パズル・ウォーズ 〜謎解きの街で、ご当主様始めます!?〜

しぎ

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Q2.謎解きの街の新学期

本気の二人

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 ――虎子ちゃんが出題した途端、蒼衣ちゃんの顔つきが変わった。
 さっきまでの言い争いが嘘のように、腕を組み考えこんでいる。

 その光景に、わたしが海老川に来た日を思い出した。
 わたしが出した問題を真剣に考えていたあのときの鷹くんが、今の目の前の蒼衣ちゃんにダブって見える。

 謎を出題されるとこうなるのは、海老川の人みんなに共通することなのかもしれない。

 
「すずめさん、わかります?」
 そんな声がして、わたしは視線を虎子ちゃんに向ける。
 余裕たっぷりの表情。あなたには解けるのか、という声が聞こえているかのよう。

 わたしは問題の状況を整理する。いわゆる川渡りパズルと言われるやつだ。

 懐中電灯を投げたりはできないのだから、吊り橋のあちらとこちらで往復してやり取りするしかない。
 2人で吊り橋を渡り、懐中電灯を返すために1人で帰ってくる。
 これを繰り返して4人全員が渡ることを目指す。
 そのうえで、どういう組み合わせで渡れば一番速く全員が渡れるか、を考えれば良い。


 ただやはり、帰ってくる時間をいかに短くするかがポイントだろう。

 とすると、一番速いAさんに帰りは任せることになるのか……?

 
「何だよ隼、さっきからニヤニヤしやがって」
「いやあ、鷹にこれが解けるのかなあって」
 わたしが考えている間に、ずっと虎子ちゃんの後ろに立っていた隼くんが口を出してきた。
 
 確か、鷹くんが龍沢家に出入りしているのと同様に、隼くんは白井家に出入りしている。理由は『虎子ちゃんに誘われたから』とかなんとか言ってたっけ。

「そうね、蒼衣たちにはこの問題は難しいでしょうね。地道に答えを探すの、あの子は苦手そうですもの」
「そんなことないわよ? 虎子みたいに理屈こねるのが嫌いなだけ。ちまちまやるのは嫌だけど、できないわけじゃない。ね、鷹?」
「え、ああ。だから隼、俺だってこの問題は解けるぞ」
「はあ、良いけどお前、すずめの前でそんな意地張るなって」

 そう言いかけた隼くんとわたしの視線が合う。

「え、ああ、わたしは」
 蒼衣ちゃんと虎子ちゃんの対立は、鷹くん隼くんから聞いていた。だからある程度はわかっていたけれども、やっぱり実際に目にするとびっくりしてしまう。
 
 どちらも、とても強気だ。
 わたしとは、まるで逆。


「大丈夫だから。それより、さっきの問題だけど」

 このままだと本当にケンカになりそうなので、話題を戻す。

「答えは、16分?」
 帰りをすべてAさんに任せると、こうなる。

 AさんとBさんで行く(2分)
 Aさんが戻る(1分)
 AさんとCさんで行く(4分)
 Aさんが戻る(1分)
 AさんとDさんで行く(8分)
 合計、16分。

 適当に組み合わせるよりは、効率いいと思うのだが。

 
「残念。引っかかりましたね、すずめさん」
 しかし、虎子ちゃんは待っていたかのようにそう言った。

「――そうよね。虎子がそんな単純な問題を出すはずがない」
 そして蒼衣ちゃんがつぶやく。

 蒼衣ちゃんもここまでは行き着いてるんだ。そしてその上で、より良い答えを探している。

 会ってすぐのわたしでもわかる。
 蒼衣ちゃんも虎子ちゃんも、真剣だ。


「どうしたんです、すずめさん。わたしの方をじろじろと」
「えっ、ああ、虎子ちゃんいきなりこんな問題出せるなんて、すごいなって……」

 知らず知らずのうちに、わたしの視線は虎子ちゃんを向いていたらしい。
 なんと言葉を返せばいいかわからなくなる。

「あら、ありがとう。でもすずめさんも、これぐらいできるんじゃなくて? 隼から話は聞いてるわよ」
「わたしはそんな……だって今の問題もまだ解けてないし」

 そう、16分というわたしの答えはあっさりと却下された。
 つまり15分以下でなんとかする方法があるということになるが、見つからない。

 と、思っていたら。


「わかったわ! 15分でいける!」
 唐突に、蒼衣ちゃんの声がした。

「本当か!」
 驚く鷹くん、と。

「あら、どうやったの? ちゃんと説明してご覧なさいな」
 右手で蒼衣ちゃんをあおるように指差す虎子ちゃん。

「余裕でいられるのも今のうちよ、虎子」
 勝ち誇った顔で、蒼衣ちゃんは説明を始めた。
 その手順をまとめると、こういうことだった。

 AさんとBさんで行く(2分)
 Aさんが戻る(1分)
 CさんとDさんで行く(8分)
 Bさんが戻る(2分)
 AさんとBさんで行く(2分)
 合計、15分。

「どう?」
「正解。やるわね蒼衣」

 ため息をつく虎子ちゃん。悔しいような、笑ってるような、変な顔をしている。

「まあね。遅い人同士を組ませればいいだけの簡単な話だし」
 なるほど。言われてみれば、蒼衣ちゃんの言うとおりだ。

 AさんとDさんで移動しても、CさんとDさんで移動しても、かかる時間は同じ8分。
 ならCさんとDさんが組んで、遅い人はまとめて行ったほうが良いに決まっている。
 かといって帰りもCさんにお願いするのではまた4分かかっちゃうから、AさんかBさんを先に行かせて帰り担当にするというわけだ。

 2人とも、すごい。
 16分というわたしの答えを想定していたかのようにすぐ否定した虎子ちゃんも。
 その上を行って、15分の正解手順をあっさり導いた蒼衣ちゃんも。

 これが、2人の本気なんだ。



「どう、すずめ? これでまた、龍沢家が一番だという証明になったわね」
「だからどうしてすぐそうなるのよ。あなたのそういうところ、本当によくわからないわ」
 わたしを見下ろす蒼衣ちゃん。あきれた表情の虎子ちゃん。
 鮮やかな謎解きの直後にこんな言い合いをする2人を前に、わたしはどういう顔をすればいいのだろうか。

 ――しかし、対立している龍沢家と白井家の次期当主である一人娘が同じ学校で同学年というのも、なかなかの偶然だ。きっとこの2人はわたしが海老川に来るよりもずっと前から、こうやって言い争っていたのだろう。
 ちなみに、『海老川四家』の残る1つである亀倉家の一人息子も同い年、この学校の5年生だと、鷹くん隼くんから聞いている。わたしも含めると、4つの家の関係者がみんな同じ学年にいるということだ。

 運命のいたずらにしては、やりすぎではないだろうか……


「ねえすずめさん、こんなお金だけの家の人間の言葉なんて信じないでくださいな。もっとも、すずめさんが赤崎家を一番だと言い出すなら、また話は変わってきますが」
「すずめ、こんなやつの言葉を信じるぐらいなら、あたしの方が良いわよ。まあ、別にあんたを信用してるわけじゃないけど」
 わたしが色々と思い巡らせている間にも、蒼衣ちゃんと虎子ちゃんの言葉のぶつけ合いは続いている。
 
 ってあれ、いつの間にわたしが言葉を求められてる流れになってる?

 
「虎子、あまりすずめに色々言わないでくれ。すずめはまだいまいち飲み込めてないこともあるんだ。海老川に来て1週間だしな」
 助け舟をだしてくれたのは、ずっと虎子ちゃんの後ろに立っていた隼くんだった。

「それもそうね。隼、ちなみにすずめさんには何を説明したの?」
「一応、海老川の街についてとか、龍沢家や白井家の話は一通りした。で、これは前も言ったとは思うが」

 隼くんは、ため息をつきながら虎子ちゃんに話しかける。
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