パズル・ウォーズ 〜謎解きの街で、ご当主様始めます!?〜

しぎ

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Q2.謎解きの街の新学期

最後の勝負

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「えっ!?」
 わたしと虎子ちゃんの声が重なった。

 それは、答えられるのか?

「一切の質問禁止、すずめが解答できるのも1回だけ。その1回ですずめが正解できなかったら、あたしの勝ち」


「蒼衣、それはきついだろ」
「いや、可能なはずよ。ひらめきさえすれば、ね」
 鷹くんの言葉を蒼衣ちゃんが遮って否定する。

「可能な以上、あたしはこのルールで問題を出す。すずめができなかったら、あたしの方が出題に関しては上手かった。それだけよ」


「わかった。どうせここでわたしが否定したら、蒼衣ちゃんは『すずめは逃げた』って言うつもりなんでしょ?」
「まあ、そうなるわね」
「そういうわけにはいかない。だから蒼衣ちゃんの提案を受け入れる」

 ここで否定するんだったら、そもそもわたしは龍沢家に来ていない。

 本当はもちろん、鷹くんと同じことを思っている。
 ここまで2問の形式と同じなら、質問無しでいきなり正解にたどり着くのは難しすぎる。

 けど、わたしはそれでどうこう言ってられる立場ではないのだ。

「すずめ、でも」
 隼くんが声を上げるけど、蒼衣ちゃんはそれに構わず続ける。

「OK。じゃあ、あたしからの最後の問題」
 蒼衣ちゃんは軽く深呼吸して、問題を読み上げた。

「『今日は快晴、絶好のスポーツ日和。AさんとBさんはいつも通り、13時から揃って同じコースで同じところからジョギングをスタートしました。しかしAさんの方がBさんより2倍速いペースで走るため、2人の走行距離はどんどん離れていきます。さらに途中でBさんが疲れて遅れたので、2人のペースには3倍近い差がつきました。そして14時、2人が同時にジョギングを止めたとき、なぜか2人はほとんど同じ場所にいました』……さて、なぜでしょう?」

 …………?

「あっ、言い忘れてたけど『2人は周回コースをぐるぐる回っていたわけではないし、どちらかがわざとペースを落として相手を待ったりとかもしていません。2人ともひたすら自分のペースで走り続けました』……でも走り終わった時に2人のいた場所はほとんどすぐそこだった、その理由は?」


 ……無言の時間が流れる。

 10分経っても、誰も何も言わない。


 横を見ると、鷹くんも隼くんも、虎子ちゃんも難しい顔をしている。
 みんな、真面目に蒼衣ちゃんの問題を考えているんだ。

 もちろんわたしも考えている。が、どうしても思いつかない。
 同じコースを同じところから走り出して、終わったときも同じ場所にいた。
 でも走る速さは片方がずっと速かった。
 そんなのが可能だとしたら、途中でコースが分かれたりとか、一周差がついたとかいう状況しかありえない。
 けどコースが分かれるのでは同じコースとはいえないし、周回コースではないという条件はついている。


 うーん、ダメだ。やっぱり普通にはどうやっても無理だ。

 ここは問題を整理し直そう。
 1問目のお寿司みたいな思い込みがどこかにあるのかも?


「今日は快晴、絶好のスポーツ日和」

 わたしはつぶやき、蒼衣ちゃんの座る向こうに目をやる。障子は開け放たれ、その向こうは縁側を挟み太い木が何本も生えている広い庭。
 のぞいている空は気持ちいいぐらいの真っ青。まさにこういう日のことを言っているのだろう。

 あれ、でもこれって問題に関係あるのかしら?


「なあ、これ2人とも本当に走ってるのか?」
 その時、沈黙を破ったのは鷹くんだった。

「あたし、うそは一言も言ってないわ。AさんもBさんも、確かにジョギングをしている」
「ジョギングって言ってるけど、実は歩いていたとか?」
「何言ってるんだ鷹。走行距離は離れていった、って言われただろう」

 隼くんが鷹くんの肩を小突く。
 確かにそうだ。AさんもBさんもちゃんと走っているということは示されている。

 でも鷹くんの言うことは正しい。
 始めから止まってでもいない限り、こんなこと……


 止まる?

 
「あっ!」

「すずめさん?」
「そういうことね、やられた」

 気づいた瞬間、わたしは心のなかで笑っていた。
 またわたしは、思い込みをしてしまっていたのだ。鷹くんも隼くんも、虎子ちゃんもきっと。
 いわば、蒼衣ちゃんにだまされていたのである。

 しかし考えてみれば、だますのを上手くやるのも謎を作る能力だ。『海老川四家』の当主には謎解きの能力が求められる、というのを改めて実感する。


「答えるわ。『2人は、ランニングマシンでジョギングしていたから』」

「ああっ!」
 鷹くんと隼くんの声が重なる。息ぴったりだ。

「はあっ、確かに外を走ってたとは一言も言われてないわね。なるほどすずめさん、さすが赤崎家新当主と言われるだけありますね」
 虎子ちゃんも納得してる。けど、わたしを当主というのはやめてほしい……

「そう、わざわざ快晴なんて言ったのは、外を走ってたと思わせるための引っ掛け。ジムなんかにあるランニングマシンを使えば、どれだけAさんとBさんの間で足の速さや体力が違っていても、最初から最後までずっと隣同士にいられる。でも、2人の走行距離は、当然同じにはならない」

 晴れた日にだって、ジムで運動するのが好きって人はきっとたくさんいるだろう。
 いじわるな問題文ではあるが、思い込みを誘うという意味では良い文章だ。

 
「正解よ。あーこれは結構自信あったんだけどなー」
 蒼衣ちゃんが両手で伸びをする。その顔は悔しいような、どこか吹っ切れたかのような。

「蒼衣、認めなさい。すずめさんの実力は確かよ」
「わざわざ虎子に言われなくてもわかってるって。それともあんたは最初からわかってたって言うつもり?」
「少なくとも、いきなり果たし状なんて送りつける真似はしなかったけど? 蒼衣、そういうところ本当にはしたないわよね」
「はしたないは関係ないでしょ! というか虎子だって、本当はすずめの力におびえてるんじゃないの? 赤崎家まで相手にできない、とかね」
「あら、その言葉そのままお返しするわ。蒼衣、赤崎家をめんどくさく思ってるのはあなたでしょう?」

 蒼衣ちゃんと虎子ちゃんから赤崎家という言葉が出て、鷹くんが勢いよく立ち上がった。
「なんだよ2人とも、俺らをめんどくさいとかなんだとか言いやがって」
「鷹、落ち着け。2人がそういうことを言うのは当たり前だろ。それにこれは、すずめが認められてるってことだ」
 隼くんに制止されて、鷹くんは再び畳に腰を下ろす。


「それよりもすずめ、最終問題だ。すずめの一番を、蒼衣にぶつけてやれ」

 そうだ。わたしからの最後の問題。これを蒼衣ちゃんが答えられなければ、わたしの勝ちが決まる。

「うん、わかった」

 わたしは改めて、蒼衣ちゃんを真っ直ぐ視線に捉える。
 しかしこうして見ると、蒼衣ちゃんはやっぱりかわいい。
 くりくりした大きな瞳に整った顔立ち。勝ち気な表情。
 きっと男子からも人気ありそうだな。家はお金持ちだし。


 ――でも、それと勝負とは全くの別問題だ。


「問題。この暗号を解読してください。『のそつそてくけさなそせおきあけてくけすあてな』」

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