“Z”ループ ~タイム・オブ・ザ・デッド~

鷹司

文字の大きさ
64 / 70
終章 エンド・オブ・ザ・デッド ~死者の結末~

その3

しおりを挟む
 教室の壁に設置されているスピーカーから明るいチャイムが流れてきた。黒板の前に立つ英語の教師が自分の腕時計に目を向ける。

「じゃあ、今日はここまで。次回は形容詞についてやるからな」

 英語教師の声は、しかし、生徒たちの耳には届いてはいなかった。生徒たちの心はすでに昼食の方に向いていたのだ。

 英語教師はやれやれと呆れ気味に首を振りながら教室を出て行った。

 それを待っていたかのように全力で廊下へ飛び出していく男子生徒たち。食堂までの短距離走の始まりである。スタートダッシュが遅れてしまうと、昼食を求める生徒たちの長い列に並ばなくてはならなくなるのだ。

 幸いなことに、キザムは母親が毎日しっかりとお弁当を作ってくれるので、食堂までの短距離走に加わる必要がなかった。

 しかし今日に限って言うと、クラスメートたちとは異なるスタートダッシュをする必要があった。

 キザムは身体的な理由で激しい運動が出来ないのだが、それでも早歩き程度のスピードで教室を出ると、目的の場所へと急いだ。

 ランチタイムに入った校内では、勉強から解き放たれた生徒たちの明るい歓声がそこかしこから聞こえてきた。

 そんな明るい雰囲気とはかけ離れた重たい表情を浮かべて、ひとり廊下を突き進むキザム。無言のまま階段を上がっていき、屋上に続くドアの前まで来た。ドアノブを握り締めて、ドアを静かに開ける。

 今日は風が強いせいか、屋上に人影は一切なかった。でも、キザムにとってはその方がかえって好都合だった。今日だけは誰とも会わず、誰とも話さずに昼休みを終えたかったのである。

 なぜならば──今日という日は前の世界においてゾンビカタストロフィーが起きた、まさにその日だったのだ。

 あの日、ゾンビカタストロフィーは学校の昼休みに起きた。だから、キザムは昼休みの間は出来るだけひと目を避けて、誰とも接触したくなかったのである。加えて、さらに慎重を期すために、キザムは学校に登校してきてからずっと、カケル、流玲、沙世理の三人とは、いつも以上に距離を置いて接触を避けてきた。

 この世界にタイムループしてきて以降、一番気を付けないといけない日なのだ。

 キザムは人っ子一人いない屋上の端っこに座り込むと、母親お手製のお弁当を膝の上に置いた。ひとりでの昼食にはもう慣れたので、寂しいと感じることはなかった。早々に昼食を終えたのか、遊びに興じる生徒たちの大きな声が校庭から聞こえてくる。


 今日という日を無事にやり過ごせば、ゾンビカタストロフィーの脅威は一段落つくはずなんだ。校庭から聞こえるあの明るい声を、悲鳴になんかに絶対にさせないようにしないと──。


 決意も新たに、心中で自分自身に言い聞かせる。


 でも、その前に腹ごしらえをしっかりしておかないと。


 今のうちにお腹を満たすのも大事な仕事である。キザムはお弁当の蓋をゆっくりと開けた。

「──なるほど、そうきたか」

 お弁当の中身を見て、思わず声が漏れた。弁当箱にはキザムが大好きな卵がおかずとして入っていた。キザムの記憶では、今日のお弁当のおかずは『卵焼き』か『ゆで卵』だったはずである。しかし、今目の前の弁当箱の中に入っているのは、鮮やかな黄色をした『炒り卵』だった。

「──おかずが今までと違う……。これって何かを暗示しているのかな……?」

 一気に緊張感が高まってきた。硬い表情のまま、炒り卵を穴があくほどじっくりと凝視する。

 前の世界で、今までと違う現象が起きる理由として、『バタフライエフェクト』の影響が考えられると沙世理から教えられた。だとしたらこの後、キザムがまだ経験したことのないような展開が起きる可能性が出てきたということである。

 むろん、そのことがすぐにゾンビカタストロフィーの発生と結び付くわけではないだろうが、この後の行動には更なる注意を払う必要があった。


 そう簡単に歴史を変えることは出来ないということの、これは表れなのかもしれないな──。


 まさか弁当箱の『炒り卵』から、運命の不可逆性を学ぶ羽目になるとは思いもしなかった。

 母親には悪いが、せっかくキザムの健康を気に掛けて作ってくれたお弁当だったが、ゆっくり味わう余裕すらなかった。ご飯とおかずを交互に黙々と口に入れていき、口に残った最後のご飯を、水筒のお茶と一緒に胃に流し込んで、昼食を手早く済ませた。


 さあ、あとはいつもの薬を飲んで、この後の展開に備えようか──。


 キザムが自らの命を支えている飲み薬を手に取って飲もうとしたとき、屋上にその生徒が姿を現した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...