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Q2.謎解きの街の新学期
どうせやるしかないのなら
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「すずめは決して、赤崎家の当主に決まったわけではない。だから必要以上に、すずめに敵意を向けたりしないで欲しい」
「それは無理よ、すずめさんが赤崎家の人間である限りは。というより、すずめさんは当主候補だって、隼も言ってたわよね?」
「だからって、すずめをどうにかするつもりなのか」
「隼、言っとくけど、あなたのことだって完全には信用してないのよ。あなたは使えると思ったからわたしと一緒にいることを許しているけど、そうじゃなかったら敵。あの向こうにいるすぐ怒るのと何も変わらない」
そう言って、虎子ちゃんは蒼衣ちゃん、の後ろにいる鷹くんを指差す。
「おい、俺をそんな危ないやつみたいに言うなよ」
「いや言っとくけど、鷹はそういうところあるからな。元気ってことでは許されないこともあるぞ」
「なんだよ隼まで」
嫌々ながらも自覚はあるのかもしれないと、鷹くんのふてくされた顔を見て思う。
1週間一緒に過ごしてみて、熱くなりがちな鷹くんと落ち着いてる隼くん、という構図がわたしにもわかってきた。
「まあ、でも隼の言ってるとおりだ。すずめは当主に決まったわけじゃないから、色々言いすぎるのはやめて欲しい」
「何よそれ。当主じゃなくても、そのうち当主になるかもしれないんでしょ? すずめ、あなたを試させてもらうわよ」
鷹くんも隼くん同様わたしのことを気づかってくれた。が、蒼衣ちゃんはそれを聞く気がないらしい。
その蒼衣ちゃんがわたしの机の上に叩きつけた紙を見て、何と反応していいかわからなかった。
「――果たし状?」
***
数日後の土曜日。
「これ、向こうの角までずっと龍沢家、なの?」
「そうだ」
鷹くんの言葉を聞いて、わたしは改めて目の前の建物を見上げる。
日本の大きなお屋敷というイメージそのままの、木造の和風建築。
建物も庭も赤崎家より何倍も広いお屋敷が、龍沢家であり、わたしが招かれた場所だった。
「果たし状?」
「ええ。今度の土曜日、龍沢家に来なさい。すずめ、覚悟しておくことね」
わたしの机の上に紙を叩きつけてそれだけ言うと、蒼衣ちゃんは教室を出ていってしまった。ちなみに蒼衣ちゃんは2組らしい。
わたしがその紙に視線を落とすと、ボールペンで大きく『果たし状』と書かれていて、その下には小さく日付と時間が書かれている、それだけ。
「ねえ、果たし状って」
「それは当然、謎解きですずめさんに挑戦しようと言うのでしょう。今そんなことをして、何になるのやら」
ため息をついて、虎子ちゃんも教室を出ていった。なお、虎子ちゃんは3組だそうだ。
「全く、初日から面倒なことになっちゃったな、すずめ」
「あの、隼くん」
「申し訳ないが、すずめに拒否権はないぞ」
わたしの言葉を先回りして隼くんが答える。
「多分、龍沢家は俺らが何を言ってもすずめを連れてこようとするだろう。それに、考えようによってはこれはチャンスでもある」
チャンス?
「すずめの実力を龍沢家に見せてやるんだよ。赤崎家にすずめあり、ってな」
――というわけで、わたし、鷹くん、隼くんは龍沢家の前に来てしまったのだ。
龍沢家の次期当主である蒼衣ちゃんと謎解きで勝負をする。それはそのまま、龍沢家と赤崎家の家同士の戦いでもある。
って、そんなの嫌だよ。わたしは目立ちたくない、頑張りたくないんだ。
もし何かあって、わたしの両親のときみたいになったら。どうしてもその可能性を考えてしまう。
でも。
「すずめ、やっぱり嫌か?」
隼くんがわたしの顔を少しのぞき込んでくる。
「本当に嫌なら、俺が代理で勝負しても良い」
「ううん、大丈夫」
嫌だけど、断ることはできないのだ。
何しろ蒼衣ちゃんは、クラスのみんなが聞いているところでわたしに果たし状なんてものを叩きつけてきた。つまり、これを無かったことにはできない。
そして、それでもわたしがむりやりにでも無かったことにしようとしたなら――つまり、蒼衣ちゃんの誘いに応じず逃げたなら、『赤崎家の人間はそういうものだ』というイメージを持たれてしまう。
というのは鷹くんと隼くんが言っていたことだけど、確かにわかる。
残念ながら、今のわたしがいるのはそういう立場なのだ。
――と考えた時に、である。どうせやるしかないのなら。
「行こう。蒼衣ちゃんが待ってる」
わたしが声を上げると、両脇から反応がきた。
「すずめ?」
「すずめ、笑ってる……?」
2人にはそう見えたのだろうか。
とにかく、いったい蒼衣ちゃんがどんな謎を用意してるのか、楽しみになってるわたしがいたのだ。
「よく来たわね、すずめ。逃げ出しても良かったのよ?」
屋敷の玄関を開けて、蒼衣ちゃんはそう言い放った。
学校で見たときと同じツインテール姿で、少し上から見下される。
「でも……逃げるわけにはいかない」
「その割には、なんだか弱々しそうね」
「なんだと! うちのすずめはちゃんと来たんだぞ!」
鷹くんがすぐさま声を上げ、蒼衣ちゃんをにらみつける。
学校でも2人でいる時間があるのに、仲が良いわけではないのだろうか?
「そうね。まずはその勇気をたたえても良いんじゃなくて、蒼衣?」
その途端後ろから声が聞こえて、思わずわたしは振り向く。
「何しに来てんのよあんた。ここは龍沢家の敷地よ」
「あら、わたしもすずめさんの実力を見たくなったのだけど、だめ?」
虎子ちゃんが、庭の入口に立っていた。長くてきれいな黒髪を風になびかせながら。
「だめに決まってるじゃないの。誰に断って白井家の人間がここに入るつもり?」
「じゃあ、わたしはすずめさんの付き添いということにするわね。すずめさん、よろしくて?」
「え、ええ」
急に話を振られたわたしが言葉にならない返事を上げると、虎子ちゃんがさっとわたしに近づいて、耳元でささやいた。
「あなた良い顔じゃないの、気に入ったわ。後で、わたしとも勝負してくれないかしら?」
その虎子ちゃんの提案は、どう答えれば良かったのだろうか。
一瞬では考えが及ばなかったけど、わたしは結局、こう返事した。
「わかった。虎子ちゃんも来て」
そこには、謎解き勝負に対する不安の想いがあったのか。
はたまた、面白くなりそうという予感がしたからなのか……
きっと、その両方だ。
「それは無理よ、すずめさんが赤崎家の人間である限りは。というより、すずめさんは当主候補だって、隼も言ってたわよね?」
「だからって、すずめをどうにかするつもりなのか」
「隼、言っとくけど、あなたのことだって完全には信用してないのよ。あなたは使えると思ったからわたしと一緒にいることを許しているけど、そうじゃなかったら敵。あの向こうにいるすぐ怒るのと何も変わらない」
そう言って、虎子ちゃんは蒼衣ちゃん、の後ろにいる鷹くんを指差す。
「おい、俺をそんな危ないやつみたいに言うなよ」
「いや言っとくけど、鷹はそういうところあるからな。元気ってことでは許されないこともあるぞ」
「なんだよ隼まで」
嫌々ながらも自覚はあるのかもしれないと、鷹くんのふてくされた顔を見て思う。
1週間一緒に過ごしてみて、熱くなりがちな鷹くんと落ち着いてる隼くん、という構図がわたしにもわかってきた。
「まあ、でも隼の言ってるとおりだ。すずめは当主に決まったわけじゃないから、色々言いすぎるのはやめて欲しい」
「何よそれ。当主じゃなくても、そのうち当主になるかもしれないんでしょ? すずめ、あなたを試させてもらうわよ」
鷹くんも隼くん同様わたしのことを気づかってくれた。が、蒼衣ちゃんはそれを聞く気がないらしい。
その蒼衣ちゃんがわたしの机の上に叩きつけた紙を見て、何と反応していいかわからなかった。
「――果たし状?」
***
数日後の土曜日。
「これ、向こうの角までずっと龍沢家、なの?」
「そうだ」
鷹くんの言葉を聞いて、わたしは改めて目の前の建物を見上げる。
日本の大きなお屋敷というイメージそのままの、木造の和風建築。
建物も庭も赤崎家より何倍も広いお屋敷が、龍沢家であり、わたしが招かれた場所だった。
「果たし状?」
「ええ。今度の土曜日、龍沢家に来なさい。すずめ、覚悟しておくことね」
わたしの机の上に紙を叩きつけてそれだけ言うと、蒼衣ちゃんは教室を出ていってしまった。ちなみに蒼衣ちゃんは2組らしい。
わたしがその紙に視線を落とすと、ボールペンで大きく『果たし状』と書かれていて、その下には小さく日付と時間が書かれている、それだけ。
「ねえ、果たし状って」
「それは当然、謎解きですずめさんに挑戦しようと言うのでしょう。今そんなことをして、何になるのやら」
ため息をついて、虎子ちゃんも教室を出ていった。なお、虎子ちゃんは3組だそうだ。
「全く、初日から面倒なことになっちゃったな、すずめ」
「あの、隼くん」
「申し訳ないが、すずめに拒否権はないぞ」
わたしの言葉を先回りして隼くんが答える。
「多分、龍沢家は俺らが何を言ってもすずめを連れてこようとするだろう。それに、考えようによってはこれはチャンスでもある」
チャンス?
「すずめの実力を龍沢家に見せてやるんだよ。赤崎家にすずめあり、ってな」
――というわけで、わたし、鷹くん、隼くんは龍沢家の前に来てしまったのだ。
龍沢家の次期当主である蒼衣ちゃんと謎解きで勝負をする。それはそのまま、龍沢家と赤崎家の家同士の戦いでもある。
って、そんなの嫌だよ。わたしは目立ちたくない、頑張りたくないんだ。
もし何かあって、わたしの両親のときみたいになったら。どうしてもその可能性を考えてしまう。
でも。
「すずめ、やっぱり嫌か?」
隼くんがわたしの顔を少しのぞき込んでくる。
「本当に嫌なら、俺が代理で勝負しても良い」
「ううん、大丈夫」
嫌だけど、断ることはできないのだ。
何しろ蒼衣ちゃんは、クラスのみんなが聞いているところでわたしに果たし状なんてものを叩きつけてきた。つまり、これを無かったことにはできない。
そして、それでもわたしがむりやりにでも無かったことにしようとしたなら――つまり、蒼衣ちゃんの誘いに応じず逃げたなら、『赤崎家の人間はそういうものだ』というイメージを持たれてしまう。
というのは鷹くんと隼くんが言っていたことだけど、確かにわかる。
残念ながら、今のわたしがいるのはそういう立場なのだ。
――と考えた時に、である。どうせやるしかないのなら。
「行こう。蒼衣ちゃんが待ってる」
わたしが声を上げると、両脇から反応がきた。
「すずめ?」
「すずめ、笑ってる……?」
2人にはそう見えたのだろうか。
とにかく、いったい蒼衣ちゃんがどんな謎を用意してるのか、楽しみになってるわたしがいたのだ。
「よく来たわね、すずめ。逃げ出しても良かったのよ?」
屋敷の玄関を開けて、蒼衣ちゃんはそう言い放った。
学校で見たときと同じツインテール姿で、少し上から見下される。
「でも……逃げるわけにはいかない」
「その割には、なんだか弱々しそうね」
「なんだと! うちのすずめはちゃんと来たんだぞ!」
鷹くんがすぐさま声を上げ、蒼衣ちゃんをにらみつける。
学校でも2人でいる時間があるのに、仲が良いわけではないのだろうか?
「そうね。まずはその勇気をたたえても良いんじゃなくて、蒼衣?」
その途端後ろから声が聞こえて、思わずわたしは振り向く。
「何しに来てんのよあんた。ここは龍沢家の敷地よ」
「あら、わたしもすずめさんの実力を見たくなったのだけど、だめ?」
虎子ちゃんが、庭の入口に立っていた。長くてきれいな黒髪を風になびかせながら。
「だめに決まってるじゃないの。誰に断って白井家の人間がここに入るつもり?」
「じゃあ、わたしはすずめさんの付き添いということにするわね。すずめさん、よろしくて?」
「え、ええ」
急に話を振られたわたしが言葉にならない返事を上げると、虎子ちゃんがさっとわたしに近づいて、耳元でささやいた。
「あなた良い顔じゃないの、気に入ったわ。後で、わたしとも勝負してくれないかしら?」
その虎子ちゃんの提案は、どう答えれば良かったのだろうか。
一瞬では考えが及ばなかったけど、わたしは結局、こう返事した。
「わかった。虎子ちゃんも来て」
そこには、謎解き勝負に対する不安の想いがあったのか。
はたまた、面白くなりそうという予感がしたからなのか……
きっと、その両方だ。
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