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謝罪のキス ③
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家の前に着くと、父と母が玄関から出てきた。杏依は実家暮らしなのだ。両親は怪訝な視線をこちらに向けて、そこに立っている。
「そうだ、これ」
白哉が何かを渡そうとしてきたので、杏依は反射的に手を出してしまった。
ころんと手の平に乗ったのは、先ほど投げられキャッチしてしまった、白哉の家の鍵だった。ピアノの上に、置いてきたはずなのに。
「いつでも弾きに来て構わない」
「いや、でも――」
慌てて返そうとしたのに、白哉は手を引っ込めた。
「持っててくれていい。別にあの家に取られて困るもんもねーし。俺しか住んでねーし、っつーか俺もほぼ病院にいるから」
白哉が言い終わる頃には、両親が車の前まで来ていた。
「杏依!」
母の声が聞こえた。高級車に乗せられ帰ってきた娘を、二人はどう思うのだろう。
白哉は先に車を降り、両親に一礼した。
「ご無沙汰しております」
「あなた、久我総合病院の――」
両親が目を見開いたから、杏依も慌てて車を降りた。
「杏依さんの手術を担当しました、久我上白哉です」
「お前、まさか娘に――」
父の眉がつり上がった。無理もない、杏依の目は泣きすぎて、赤く腫れあがっている。
「お父さん、違うの! 助けてもらっただけたから」
「……そうか」
『だけ』と言うのは少し違うが、杏依は嫌なことをされたわけじゃない。
白哉はもう一度一礼すると、車に戻り走り去ってしまった。
あ、返しそびれちゃった……。
杏依の手の中には、白哉の家の鍵が握られたままだった。
今日は土曜日。
スカっと晴れた夏の空とは反対に、檜垣家にはなんとも言えない空気が漂っていた。
昼食のパスタを家族で囲みながら、母が口を開く。
「白哉先生と、何があったの? 昨日はお友達と飲み会に行くって――」
「いろいろあって、助けてもらっただけ」
パスタを頬張りながら告げると、父が顔をしかめた。
「いろいろって何だよ」
「ちょっと幻肢痛が酷くなって。たまたま居合わせた白哉先生が、助けてくれたの。家で休ませてくれただけ」
「本当にそれだけか? もう昼過ぎだぞ」
「それだけだよ」
言えるわけがない。ピアノを弾かせてもらった、だなんて。ましてそれ以上のこと――。
「杏依、助けてもらったんでしょう。お礼、持っていきなさい」
「あー……、うん、そうだね」
正直、白哉にはもう会いたくない。けれど、大人として感謝を伝えるべきではある。それに、鍵も返さなくてはならない。
菓子折りでも渡しに行こう。
「そうだ、これ」
白哉が何かを渡そうとしてきたので、杏依は反射的に手を出してしまった。
ころんと手の平に乗ったのは、先ほど投げられキャッチしてしまった、白哉の家の鍵だった。ピアノの上に、置いてきたはずなのに。
「いつでも弾きに来て構わない」
「いや、でも――」
慌てて返そうとしたのに、白哉は手を引っ込めた。
「持っててくれていい。別にあの家に取られて困るもんもねーし。俺しか住んでねーし、っつーか俺もほぼ病院にいるから」
白哉が言い終わる頃には、両親が車の前まで来ていた。
「杏依!」
母の声が聞こえた。高級車に乗せられ帰ってきた娘を、二人はどう思うのだろう。
白哉は先に車を降り、両親に一礼した。
「ご無沙汰しております」
「あなた、久我総合病院の――」
両親が目を見開いたから、杏依も慌てて車を降りた。
「杏依さんの手術を担当しました、久我上白哉です」
「お前、まさか娘に――」
父の眉がつり上がった。無理もない、杏依の目は泣きすぎて、赤く腫れあがっている。
「お父さん、違うの! 助けてもらっただけたから」
「……そうか」
『だけ』と言うのは少し違うが、杏依は嫌なことをされたわけじゃない。
白哉はもう一度一礼すると、車に戻り走り去ってしまった。
あ、返しそびれちゃった……。
杏依の手の中には、白哉の家の鍵が握られたままだった。
今日は土曜日。
スカっと晴れた夏の空とは反対に、檜垣家にはなんとも言えない空気が漂っていた。
昼食のパスタを家族で囲みながら、母が口を開く。
「白哉先生と、何があったの? 昨日はお友達と飲み会に行くって――」
「いろいろあって、助けてもらっただけ」
パスタを頬張りながら告げると、父が顔をしかめた。
「いろいろって何だよ」
「ちょっと幻肢痛が酷くなって。たまたま居合わせた白哉先生が、助けてくれたの。家で休ませてくれただけ」
「本当にそれだけか? もう昼過ぎだぞ」
「それだけだよ」
言えるわけがない。ピアノを弾かせてもらった、だなんて。ましてそれ以上のこと――。
「杏依、助けてもらったんでしょう。お礼、持っていきなさい」
「あー……、うん、そうだね」
正直、白哉にはもう会いたくない。けれど、大人として感謝を伝えるべきではある。それに、鍵も返さなくてはならない。
菓子折りでも渡しに行こう。
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