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Q2.謎解きの街の新学期
当主の娘
しおりを挟む「ねえ、すずめちゃんって呼んでいいかな?」
「鷹くんや隼くんとはどういう関係なの?」
クラスで転校生として紹介されたわたしは予想通り、始業式が終わると他の子に取り囲まれる。
「えっと、待って、順番に聞くから。わたしのことは、別になんと呼んでくれてもいいけど……」
いきなり囲まれるというのは、あまりいい気分ではない。
せめて鷹くんや隼くんがいれば、と思ったが別のクラスになってしまった。
わたしは1組、鷹くんは4組、隼くんは5組。
「あ、聞いたよ? すずめちゃんって、赤崎家の新しい当主様になるんでしょ」
「でも、すずめちゃんって海老川の外から来たんだよね? 海老川のことって知ってたの?」
やっぱり、そういう質問も飛んでくるのか。
「ううん、わたしそういうの全然知らなくて。鷹くんや隼くんはいとこなんだけど、それも海老川に来て初めて知ったことなの」
「いとこ? もしかして一緒に住んでるの?」
「そうだけど……」
「いいなー」
女子たちからうらやましそうな声が飛ぶ。そういえばと思って、わたしから聞いてみた。
「鷹くんや隼くんって、学校ではどんな感じなの?」
その途端、女子たちの顔がぱっと変わる。
「それはもうかっこいいし」
「あと優しいよねー」
思った通りだ。
鷹くん隼くんは、学校ではイケメン兄弟として通っているのだろう。
やや対照的なところもある2人だから、どちらが好みかとかそういう話もありそうだ。
「ねえねえすずめちゃん、鷹くんや隼くんのことももっと教えてよ」
「あたしも。そうだ、メッセージ交換しよ?」
どうやら、赤崎という名字を持って、鷹くん隼くんと一緒に暮らしている時点で、目立たなくやっていくのは相当難しい、らしい。
――しかし、わたしが赤崎家の当主として見られていることを本当に実感するのは、その日の学校が終わった昼前だった。
「赤崎 すずめ! あなたが赤崎家の新しい当主ね!」
その声に、わたしの周りに集まっていた女子たちがぱっと道を空けるように移動する。
おかげで、声を上げた彼女の姿がわたしからもはっきり見えた。
茶髪混じりのツインテールを揺らし、両手を腰に当てて胸を張りわたしを見下ろす。
大きな瞳で厳しくこっちをにらむが、怒ってるというよりは何か自分を誇っているような、そんな感じ。
「そうだけど。――あなた、蒼衣ちゃん?」
わたしは名前を挙げる。だって、あまりにも鷹くんや隼くんから聞いてた特徴通りの見た目だったから。
同い年だということは知っていた。いつ絡んで来るかなと思ったけど、初日から早速だった。
「ええそうよ、あたしは龍沢 蒼衣。海老川の今を作った最初の家である由緒正しい龍沢家の次期当主、ってちょっとあんたなんで知ってるのよ。海老川に来たばかりなんでしょ?」
蒼衣ちゃんは並んだ机越しに、右手で真っ直ぐわたしを指差す。初めて会う人に対して、鷹くんとかとは別のなれなれしさがある。
蒼衣ちゃんはその名の通り、『海老川四家』の1つである龍沢家の現当主の一人娘。
龍沢家は今でも結構なお金持ちで、蒼衣ちゃんもとても大きな家に住んでいる、というのは鷹くんから聞いているが、実際に会うのはもちろん初めてだ。
そう考えると着ている服もなんだか高そうに見えてくる。わたしと変わらない普通のワンピースっぽいけど。
「なんでって、ええと」
「あっ、さては鷹から聞いたのね。ちょっと何勝手に話してるのよ」
「いや、すずめにだって海老川の説明しなきゃだし、これぐらいは良いだろ」
蒼衣ちゃんの後ろからひょいと鷹くんが現れる。
「まあいいわ。それより、ちゃんと言ったんでしょうね? 龍沢家は海老川で一番の家だって」
「それはさすがに適当なこと過ぎて言えねえよ」
「ちょっと! 龍沢家に代々伝わるご先祖様の日記に書いてあるのよ! それをうそだというつもりなの?」
蒼衣ちゃんの声が大きくなる。蒼衣ちゃんと鷹くんの身長は同じぐらいだ。
ちなみに鷹くんは普段、龍沢家にしょっちゅう出入りしているんだとか(鷹くん自身は赤崎家のためのスパイ活動だとか言ってるが、隼くんに言わせると鷹くんの謎解き力を上げるための訓練らしい)。
だからなのか蒼衣ちゃんも怒ってるという感じじゃないし、鷹くんも軽い調子である。
「別にうそだなんて言ってねえよ。というかうそじゃなくてもさ、例えばほら、龍沢家じゃない人が勝手に適当なこと書いたとか」
「そんなことありえないんだから! それって日記が偽物だってことでしょ、専門の人のお墨付きまでもらったあの日記がそんなわけない!」
鷹くんの言葉に対して、どんどん意地を張っていく蒼衣ちゃん。
やっぱりちょっと怒ってるんじゃないか、とわたしが思ったその時。
「あら蒼衣、前も言ったじゃない、そのお墨付きだってわたしたちに言わせたら怪しいものなのよ。日記が本物だって証拠はどこにもない。そんな妄想めいたことを言ったら、赤崎家の新当主さんに失礼じゃないの」
新たな声が教室に響いて、わたしは振り向く。
蒼衣ちゃんも鷹くんも、周りの子も注目をそこに集中させる。
「初めまして。わたしは白井 虎子。海老川で一番の伝統がある白井家の次期当主よ。あ、わたしのことももう聞いているのかしら」
日本人形のような長い黒髪。小さな身長に、目を細めて不敵に笑う彼女。落ち着いた色合いの長いスカート。
やっぱりこっちも、あまりにも聞いていた特徴通りだった。
こちらも『海老川四家』の1つ、白井家の現当主の一人娘であり、わたしや蒼衣ちゃんとは同学年の虎子ちゃん。
白井家はなんでも江戸時代の初め、海老川で最初に宿屋を始めた家らしい。
今でこそ龍沢家のような大金持ちではないが、それでも海老川に与える白井家の影響は大きい、と隼くんは言っていた。
「すずめさん、これからよろしくお願いしますね。お互い、この海老川のために頑張りましょう」
「ふん。すずめ、こいつの言うことなんかまともに聞いちゃだめよ。本当に何考えてるかわからんやつなんだから」
「あら、それぐらいじゃないと当主なんてものはつとまらないの。蒼衣、あなたはものを主張することに向いてないわ」
「それはこっちのセリフね。何もない白井家が、海老川の一番なんておかしいわ」
「それは話が別でしょう。全く論理のつながってない話してるの、わかってる?」
蒼衣ちゃんと虎子ちゃんは言い争いながら近寄って、いつの間にかわたしの机の目の前に近づく。
とはいえ、虎子ちゃんは座ってるわたしから見てもわかるぐらい背が低い。女子にしては身長の高い蒼衣ちゃんと並ぶと、頭1つ分以上の差がある。
それに、2人とも顔かわいいな……
「そうだ蒼衣、論理ついでにわたしから1問出してあげるわ。春休みの間会えなかった分、たっぷり悔しがってもらうわよ」
「やってやろうじゃないの。まあ、悔しがるのは虎子の方だけどね」
「相変わらずの自信ねあなた。――じゃあいくわよ」
でも、この2人のやり取りで思い出す。
海老川は謎解きの街。そして2人は、『海老川四家』の娘。
わたしが鷹くん隼くんと初めて会った日のように、流れるように出題が始まる。
「夜にきもだめしをしていた4人の子どもが、崖にかかった吊り橋を渡ることになりました。吊り橋には体重制限があり、一度に2人までしか吊り橋を渡ることはできません。また、子どもたちは1本しかない懐中電灯を全員で使っていますが、懐中電灯なしに吊り橋を渡るのは暗くてできません。2人で渡る場合は、1人が懐中電灯を持って手を繋いで渡ることになるので、渡るのにより時間がかかる人の方に合わせる必要があります」
つまり、1本の懐中電灯を、吊り橋のこちら側と向こう側でやり取りしながら、4人全員が吊り橋をわたりきらなければいけないということだ。
「1人で吊り橋を渡るのにかかる時間は、Aさんが1分、Bさんが2分、Cさんが4分、Dさんが8分です。さて、4人全員が吊り橋を渡るのに、最短で何分必要でしょうか? ただし、懐中電灯を投げ渡すなどはできません」
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