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Q2.謎解きの街の新学期
不思議なお寿司と4文字のひらがな
しおりを挟むお寿司を注文したのに食べずに店を出ていってしまった、というのは確かにおかしな話だ。
とりあえず、思いついた答えを言ってみる。
「持ち帰って食べた、もしくはもともとスーパーみたいに店内では食べられない店だった」
「違う」
わたしの答えに、蒼衣ちゃんは首を横に振る。さすがにこんな単純な答えじゃないか。
「では質問。男は寿司を食べたかったけど、なにか理由があって急に食べられなくなったってこと?」
「違う。男には最初から食べるつもりは無かった」
食べるつもりのないお寿司を買ったってこと?
あっ、それとも。
「男以外の別の人が寿司を食べた?」
「違う。今回、この男以外の登場人物はいない」
友達におごったりとか、子どもに買って帰ったりという話でもないということらしい。
男は1人でお寿司を悩んだ末に注文したけど、食べていない。最初から食べる気がない。
「人じゃなくて、犬とか猫とかが食べた?」
「それも違う。動物も今回は一切登場しない」
まあ、ペットがお寿司を食べるなんてのも聞いたことないし。
「じゃあ、その寿司はすぐ食べるつもりは無くて、保存用に?」
「違う」
そうよね、わたしも言いながらこれは違うと思った。保存用の寿司ってなんだ。
しかしそうなると、男は本当に食べる気のないお寿司を買っていることになる。
いつの間にか、質問はあと5回。いや、最後に答えなきゃいけないからあと4回だ。
ふっと横を見ると、虎子ちゃんは真剣な顔で目をつむっている。答えを考えているのだろうか。
その後ろの隼くんは明らかに悩んでいる顔つきだ。その肩を鷹くんがこつんと叩く。
「鷹、わかってるのか?」
「まあ、これじゃないかってのはあるな。あっ、言っとくけど蒼衣から答え聞いてたとかじゃないぞ」
鷹くんはもうわかってるというのか。でもそれはすなわち、正解に向けて必要な情報はすでに出揃っているということになる。
食べるつもりのないお寿司を買う理由は何か。
誰かに買い与えたというわけでもないし、最初から食べる気もない。
じゃあ、男じゃなくてお寿司の方に何か理由が?
「その寿司は、そもそも食べられるもの?」
「いいえ」
わたしは蒼衣ちゃんの答えに、右手のこぶしを握りしめた。
やっぱり、この謎を解く鍵はお寿司の側だ。
もともと食べられないお寿司なら、買った男も食べる気はない。
あれ、でもそしたらなんで美味しそうなんて言うんだ?
考えろ、考えろ。
きっともともと食べられないお寿司なら、回転寿司みたいにお皿に乗ってきたりするわけじゃないのだろう。
そういえばどういう店なのかをまだ質問してないけど、例えば高級そうな店の入口みたいにメニューが並んでたり、あるいは……あっ。
食べられないお寿司を買う理由、あるかもしれない。
「――その寿司は、ミニチュアですか?」
「はい」
蒼衣ちゃんが、悔しそうに返事をした。
そして横では、虎子ちゃんがうんうんとうなずいていた。
「答えるわ。男が見ていたのは、食品サンプルとか、ミニチュアのキーホルダーね。まあでも、美味しそうって感想を言うのはちゃんとした食品サンプルなのかしら。とにかく、男はそれを買って帰った。部屋に飾るのか、どうするのかはわからないけど、それを食べることがないのは確か」
「正解」
蒼衣ちゃんは両手を後ろにつけて身体を伸ばす。横で見ていた鷹くんが拍手しているのがわかった。
しかし、食品サンプルを寿司って言っちゃうのはどうかって気もするが、そういう問題なのだから仕方がない。
引っ掛け問題、ということになるのだろうか?
「すずめさん、お見事。で、すずめさんの出題は?」
すぐさま虎子ちゃんの声が飛ぶ。ああそうか、次はわたしの番なのか。
今日のために、鷹くん隼くんとも相談して考えてきた問題。
謎解き勝負である以上、すずめも出題する準備をしておかないといけない。そう言われてわたしが用意してきた問題だ。
「では、わたしから1問目」
わたしはスマホのメモ画面に打ち込んでいた文章を蒼衣ちゃんに見せる。
『あかざき+おりうる=かんぜん
たいけつ+????=てんねん』
「????に入るひらがな4文字を答えて欲しいの」
わたしのスマホ画面を、じっと見つめる蒼衣ちゃん。
始業式の日、虎子ちゃんに出題されたときと同じ顔になっている。
「ひらがな4文字、足し算?」
ぶつぶつと何かつぶやく蒼衣ちゃんの表情からは、余裕のようなものは全く感じられない。
蒼衣ちゃんが、本気で考えている。
「これ、隼や鷹も一緒に考えたの?」
「いや、すずめが考えたやつだ」
「俺らは昨日問題を聞いただけ。ちなみに、考えたけど解けたぜ」
「そうなのね」
虎子ちゃんはちらっとわたしを見る。少しにやりとしたような?
ちなみにこの問題は本当にわたしが1人で考えたものだ。
難しい仕組みがあるわけじゃないから、もしかしたら似たようなアイデアの問題があるかもしれない、というかきっとあるだろう。
でも一応、誰の助けも借りてはいない。
「わかったわ!」
数分後、蒼衣ちゃんが叫んだ。
「これは、ひらがなを数字に直して足し算すればいいのね。1番目の『あ』と5番目の『お』を足すと、6番目の『か』になる。6番目の『か』と、『り』は、えっと」
蒼衣ちゃんは指を必死に折っている。
「40番目ね。だから足し合わせると46番目の『ん』」
蒼衣ちゃんの言うとおりだ。
五十音順で『あ』を1、『い』を2……としてひらがなを数字に変換すると、一字ごとに足し算が成立するようになっている。
『さ』+『う』=『せ』で、濁点はそのまま。『き』+『る』=『ん』なので、つなげて読むと『かんぜん』という言葉ができる。
一文字目の?を求めるには、『た』と『て』を数字に直して引き算すれば良い。3になって、『う』が入ることがわかる。同じように全部の?を求めれば答えが出る。
「『うわそふ』、ね」
「正解」
「でも、『おりうる』とか『うわそふ』ってなんなの?」
蒼衣ちゃんが追及してくる。しまった、ここを聞かれると弱いのだ。
「そうね、特に意味はないわ。その方が、蒼衣ちゃんも答える時に迷うんじゃないかと思って」
適当に言ってごまかすが、本当はここも意味のある言葉にできないかとやってみたのである。
その方がきれいだからと鷹くん隼くんと一緒に頑張ってみたけど、上手く言葉を当てはめられなかった。
「ふうん、まあいいか。これで1対1ね、じゃあ次はあたしからよ」
蒼衣ちゃんは右手でびしっとわたしを指差す。
「あたしからはまたウミガメのスープ。ルールはさっきと同じで、すずめが10回の質問中に正解できたらすずめの勝ち、できなかったらあたしの勝ち。OK?」
「もちろん」
蒼衣ちゃんの少し挑戦的な態度。
それを見ていると、こちらも気持ちが乗ってくるというものだ。
「それじゃあいくわ。『ある男の子はゲームが上手すぎて、一緒に遊んでた子たちに見捨てられてしまった』……さて、どうして?」
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