22 / 26
Q3.謎解きの街の大事件
間違えられない暗号メッセージ
しおりを挟む「こういうこと、なのかな」
「わかったのかすずめ?」
「すごいなすずめ!」
わたしがつぶやいたら、鷹くんと隼くんがささっと寄ってきた。
「待って。これは、あくまで可能性の1つ」
そうなのだ。一応、意味の通りそうな文章にできた、というだけ。矛盾が無い、というだけ。
この考えが合っている、という確信があるわけでもない。
もしこれが、見当違いだったとしたら。
変なことを言って、また蒼衣ちゃんに迷惑を……
「可能性だとしても、言ってみてください」
「虎子ちゃん?」
気づくとわたしの横には、厳しい顔をした虎子ちゃんが立っていた。
「今は一刻を争う事態です。もしすずめさんの考えが合っていたらそれに越したことはないし、そうじゃなくてもそれが手がかりになることだってある」
「…………」
「すずめさん。昨日の自信はどこへ行ったのですか」
虎子ちゃんは、わたしの肩をぽんと叩いた。
わたしより虎子ちゃんの方が、背は低いはずなのに。
なんだか、虎子ちゃんの視線が上から見下ろすようで、わたしの方がたじろいでしまう。
「すずめさんには間違いなく能力があります。昨日も言いましたが、失うにはもったいなさすぎる。それに」
虎子ちゃんの鋭い視線。でも、昨日のように冷たくはない、ような。
「すずめさんが今、このタイミングで解けたからこそ、蒼衣を助けられるかもしれないのです」
わたしがここで解けたから、蒼衣ちゃんを助けられる……?
「なあ、すずめは、自分で思ってるよりも、ずっとすごいぞ」
「そうそう。すずめのおかげで、俺らは蒼衣を救えるかもしれないんだ」
そう言ってずいっとわたしに近づいてくる鷹くんの目は、輝いている。隼くんも、うんうんと首を縦に振る。
虎子ちゃんもわたしに顔を近づけ、語るように話しかける。
「そうね。すずめさんはまず、自分に自信を持ちなさい。蒼衣みたいに偉そうにしろとは言わないけれども、多分あなたは、昨日のテンションぐらいでちょうどいいわ。わたしも、昨日のあなたは見ていて気持ちよかった」
「虎子、それは蒼衣の負かされるところが快感だっただけなんじゃないのか」
「それもあるわね。けど、わたしはすずめさんを気に入りました。あなたは間違いなく、わたしの、蒼衣の、良い敵になる」
良い、敵?
「なるほど。ライバルってやつか」
その鷹くんの言葉に、虎子ちゃんの顔がびくっとなる。
「そんなものじゃないわ。あくまで敵よ。でも、敵が弱すぎるゲームって、つまらないじゃない?」
そう言って、また意味ありげに虎子ちゃんはわたしを見つめる。
今度はあの冷たい視線じゃない、どこか楽しいような。
「さあ、だからすずめさん、わからないわたしたちは、あなたの推理を聞きたいのです。蒼衣は、いったいわたしたちに何を伝えようとしたのか」
蒼衣ちゃんが言いたいこと。
それを今わたしが話すことで、蒼衣ちゃんを助けることにつながる……
「……わかった」
蒼衣ちゃんを助けるためだ。
今どうなっているかわからない蒼衣ちゃんを、なんとかする。
そのためには、ここでわたしが勇気を持たないといけない。
「これが合ってるかはわからないけど、説明する」
いつの間にかわたしたちの周りには、青海さんや龍沢家の使用人、警官の人たちが集まってきていた。
青海さんはまだ相当取り乱しているようだ。呼吸が荒く、何か求めるような目をわたしに向けてくる。
「本当は青海さんも、パズルや謎解きには強いんだ」
「そうなの?」
「少なくとも、蒼衣からのメッセージが暗号だと思って考えるぐらいのことはしそうなものだけど」
鷹くんが小声でわたしに話しかけてくる。
言われてみれば確かに、龍沢家の現当主が、そういう能力を全く持っていないとは、ちょっと考えづらい。
逆に言えば、そう考える余裕もないほど、青海さんは取り乱しているのだ。
それだけ蒼衣ちゃんのことを心配しているということである。
たとえその理由が、蒼衣ちゃんそのものの心配というより、龍沢家次期当主を心配するものであったとしても。
心配されて蒼衣ちゃんが悲しくなることは、きっとないはず。
「もしかして、蒼衣がどこにいるか、わかるの?」
その青海さんが、今にもわたしにつかみかからんとする勢いで聞いてくる。
「多分、ですが」
わたしは少し息を整える。冷静に、落ち着いて。
わたしはこれから、蒼衣ちゃんを救出するための行動をするんだ。
***
「蒼衣ちゃんは、わたしたちに『えてせりおひにさえ』というメッセージを残してくれた。一応確認しますけど、青海さんも心当たりのない言葉ですよね?」
「そうね」
青海さんの呼吸は、ずっと激しいまま。肩も上下に動いている。
それでいて、わたしを見つめる表情は、今日最初に会ったときと変わっていない。
「でも、いくら誘拐されて閉じ込められていた――普通の状態では無かったとはいえ、こんな意味不明な文字列を蒼衣ちゃんがわけもなく言うことなんてない。知り合ったばかりのわたしでも、想像はつく」
それに、昨日わたしと謎解き勝負したときの記憶が、残っていたら嬉しいのだけど。
「とすると、これは蒼衣ちゃんが、誘拐犯に気づかれず、わたしたちにだけ何か伝えようとしたのではないか。例えば、さらわれたときの様子とか、誘拐犯の人数や見た目とか。あるいは閉じ込められているところに窓があって、少し外の様子が見えるのかもしれない」
何にしろ、それは蒼衣ちゃんを助けるうえで、また誘拐犯を捕まえる上で大事な手がかりになるはずだ。
「そう考えると、『えてせりおひにさえ』という言葉を、何らかの形で意味のある言葉に直さないといけない。けどそれを、どうやってやるか」
暗号解読にあるいくつかのパターン。
たぬきの絵が描いてあったら『た』を抜く、みたいな文字の操作。
五十音順で文字をずらす変換。
あるいは、文字の並び替え。ひらがなとアルファベット、数字との変換。
それらの組み合わせ。
そのたくさんのパターンを片っ端から当てはめて確かめるには、今のわたしたちには時間がない。
でもそれは、蒼衣ちゃんだってわかってるはず。
特に今回は、昨日の謎解き勝負とはわけが違う。蒼衣ちゃんは、この暗号をわたしたちに解いてもらわなければいけないのだ。
そのためには、ヒントを出さないといけない。この暗号がどのパターンであるのかを。
10
あなたにおすすめの小説
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
この町ってなんなんだ!
朝山みどり
児童書・童話
山本航平は両親が仕事で海外へ行ってしまったので、義父の実家に預けられた。山間の古風な町、時代劇のセットのような家は航平はワクワクさせたが、航平はこの町の違和感の原因を探そうと調べ始める。
アドミラル・アリス ー勇気を出して空を飛んだ、小さな小さな仔猫の物語ー
二式大型七面鳥
児童書・童話
お腹をすかせた、初めて冬を迎える仔猫のアリスは、とっても大きな鳥を見かけます。
あの鳥をつかまえられたなら、きっとお腹がすく事はもうないだろう、アリスはそう思って追いかけます……
たまに、こういうのが書きたくなります。
ガラにもないですが。
場所とかは、一応モデルはありますが、無国籍の体です。
「大きな鳥」のモデルは、タウベ、というWW I 初期のヤツを想定してます。
なので、まあ、時代的、世界観的にそんな感じの、でも戦争はない世界を想定してます。
あと、勿論アリスは猫なんですが、普通の猫でもいいですが、イメージ的に「綿の国星」的なビジュアルで脳内補完していただけると色々捗ります、筆者的に。
楽しんでいただければ、幸いです。
※カクヨムさんと重複投稿です。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる