パズル・ウォーズ 〜謎解きの街で、ご当主様始めます!?〜

しぎ

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Q2.謎解きの街の新学期

ゲームが上手すぎる

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 ゲームが上手すぎると見捨てられる。それは例えば、どんな状況だろうか?
 わたしはまた、思いついたものを一旦言ってみる。

「ゲームが上手すぎていつも勝っちゃうから、他の子がつまらなくなったとか?」
「違う」

 では、他に理由があるだろうか?

 わたしは考えて、そしてさっきの1問目を思い出す。
 あのときは、お寿司が食品サンプル、ミニチュアであるというトリックがあった。
 きっと今回も何か隠された情報があるはず。
 

「そのゲームは、スマホやゲーム機のゲームですか?」
「いいえ」

 蒼衣ちゃんの表情が、ちょっと変わった。もしかしていい質問だったのか。

「そのゲームは、スポーツですか?」
「うーんと、いいえ」

 スポーツではない、けどスマホやゲーム機のたぐいではない。
 とすると、遊びの部類に入るやつだ。じゃんけんとか、鬼ごっことか?

「そのゲームは、主に外で遊ぶものですか?」
「まあ、はい、かな」

 蒼衣ちゃんが迷ったということは、はっきりとは言えないものなのか。でも一応外で遊ぶものとしておこう。

 外で遊ぶもので、上手すぎると見捨てられるようなもの?


 いや待てよ、そもそも見捨てられるってのはどういうことだろう?
 よく考えたら見捨てるというのも大ざっぱな言い方だ。

「見捨てるというのは、その男の子とはそのゲームをもう遊ばない、という意味ですか?」
「いいえ」

 やっぱり。
 おそらく、見捨てるという言葉の意味がポイントである。
 その男の子はゲームが上手すぎることで、何か問題を起こしてしまったのだ。そしてその問題が、多分わたしの答えるべきもの。


「鷹、今度もわかったのか?」
「いや、今回はさっぱりだ。隼は?」
「俺も」
「今回はわたしもまだピンと来てないわね。やっぱりこの手の問題ももう少し練習すべきかしら」
「あら虎子わかってないの?」

 鷹くん隼くんに続いて虎子ちゃんがぼそっとつぶやくと、すかさず蒼衣ちゃんが声を上げる。

「蒼衣、今あなたが出題しているのはすずめさんでしょう。それにすずめさんがもっといい質問をすれば、わたしだって多分すぐ答えられるわ」

 そうだ。この勝負のポイントは、限られた回数の中でいかに有効な質問をするか。
 適当な質問をしてたらあっという間に終わってしまう。

 どこから攻めていくか。
 やっぱり今回は、どんなゲームをしていたのか、というところだろうか?
 何か特殊なやつとかだったら、それがそのまま答えに直結する。

「そのゲームは、幼い子どもでも遊べるようなものですか?」
「はい」

 今度は、蒼衣ちゃんは即答だった。ということはきっと複雑なゲーム、遊びではない。
 それで主に外で行うもの。

 鬼ごっこ? かくれんぼ?

 それらの中で、見捨てるようなことが発生する遊び。


 あっ、見捨てるって、そういう意味なんじゃ?


「そのゲームは、かくれんぼですか?」
「――はい」

 これだ。蒼衣ちゃんの隠しきれない悔しそうな反応が、わたしの考えが間違ってないことを示している。

「わかったわ。その男の子はかくれんぼがあまりに上手すぎて、他の子が探すのを諦めた、つまり見捨てられてしまったのね」

「正解」
 蒼衣ちゃんが少しため息をつく。

 探すのを諦めた、というのを見捨てるって表現してしまうのは強引に思えるが、そうやって答える側の勘違いや思い込みを誘うのがこの問題のポイントなんだ。


「なるほどねえ。蒼衣わかった? すずめさんの実力は間違いない。少なくとも蒼衣が簡単にえらそうな態度を取れないぐらいには」
「何よ、まだ勝負はついてないじゃないの。すずめ、次の問題は?」

 虎子ちゃんの言葉に、蒼衣ちゃんは口をとがらせてわたしに迫る。
 確かに、まだ勝負は途中だ。わたしにはあと2問、出さなければいけない問題が残っている。

「では、わたしからの2問目」
 わたしは少し息を吐いて、再びスマホの画面を蒼衣ちゃんに見せる。

「この暗号を解読してください。『いくぜさつでる』」


「うう……紙とペンってある?」
 ややあって、蒼衣ちゃんが言葉を絞り出す。
 わたしがメモ帳の白紙ページを1枚ちぎってボールペンと一緒に渡すと、そこに蒼衣ちゃんは色々書き始めた。

 時折うーんとつぶやきながらメモ帳を片手に考え込む蒼衣ちゃん。
 わたしは同い年の女の子が、こんなにも真剣に頭を悩ませている姿を、海老川に来るより前に見たことがあっただろうか。

「ふふっ、やはり蒼衣が必死で考え込んでる姿は、いつ見ても気持ちいいわね」
「何よ、そういう虎子はわかったの?」
「いや、まだだけど? こういうシンプルな問題は、解き方の候補を色々当てはめていくしかないもの」
「なんで解ける前に上から目線してるのよ」

 どこか挑発するような虎子ちゃんに対し、蒼衣ちゃんも強い口調で応じる。
 この2人は、会うたびにいつもこんな感じなのだろうか。

「でも、これもすずめさんが考えたの?」
「うん。鷹くん隼くんにも解いてもらってチェックしたけど」
「時間かかったけど、俺らはちゃんと解いたぞ」
 鷹くんが得意そうに胸を張る。

「なるほど、すずめさんもいい問題を作るのね」
「あ、ありがとう」

 まさか自分が問題を作る側でほめられるとは思わなかった。
 ――さっき虎子ちゃんも言ったように、暗号解読にはある程度解き方のパターンというのがある。今回みたいにひらがなだけのシンプルな暗号文ならなおさらパターンが当てはめやすい。

 ところで、解き方のパターンを逆にやれば暗号は作ることができる。
 だから、暗号の作り方にも種類があるのだ。

 今回わたしは、その1つを使っただけである。


「わかった!」

 今度は蒼衣ちゃんがそう叫ぶまで、10分ぐらいあっただろうか。
「これは文字をずらすパターンのやつね」

 そうだ。
 暗号のパターンでよくあるものに、一定の法則にしたがって文字を別の文字に置き換えるというものがある。その中でも単純で有名なのが、文字を五十音順やアルファベット順にずらして暗号文にするというものだ。
 例えば『えびがわ』を下に1文字ずらすと『おぶぎを』となる。解読するときは逆に、上に1文字ずらせばいい。単純だけど、これでも立派な暗号である。

 わたしが今、蒼衣ちゃんに出した暗号も文字をずらしたもの。
 なのだけど、何文字ずらすかというところに少し工夫がある。


「1文字目は上に1文字、2文字目は上に2文字、といった感じでずらしていって7文字目までやると『あかざきすずめ』になるのね」
「正解」
「やるじゃないの、すずめ。でも、これで2対2。次があたしからの最終問題」


 蒼衣ちゃんが姿勢を正す。その顔が少しほほえんでるということに、わたしは気付いた。

 蒼衣ちゃんも、きっと楽しいんだ。


「最後もウミガメのスープをやろうかな、と思ったのだけど」

 そこで蒼衣ちゃんは、いたずらでもしそうな目でわたしを見据える。
 

「最終問題は、質問禁止にするわ」
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