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孤独な天才整形外科医 ③
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「君の執刀の時のことはよく覚えてるよ。白哉が珍しく狼狽えていたからね。でも、結果的には君が腕を切る決断をしてくれて良かったと思ってる」
「え?」
「君の腕を残したとして、機能が元に戻る確率はほぼ零パーセント。あの時既に細菌感染も進行してたから、身体に悪影響を及ぼすのも時間の問題だったと思うし」
「そんな――」
あの無愛想な顔の裏で、彼は狼狽えていた。
当時は憎いとしか思わなかったけれど、彼のピアノを聴いて、幻のような謝罪を聞いて、それは事実かもしれないと今は思えてしまう。
「じゃあどうして、白哉先生は最初から私の腕を切らなかったんでしょうか?」
その時、ガチャリと背後の扉が開いた。
「おい王子、急にこんなところに呼び出して――」
目が合って、ぺこりとお辞儀をした。彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「じゃあ、邪魔者は退散~。白哉、これで貸しひとつだからね。よろしく~」
碧人が爽やかさを纏って去っていく。杏依は、白哉と二人きりになってしまった。
白哉は杏依の隣に座った。
「どうした?」
突然優しい笑みを向けられ、杏依は戸惑った。
「あ、あの! これ、この間助けていただいたお礼です!」
慌てて菓子折りを差し出した。
「サンキュ」
白哉はふっと優しい笑みを零す。杏依の心臓はおかしいくらいに高鳴った。
どうしちゃったの、私!
伸びてきた右手が頭を撫でようとする。杏依は思わずさっと避けた。
「あ、あと、お身体気をつけてくださいね! ずっとオペ続きって聞きました」
「オペ続きはいつものことだから、気にすんな」
けれど、逃れきれずに頭に大きな手が乗る。顔が熱いのは、外の気温のせいだけじゃない気がする。
「あ、あとそれから!」
杏依は鞄に手を突っ込んだ。取り出したのは、白哉の家の鍵。会えたら渡そうと思っていたのだ。
「これ、この間はつい受け取ってしまいましたけど……お返しします」
「ピアノ、弾かないのか?」
聞かれ、つい俯いた。
「だれも弾かねーんじゃ、ただのガラクタになっちまう」
「ピアノなら私の家にもあります」
「でも、弾かねーんだろ?」
杏依は何も言えなくなってしまった。
杏依の家にあるアップライトピアノの上には、プリントや本が乗っている。もちろん、弾こうと思えば弾ける。
けれど、杏依は誰かの前でピアノを弾くなんてできない。完璧な演奏は、もうできないから。
「俺んちなら誰もいねーから。ピアノ、いつでも弾けるように、それはお前に持っていて欲しいんだけど」
「でも――」
いらない、と言おうとしたのに、彼のスマホが鳴った。
「悪い、もう行かないと。わざわざありがとな」
白哉はふわりと笑う。
けれどこちらに背を向けガラスに映ったその顔は、もう強面なお医者様のものになっていた。
「え?」
「君の腕を残したとして、機能が元に戻る確率はほぼ零パーセント。あの時既に細菌感染も進行してたから、身体に悪影響を及ぼすのも時間の問題だったと思うし」
「そんな――」
あの無愛想な顔の裏で、彼は狼狽えていた。
当時は憎いとしか思わなかったけれど、彼のピアノを聴いて、幻のような謝罪を聞いて、それは事実かもしれないと今は思えてしまう。
「じゃあどうして、白哉先生は最初から私の腕を切らなかったんでしょうか?」
その時、ガチャリと背後の扉が開いた。
「おい王子、急にこんなところに呼び出して――」
目が合って、ぺこりとお辞儀をした。彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「じゃあ、邪魔者は退散~。白哉、これで貸しひとつだからね。よろしく~」
碧人が爽やかさを纏って去っていく。杏依は、白哉と二人きりになってしまった。
白哉は杏依の隣に座った。
「どうした?」
突然優しい笑みを向けられ、杏依は戸惑った。
「あ、あの! これ、この間助けていただいたお礼です!」
慌てて菓子折りを差し出した。
「サンキュ」
白哉はふっと優しい笑みを零す。杏依の心臓はおかしいくらいに高鳴った。
どうしちゃったの、私!
伸びてきた右手が頭を撫でようとする。杏依は思わずさっと避けた。
「あ、あと、お身体気をつけてくださいね! ずっとオペ続きって聞きました」
「オペ続きはいつものことだから、気にすんな」
けれど、逃れきれずに頭に大きな手が乗る。顔が熱いのは、外の気温のせいだけじゃない気がする。
「あ、あとそれから!」
杏依は鞄に手を突っ込んだ。取り出したのは、白哉の家の鍵。会えたら渡そうと思っていたのだ。
「これ、この間はつい受け取ってしまいましたけど……お返しします」
「ピアノ、弾かないのか?」
聞かれ、つい俯いた。
「だれも弾かねーんじゃ、ただのガラクタになっちまう」
「ピアノなら私の家にもあります」
「でも、弾かねーんだろ?」
杏依は何も言えなくなってしまった。
杏依の家にあるアップライトピアノの上には、プリントや本が乗っている。もちろん、弾こうと思えば弾ける。
けれど、杏依は誰かの前でピアノを弾くなんてできない。完璧な演奏は、もうできないから。
「俺んちなら誰もいねーから。ピアノ、いつでも弾けるように、それはお前に持っていて欲しいんだけど」
「でも――」
いらない、と言おうとしたのに、彼のスマホが鳴った。
「悪い、もう行かないと。わざわざありがとな」
白哉はふわりと笑う。
けれどこちらに背を向けガラスに映ったその顔は、もう強面なお医者様のものになっていた。
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