
キザムの質問を無視して、カケルが勝手に話を進めていく。
「ちょっと待ってくれよ。それじゃ、計算が合わないだろう? 残りの三分の一の人間はどうなったんだよ? まさか食べるものがなくなって餓死したのか? それとも環境が激変したせいで衰弱死したとか……」
仕方なしにキザムはカケルの話に口を挟んだ。
「考えが甘いな、キザム。それは余りにも甘すぎる。──いいか、残りの三分の一の人間は、生き残った同じ人間の手によって殺されたんだよ!」
これ以上ないくらい衝撃的で、重たい意味を持つカケルの言葉だった。
「その生徒は幼い頃に難病の治療において、当時新しく開発されたばかりの画期的な遺伝子療法を受けていた。その遺伝子療法が何らかの形でゾンビカタストロフィーを引き起こす原因になったのではないかとの推論が下された」
カケルの話を聞きながら、自分の幼い頃の記憶を思い返していた。学校に通えずに病院の院内学級に通っていた日々。病院を退院してからというもの、院内学級のことを思い返すことはほとんどなかった。皆無といってもよかった。病院に入院していたこと事態を思い出したくなかったからである。
「──ねえ、その生徒って……もちろん、ぼくのことだよね……?」
「ああ、そうだ。──キザム、おまえのことだよ」
カケルはキザムの質問に対して、ゆっくりと首肯した。
「オレがこの時代にタイムトラベルしてきた目的は──キザム、おまえの監視のためなのさ」
「──監視って……。じゃあ、ぼくは……カケルにずっと監視されていたの……?」
キザムの心の中で、カケルに対する絶対的な気持ちが傷付くのが分かった。絶対的な信頼が音を立てて揺らぐのが分かった。
「それじゃ、カケルがぼくに近付いたのも、ゾンビカタストロフィーを止める為だったの? ぼくに近付いて、ぼくと知り合いになって、ぼくと休み時間に楽しく話をして、ぼくと友達になってくれて……それも全部……全部……ゾンビカタストロフィーを止める為にしたことだったの……?」
「──悪いが……そういうことになる……」
カケルは心に思うところがあるのか、悲しく問い掛けるようなキザムの視線から露骨に顔を逸らした。キザムにとってカケルは初めて出来た親友とも呼べる大切な存在だった。でも、それは違っていた。キザムの勘違いでしかなかった。なぜならば、カケルはキザムを監視するために、キザムに近付いたに過ぎなかったのだ。
「──キザムを監視をする中で、もしもゾンビカタストロフィーの発生原因を突き止めることが出来たら、なんとしてでも発生を未然に防ぐことに全力を傾注する。逆に万が一にも、ゾンビカタストロフィーの発生を防ぐことが出来なかったら、いかなる手段を講じてでもして、被害を最小限度に押さえることに努める。──それがオレに課された使命だった」
カケルがなぜこの時代に来たのか、そして、この時代で何をしようとしていたのか、やっと知ることが出来た。
「もっとも、オレも流玲さんの告白を聞くまでは、おまえが受けた遺伝子療法にゾンビカタストロフィーの発生原因があると思っていたが、どうやらそれは間違いだったみたいだな。ゾンビカタストロフィーの発生原因はおまえではなく、そこにいる流玲さんにあったんだからな。あるいは、おまえは流玲さんと日常的に接触する機会があったから、そこでゾンビカタストロフィーの発生に関わるような何かが生じた可能性も捨てきれなくはないが、この状況ではそれは否定してもいいだろうな。とにかく、結果的にこうしてゾンビカタストロフィーの発生原因を突き止めることが出来て良かったぜ。──さあ、話はこれで終わりだ。キザム、そこをどいてくれ。オレはここで決着を付けないとならないんだ。ゾンビカタストロフィーの発生原因をこの手で排除しないとならないんだ。その為にタイムトラベルしてきたんだからな」
「──カケル……。ダメだよ……そんなのダメだよ……。いいか、ぼくはここをどかないからな! だってそうだろう? こんなの絶対におかしいよ!」
キザムの心の中は正直、何が正しくて、何が真実で、何が本当なのかもう混乱して訳が分からなくなっていた。信頼していたカケルに裏切られたという衝撃も大きく影響していた。
「──キザム、おまえだって分かっているはずだ。流玲さんはどこも噛まれていないのにゾンビ化しているんだぞ? それはつまり流玲さんからゾンビ化が始まったという、これ以上ないくらいの証拠なんだよ。なによりも、流玲さん自身がさっき自分で証言しただろう。ゾンビカタストロフィーは自分から始まったとな。今さらそれを聞いていなかったとは言わせないぜ」
「それはそうだけど……でも……でも、そんな……」
キザムは上手くカケルに反論出来なかった。キザムとて頭の中ではカケルの言い分をちゃんと理解していたのだ。でも、流玲にはまだ人としての意思が残っている。まだ完全にゾンビ化してしまったわけではないのだ。ここで引き下がることはどうしても出来なかった。
「──なあ、キザム。オレが生きていた未来の世界において、ゾンビに襲われて死んだ人間はどれくらの数がいたと思う?」
不意にカケルが声のトーンを落として、違う話題を振ってきた。
「なんだよいきなり……。それって今答えないといけない質問なのか? 今は流玲さんのことを──」
「ゾンビ化した人間とゾンビに喰い殺された人間の総数は、おおよそ人口の三分の一程度といったところだ。そして、ゾンビ化せずに生き残った人間の数が三分の一……」
キザムの質問を無視して、カケルが勝手に話を進めていく。
「ちょっと待ってくれよ。それじゃ、計算が合わないだろう? 残りの三分の一の人間はどうなったんだよ? まさか食べるものがなくなって餓死したのか? それとも環境が激変したせいで衰弱死したとか……」
仕方なしにキザムはカケルの話に口を挟んだ。
「考えが甘いな、キザム。それは余りにも甘すぎる。──いいか、残りの三分の一の人間は、生き残った同じ人間の手によって殺されたんだよ!」
これ以上ないくらい衝撃的で、重たい意味を持つカケルの言葉だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」
(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。
王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。
風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる