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Q2.謎解きの街の新学期
ウミガメのスープ
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わたしたちは赤崎家の居間より何倍も広そうな、畳の敷かれた部屋に通される。
途中の廊下には高価そうな壺や掛け軸が飾ってあったりするのが、赤崎家との決定的な違いだ。
そしてこの広い部屋の壁にかかっているのは、額に入れられた……手紙?
博物館に展示されてそうな、横に長くて古い紙に、筆と墨で文字のような何かが書かれている。
「ふっふっふっ、それは『ふじの書状』よ。あたしのご先祖様が江戸時代の初めからすごかったことがわかるお宝!」
わたしが聞く前に、目を輝かせて話し出す蒼衣ちゃん。
「それにこの中には、あたしのご先祖様がすでにお客に対して謎かけを出していたことが書かれているのよ!」
「龍沢家はこれを理由に、『海老川で初めて謎解きのサービスを始めたのは自分たち、だから海老川の人は自分たちに感謝しなさい』って言ってるんだ」
隼くんが小声でそっと補足してくれる。
わたしが見ても、何が書かれているかまるでわからないけど、専門の人にはわかるのだろう。
「全く、本物かどうかもわからないものをこんなに堂々と飾るなんて」
一方、虎子ちゃんはあきれているようだ。
確かに、白井家も自分たちが最初に謎解きのサービスを始めたと主張しているなら、これの存在は否定したいところである。
「前も虎子には言ったよね? ここに飾ってるのは確かにレプリカだけど、本物はちゃんと蔵に保管してるんだから。それに偉い大学の先生、みたいな人がちゃんと本物だって言ってるの」
「どうかしら。その先生とやらも龍沢家と付き合いがある人でしょう? 都合の良いことを言わせてない?」
「そんなわけないでしょ!」
声を上げて虎子ちゃんに迫る蒼衣ちゃん。それを慌てて鷹くんが止めに入る。
「落ち着け蒼衣。すずめがどうすればいいかわからなくなってる」
その言葉で、蒼衣ちゃんの上がった肩がゆっくりと戻る。
しばらく無言だったが、結局蒼衣ちゃんはちらっとわたしの方を見て、ため息をつく。
そして、中央に置かれた2枚の座布団のうち奥の方に座ると、わたしに手前の座布団に座るように言ってきた。
「とにかく、勝負しましょうすずめ。ルールはシンプル。互いに問題を3つずつ出し合い、より多く答えられた方の勝ち」
「同点だったら?」
わたしが聞くと、蒼衣ちゃんは難しい顔をする。
「そうね、悔しいけど引き分けかしら」
「あら、それで良いの蒼衣?」
虎子ちゃんは部屋の隅に積まれた座布団から勝手に1枚引き抜いて、わたしと蒼衣ちゃんを横から見ることのできる真ん中に座る。
「同点の場合は、わたしが勝敗を判断するというのは?」
「何よそれ! あんた、絶対すずめのひいきする気でしょ!」
「いや、虎子はそんなことしない。それはすずめに対して、というより勝負に対して失礼だ」
虎子ちゃんの後ろに座った隼くんが言う。
「良いんじゃないか。他に良さそうな手もないし」
その隣に座った鷹くんも同意する。
「2人の言う通りよ。隼や鷹はすずめの身内だもの。この中で最も公平な審判ができるのはわたし。そして白井家の人間として、というか海老川の人間として、謎解き勝負に私情を持ち込むことはしない」
「…………わかったわよ」
蒼衣ちゃんがようやく言葉を絞り出すと、虎子ちゃんはにっこりとほほえんだ。
「すずめさんは、いいかしら」
「はい」
虎子ちゃんの顔は笑っていたけど、わたしに向ける視線は笑ってなかった。
「じゃあすずめ、先攻はあたしよ。ウミガメのスープ、って知ってる?」
「えっと確か、質問して真相を当てるゲーム、みたいな?」
「そうよ。これからあたしが説明する状況に対して、すずめがその理由を当てることができたらすずめの勝ち。そして理由を当てるために、すずめは『はい』か『いいえ』で答えられる質問だけが許されている」
つまり、例えば『〇〇がありましたか?』みたいな質問はOKだけど、『何がありますか?』『どうしてこうなのですか?』みたいな質問はダメ、ということだ。
「そして、すずめができる質問は10回。ただしここでは、答えることも質問1回とカウントする。その10回の間にすずめが正解できたらすずめの勝ち、正解できなかったらあたしの勝ち」
10回の質問。それで本当に答えにたどりつけるのだろうか?
「あと、間違った答えをしてもその場で負けにはならないわ。質問回数が減るだけ。どう?」
「わかったわ」
わたしは心のなかで深呼吸する。
今更いろいろ言っても始まらない。ここまで来たら、逃げられないのだ。
「じゃあさっそく問題。『ある男は、お店にいろんな種類の寿司が並んでいるのを見て美味しそうだ、迷ってしまうとしきりにつぶやいていた。最終的に男はまぐろ、いくらを注文したが、食べることなく店を出ていってしまった』……さて、どうして?」
途中の廊下には高価そうな壺や掛け軸が飾ってあったりするのが、赤崎家との決定的な違いだ。
そしてこの広い部屋の壁にかかっているのは、額に入れられた……手紙?
博物館に展示されてそうな、横に長くて古い紙に、筆と墨で文字のような何かが書かれている。
「ふっふっふっ、それは『ふじの書状』よ。あたしのご先祖様が江戸時代の初めからすごかったことがわかるお宝!」
わたしが聞く前に、目を輝かせて話し出す蒼衣ちゃん。
「それにこの中には、あたしのご先祖様がすでにお客に対して謎かけを出していたことが書かれているのよ!」
「龍沢家はこれを理由に、『海老川で初めて謎解きのサービスを始めたのは自分たち、だから海老川の人は自分たちに感謝しなさい』って言ってるんだ」
隼くんが小声でそっと補足してくれる。
わたしが見ても、何が書かれているかまるでわからないけど、専門の人にはわかるのだろう。
「全く、本物かどうかもわからないものをこんなに堂々と飾るなんて」
一方、虎子ちゃんはあきれているようだ。
確かに、白井家も自分たちが最初に謎解きのサービスを始めたと主張しているなら、これの存在は否定したいところである。
「前も虎子には言ったよね? ここに飾ってるのは確かにレプリカだけど、本物はちゃんと蔵に保管してるんだから。それに偉い大学の先生、みたいな人がちゃんと本物だって言ってるの」
「どうかしら。その先生とやらも龍沢家と付き合いがある人でしょう? 都合の良いことを言わせてない?」
「そんなわけないでしょ!」
声を上げて虎子ちゃんに迫る蒼衣ちゃん。それを慌てて鷹くんが止めに入る。
「落ち着け蒼衣。すずめがどうすればいいかわからなくなってる」
その言葉で、蒼衣ちゃんの上がった肩がゆっくりと戻る。
しばらく無言だったが、結局蒼衣ちゃんはちらっとわたしの方を見て、ため息をつく。
そして、中央に置かれた2枚の座布団のうち奥の方に座ると、わたしに手前の座布団に座るように言ってきた。
「とにかく、勝負しましょうすずめ。ルールはシンプル。互いに問題を3つずつ出し合い、より多く答えられた方の勝ち」
「同点だったら?」
わたしが聞くと、蒼衣ちゃんは難しい顔をする。
「そうね、悔しいけど引き分けかしら」
「あら、それで良いの蒼衣?」
虎子ちゃんは部屋の隅に積まれた座布団から勝手に1枚引き抜いて、わたしと蒼衣ちゃんを横から見ることのできる真ん中に座る。
「同点の場合は、わたしが勝敗を判断するというのは?」
「何よそれ! あんた、絶対すずめのひいきする気でしょ!」
「いや、虎子はそんなことしない。それはすずめに対して、というより勝負に対して失礼だ」
虎子ちゃんの後ろに座った隼くんが言う。
「良いんじゃないか。他に良さそうな手もないし」
その隣に座った鷹くんも同意する。
「2人の言う通りよ。隼や鷹はすずめの身内だもの。この中で最も公平な審判ができるのはわたし。そして白井家の人間として、というか海老川の人間として、謎解き勝負に私情を持ち込むことはしない」
「…………わかったわよ」
蒼衣ちゃんがようやく言葉を絞り出すと、虎子ちゃんはにっこりとほほえんだ。
「すずめさんは、いいかしら」
「はい」
虎子ちゃんの顔は笑っていたけど、わたしに向ける視線は笑ってなかった。
「じゃあすずめ、先攻はあたしよ。ウミガメのスープ、って知ってる?」
「えっと確か、質問して真相を当てるゲーム、みたいな?」
「そうよ。これからあたしが説明する状況に対して、すずめがその理由を当てることができたらすずめの勝ち。そして理由を当てるために、すずめは『はい』か『いいえ』で答えられる質問だけが許されている」
つまり、例えば『〇〇がありましたか?』みたいな質問はOKだけど、『何がありますか?』『どうしてこうなのですか?』みたいな質問はダメ、ということだ。
「そして、すずめができる質問は10回。ただしここでは、答えることも質問1回とカウントする。その10回の間にすずめが正解できたらすずめの勝ち、正解できなかったらあたしの勝ち」
10回の質問。それで本当に答えにたどりつけるのだろうか?
「あと、間違った答えをしてもその場で負けにはならないわ。質問回数が減るだけ。どう?」
「わかったわ」
わたしは心のなかで深呼吸する。
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